「児童の心を追い詰め、自死に向かわせた大きな要因の一つにいじめがある」
2015年10月、豊見城市の小学4年生の男児が自殺した問題で、市教育委員会のもとに置かれた第三者委員会は、自殺の原因をこう結論付けた。
少年を死に追いやった原因と責任を、教育現場は重く受け止めるべきだ。
弁護士らでつくる第三者委がまとめた調査報告書で、男児が受けたいじめとして認定したのは「ズボンを下ろされる」「筆箱をパスして回す」など五つの行為だ。
いじめを「心理的または物理的な影響を与え、児童が心身の苦痛を感じている」と定義する、いじめ防止対策推進法にのっとった認定である。
残念なのは、学校側がこれら行為を「トラブル」と小さくとらえ、必要な対策を講じなかったことだ。
大人にとってささいと思われる冷やかしやからかいが重大な事態に発展するケースは多く、いじめに対する認識が甘かったと指摘されても仕方がない。
さらに発したSOSが見逃されるなど過去のいじめ自殺の教訓も生かされていない。
亡くなる5カ月前に学校が実施した心理検査で、男児はいじめを受けている可能性がとても高い「要支援群」に分類された。
自殺を図る2週間前のいじめアンケートには「いじわるされたり、ぬすまれたりして、いやになって、てんこうしようかなっと思っているんですが、どうすればいんですか」とつづっている。
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いじめアンケートに書かれた切実な訴えに対し、学校側は個別対応していない。本人が特定できなかったためという。
報告書は「最後のSOS信号だった可能性がある」と対応を批判している。
幼い子どもの自殺は動機が分からないことが多く、今回もいじめのほか、傷つきやすい性格や学業不振、大好きだったエイサー団体をやめたことなどが複雑に絡み合っていると考えられる。
確かに「筆箱をパスして回す」などのいじめはよくあると思われるかもしれないが、男児の過去の訴えをひとつひとつ丁寧に拾い、つないでいけば、抱えきれないほどの悩みが見えたのではないか。
救いの手が差し伸べられなかった男児の絶望を思うと、胸が張り裂けそうになる。
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報告書には自己保身ともとれる学校や市教委の対応も記されている。
当初、いじめによる自殺が疑われる「重大事態」と認定しなかったことや、説明が二転三転したことは、調査が遅れた原因にもなった。
さらに遺族を苦しめたのは男児が亡くなった後、インターネットなどを通して広がった根拠のないうわさだ。社会全体がきちんと向き合わなければならない二次被害である。
遺族は「息子の死が少しでもいじめを無くすことに役立つことを願う」とのコメントを発表している。報告書をそのスタートとすべきだ。