◆青葉のキセキ−次代を歩む人たちへ− 第3部 自分らしく生きる 誠悟 心開くまで(下)
「自分と同じように悩む人を助けたい」。仲松誠悟は心を決めた。精神保健福祉士になるため勉強に打ち込む日々が始まった。
高校卒業程度認定試験を受け、20歳で沖縄大学に入学。新しい環境をストレスに感じることもあったが、精神疾患を患う学生を支援する大学のプログラムを利用しながら6年かけて卒業した。精神保健福祉士の資格は取れなかったものの、障がい者の社会復帰などの相談に乗る国家資格「社会福祉士」に合格した。
27歳の時、中部の自治体の出先機関に就職が決まった。LGBT(性的少数者)やDVなどの悩みを持つ人の相談窓口だ。「困っている人を助ける」という目標を実行するチャンスに前のめりになった。しかし、新しい環境の中で、体は思い通りに動かなかった。
「訪れる人たちの悩みは深刻だ。失敗はできない」。のし掛かる重圧を同僚には打ち明けられず、再び体調不良や幻聴が始まった。仕事中、笑い声や「死ね」という言葉が頭の中に響く。10カ月で退職した。
就労支援施設「コミュッと!」を知ったのは、仕事を辞め、家で療養中の頃。障がいなど社会に参加しづらい悩みのある人が、パンフレット作りやホテルの清掃といった就労訓練をする場所だ。約20人の利用者が一軒家で友人同士のように過ごす様子に興味を持ち、定期的に足を運んだ。会話では聞き役に徹することが多い誠悟に、利用者は心の内を漏らすようになっていった。
「人と関わるのが難しい。どう会話していいか分からない」。そんな悩みを吐き出す利用者の言葉にひたすら耳を傾ける。話しているうちに自然と気持ちが整理されていく相手を見ると、誠悟は救われた気持ちになった。
施設で過ごすのに慣れると、冗談も口にできるようになった。周囲が笑うと、誠悟の気持ちも安らぐ。「役に立てている。自分はここにいていいんだ」。いつしか利用者とスタッフのコミュニケーションをつなぐ役割になっていた。
スタッフの松田けい(28)は、誠悟の存在はスタッフにとって「学び」だという。「利用者に接する姿を見ていると、支援の形にもいろいろあるんだという可能性に気付かせてくれる」と話す。
誰かの役に立っていると実感することで、誠悟自身が周囲に心を開いた。病気や引きこもりは、受け入れがたい過去だ。でもあの経験があったからこそ、支援する側とされる側、両方に寄り添うことができる。「自分にしかできないことが見つかった」。ゆっくりだけど、誠悟は前に進んでいる。=敬称略(社会部・松田麗香) 第3部おわり