呉の名物「海自カレー」は、なぜ成功したのか
海上自衛隊調理員が店舗に直接作り方を伝授
先日、広島県の呉市を訪問してきた。呉は、横須賀、佐世保、舞鶴と並び、旧海軍の鎮守府が設置された“旧軍港市”であり、2016年4月には、「海軍とともに歩んだまち」「日本近代化の躍動を体感できるまち」として、文化庁から日本遺産の認定を受けた。
呉には、10分の1サイズで忠実に再現した戦艦大和を中心に、零式艦上戦闘機(ゼロ戦)六二型や人間魚雷「回天」等の実物資料を展示する「大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)」や、建物前面に据え付けられた本物の潜水艦がシンボルになっている「てつのくじら館(海上自衛隊呉史料館)」、さらに、海上自衛隊呉基地や旧海軍の戦艦大和建造ドック跡地などを遊覧船で巡る「呉艦船めぐり」などさまざまな観光資源がある。
また、見学には事前申請が必要であるが、原則毎週日曜日には海上自衛隊の呉地方総監部の庁舎や艦艇、旧日本海軍地下作戦室などの公開も行われている。
このように見どころが多い一方で、食べ物に関しては牡蠣(かき)や、レモンをはじめとする柑橘類の栽培が盛んなほか、軟水を使った地酒なども作られているものの、同じ広島県内の観光地である広島市の「広島風お好み焼き」や尾道市の「尾道ラーメン」のような、インパクトのあるグルメがなかった。
そんな中、2015年4月3日にスタートしたのが、「呉海自カレー(以下、海自カレー)」だ。海自カレーとはもちろん海上自衛隊カレーの略であり、海上自衛隊のカレーを忠実に再現したもので、現在、呉市内の30店舗で提供されている。
本稿では、この海自カレーの“生みの親”ともいうべき、呉市産業部観光振興課の濱田亜希子さんに話をうかがい、海自カレーが人気グルメになった理由を探ってみた。
「海軍カレー」と何が違うのか
この海自カレーがどのようなものなのかを説明するには、似たようなものと思われがちな神奈川県横須賀市の名物「よこすか海軍カレー(以下、海軍カレー)」と比較するとわかりやすいかもしれない。
2014年度に実施した「全国ご当地カレー知名度調査」(カレー総合研究所調べ)で知名度ナンバーワンになった海軍カレーは、明治41年に発行された「海軍割烹(かっぽう)術参考書」に記載されたカレーライスのレシピに基づいて、旧海軍で食べられていたカレーを再現したものだ。