風評被害はどのように形成され、伝わっていくのか。情報学研究の専門家・関谷直也氏にこれからの対策も含め話を聞いた。
関谷 直也SEKIYA Naoya東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター特任准教授、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター客員准教授。災害情報論、社会心理学、PR・広報論が専門。著書に『風評被害—そのメカニズムを考える』(光文社)。
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野嶋 「福島県産の農産物は不安だ」と回答した人の割合は、台湾が81.0%と最も多く、韓国が69.3%、中国が66.3%で、米国の35.7%、英国の29.3%などと比べアジアで全般的に高かった。これをどう分析するべきでしょうか。
関谷 海外では、福島県産だけではなく、東日本や日本全体への不安も残っています。韓国では、海産物に対して、福島県産で75%が、東日本産で55%が、日本全体で45%が、不安であると答えました。風評被害は福島県だけの問題ではなく、東日本や日本全体についても総じて不安を持っているのです。
台湾、韓国、中国で不安感が強いのは、端的にいえば、距離が近いからです。チェルノブイリ原発事故のときも同様の傾向は出ています。ドイツやスウェーデンなどソ連に近いところが不安感を持ち、厳しい規制や対策を行っていました。近いところほど、放射能災害へ不安になるのは当然の結果で、アジアだけが極端な考え方を持っているということではありません。
基本的に海外で「福島がどこにあるか」と聞いても、知っている人は少ない。福島はどこも飲料水も飲めないぐらい汚染されていると思われています。福島県民が190万人暮らしていることは想像できないでしょう。水が飲めない、人が住めない、そんな認識です。日本人は、福島で検査が行われ、出荷が制限されていることも聞いているので、不安も低くなっているのです。
野嶋 各国のメディアの伝え方が極端に不安をあおるような情報を伝えているため、こうした結果になっているのではないか、という問題点も指摘されています。
関谷 アジアだけ特に情報リテラシーが低いというようなエビデンスはありません。確かに、メディアということで言えば、アジアだけではなく、ヨーロッパでも、福島のニュースも結構センセーショナルに伝えられています。そうしないと、マスメディアでのニュース価値がないからです。違いがあるとすれば、アジアでは情報量やインターネットの書き込みが多く、関心度が高いことはあるでしょう。
海外が福島を悲観的に取り上げるのは、ジャーナリズムは問題があるというのを取り上げるのが当然で、福島第一原発近くの大熊町、双葉町、浪江町に取材に行って、地元の人々が戻りたくても戻れない状況を取材するのが当然であるともいえます。農作物の生産が戻って人々が普通に生活していること、そもそも線量が全体として下がっている事実などを、メディアは伝えようというモチベーションがない。これは避けがたい問題として存在しています。
ニッポンドットコム・シニアエディター。ジャーナリスト。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。1992年、朝日新聞入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長等を歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)等。オフィシャルウェブサイト:野嶋 剛
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