「なぜルパンはクラリスを連れて行かなかったのか?」
どうも宮崎駿監督は、これを散々ファンに聞かれたらしいんですよ(笑)。
で、『あれから4年…クラリス回想』という本の中で、めちゃくちゃ愚痴っています。
「ルパンは何でクラリスを連れて行かなかったんですか?」とか。
あと「私だったら、付いて行きます!」とか。
「俺だったら連れて行く!」という人が、もう、いっぱいいるんですけども。
でも「違う!違う!違う!違う!」って、散々 言ってるんですね。
たぶんね、もう「エヴァはどうなりますか?」と聞かれる庵野くんぐらいの回数をですね、宮崎さんは善良なファンにずーっと聞かれたみたいなんですけども(笑)。
・・・
それで『あれから4年…クラリス回想』の一番 最後のインタビューで宮崎さんは こう語っています。
「なぜ連れて行かないのか?」という人がいっぱいいると。
「私だったら付いて行く」という人もいると。
その気持ちも分かると。
けれども相手の迷惑を考えずに、その時の高ぶった感情で行動するのが本当に正しいのか? と。
本当に その人らしい、自分に忠実な生き方なのか?
というふうに、まぁ宮崎さんは大人の説教を、大人げなくアニメファンに かますわけですけども(笑)。
まぁ、言わんとしている事は分かるんです。
じゃあ僕らは、作者がそれを言う権利があるんだったら、見てる側は妄想する権利があるわけですね。
もしクラリスが、本当に付いて行ってしまったら どうなったのか?
これを考えた人は、あんまりいないんですよ。
「泥棒は出来ないけども、きっと覚えます」と言ったクラリスを、本当にルパンが連れて行ってしまったら どうなるのか?
おそらくですね、クラリスは不二子になるんですね。
ドーラがシータの成長した姿であるように、ルパンの相棒として、強(したた)かで対等な存在になったに違いないんですよね。
だから本当は宮崎さんは、3月11日(#221)のニコ生ゼミでも話したとおり、この『ルパン三世 カリオストロの城』に峰不二子と石川五ェ門は出したくなかったんですね。
何でかって言うと、“峰不二子” っていうクラリスの将来の姿っていうのを、やっぱり出したくなかったからなんですね。
でも「出せ」って言われたから、仕方なく出すしかなかった。
そこで奇跡のシーンが生まれます。
これですね。
Cパートでクラリスと不二子が直に会話するシーンがあるんですよね。
それで「あの方をご存知なの?」というふうにクラリスが聞くと「ウンザリするほどね」というふうに不二子が答えます。
「時には味方、時には敵。 恋人だった事もあったかな」と言って、「彼、生まれつきの女たらしよ。 気をつけてね」というふうに不二子が言うと、クラリスが「捨てられたの?」と心配そうに聞きます。
すると不二子は笑って「まさか! 捨てたの」というふうに答えます。
ま、すごい大人っぽい やり取りなんですけども。
「恋人だった事もあったかな」と言われて「別れたのか」と思った瞬間に、クラリスには「捨てられた」しか思い付かないんですね。
男女が対等の存在であって、自分が あの “おじ様” と いつかは言い合いをするような関係になるって事が まったく思い付かないので、「飽きられて捨てられた」しか思い付かない。
これが「この時点でのクラリス」の限界なんですけども。
「自分が、いつかルパンを捨ててしまう」という可能性を、最初(はな)っから思いついて無いんですね。
で、ここのシーンで最初は予定に無かった不二子を登場させる事で、クラリスは もう一人の 「あったかもしれない自分」の未来に出会うわけですね。
ルパンの影(シャドウ)であるカリオストロの伯爵と同じように、実は峰不二子はクラリスの将来のシャドウ。
「もし、本当にクラリスを連れてっちゃったら、どうなったか?」という形で出ているんです。
・・・
では、もう一つの可能性ですね。
ルパンがカリオストロに残っちゃったら どうなったのか?
