風評被害はどのように形成され、伝わっていくのか。情報学研究の専門家・関谷直也氏にこれからの対策も含め話を聞いた。
関谷 直也SEKIYA Naoya東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター特任准教授、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター客員准教授。災害情報論、社会心理学、PR・広報論が専門。著書に『風評被害—そのメカニズムを考える』(光文社)。
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野嶋 では、この海外における風評被害の状況をどのように改善していくことができるでしょうか。
関谷 検査結果や検査態勢がどういうものなのか、どれだけ行われているのかを知らせることが、一番の風評被害対策になります。つまり検査状況の周知徹底です。津波の被災地に行けば回復が目に見えて分かりますが、放射能災害は目で見えないので、線量の低下や農業の再開などの事実をちゃんと淡々と伝えていくべきです。「福島は元気になっている」「完全復活した」ということよりも、原発事故直後から現在になって「状況は変わっている」という点を伝え、海外の人々の認識をアップデートしていく必要があります。
今の情報発信の中には、しばしば、一足飛びに美談を伝えようとしているケースもあります。でも、海外だからなおさら単純な事実を伝えることが大事。いきなり美談では理解してもらうことは難しいのです。
野嶋 海外の人にどこを見て情報をアップデートしてもらえばいいでしょうか。
関谷 国内でいえば、福島県庁のホームページ(HP)が一番充実しており、4カ国語の発信になっています。しかし、それでは不十分です。海外の人が、翻訳があるといっても、福島県庁のHPを普通は見てくれません。どうやってプッシュ型で出していけるかが課題です。海外で、福島県産のお米や野菜の販促をやっていますが、一方で、過去には、放射能が検出されたことは事実だけれど、7年が経過し、今はほとんどND(不検出)になっているという証拠をちゃんと伝える努力はあまりしていません。全量検査の検査がほとんどNDなのに、海外の人は「全量検査なんてできるはずがない」と根本的に信じてくれないのです。
こうした状況で「おいしいですから食べてください」といっても受け入れられるのは難しい。それより淡々とファクトを海外に発信してもらいたい。なぜなら、そもそも海外の人たちはファクトに対する疑念があるわけで、まずはそこを正していくことが先だと思います。
ニッポンドットコム・シニアエディター。ジャーナリスト。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。1992年、朝日新聞入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長等を歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)等。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛
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