二つ可能性があるんですよ。
つまり、「ルパンがクラリスを連れて行ったら どうなったのか?」という事と、そうじゃなくて ルパンが残ったらどうなったのか。
そんな可能性が無いって事は無いんです。
実はそのシーンがラストにあってですね。
最後に「なんと気持ちのいい連中だろう」って おじいさんとかが言ってるときに、ルパンはフィアットで ものすごい落ち込んでるんですね(笑)。
全然 晴れ晴れとしていないんですよ。
これは「あなたの心です」の後なんですよ(笑)。
「あなたの心です」って言われた後でクラリスは「はいっ!」って晴れ晴れとした顔で言ってるのに、ルパンは ものすごい落ち込んでる。
それで次元に「いい子だったなぁ。 お前、残ってもいいんだぜ?」って言われちゃうんですよね(笑)。
で、この「残ってもいいんだぜ」っていうセリフ終わりで、後ろから、背後から、バイクがこの車を追い抜いていきます。
これがメチャクチャ上手い。
落ち込んだルパンに、次元の「お前、残ってもいいんだぜ」に、ルパンが「そんなワケにいくか」とか「バカ言うな」って言うんじゃなくて、峰不二子の影を見せちゃう。
やはり、これがシャドウである証拠ですね。
峰不二子の影を見つけて、それがルパンたちを追い抜いていって、追い抜いていったそのバイクの後部座席にはニセ札の原版がある。
それを見た瞬間に、ルパンは生き返るんですね。
生き返って、元気を取り戻して、それで不二子が「じゃぁねぇ~」って言ったら、「あらら、ちょっとお待ちなさいってばぁ~」というふうに、いつものルパンになって元気になる。
考え込んで落ち込んでいるルパンに新たな目標を、というよりハッキリ言って、これまでと同じニセモノを追いかける日常っていうのを峰不二子が提示するわけですね。
それでルパンは、本物を求める辛さより、ニセモノをこれからも追いかける日常に戻る事を選んで、不二子を追いかけるっていうですね。
そんなメチャクチャ切ない話を宮崎駿は作ったんですよ。
そんなのですね、女子供では気が付かないから、アイドルのお姉さんとかは適当に「ルパンみたいな人が理想です!」とか「あんな恋がしたい!」とか言ってるけど、違うんですよ。
中年男の視点から見たら、そんな辛い話なんですよね(笑)。
・・・
さて、ここの「残ってもいいんだぜ」というのは、もちろん次元のセリフというよりは、ルパンの内面のセリフです。
じゃあもし、次元に言われるまでもなくルパンが残ったらどうなったのかですね。
クラリスを連れて行くわけにはいかない。
それはクラリスを不二子にしちゃうからですね。
もしルパンが残ったら、クラリスと結婚したかどうか分からないけども、まぁ結婚して、カリオストロ公国を再建する事になるんでしょう。
その再建の方法はニセ札をやめて、切手印刷などの平和産業に切り替えて、ローマ遺跡を観光遺産として残すということなんですけども。
実は これ全部、カリオストロ伯爵が生きてたら やっていた事と、まったく同じなんですね(笑)。
ひょっとしたら、この「残ってもいいかもしれない」というのは、10年前のギラギラしたルパンだったら、次元たちと出会う前のルパンだったら やっていたかもしれないんですよ。
ルパンとカリオストロ伯爵というのは、本当にシャドウの関係であってね。
10年前の「俺、バカやってた」という、掃除機でお金を吸い取って美女をはべらせてた頃のルパンだったら、一国のお姫様から「私も一緒に連れて行ってください」って言われてたら。
ひょっとしたら、「じゃあ俺、お前の国に行って一緒に政治をやってやるわ」 という事で、国を盗むって事も考えたかもしれない。
でも、それをやっちゃうと、「俺とカリオストロ伯爵って、どこが違うんだ」 と。
「目の前の女の子に、好かれてるか どうか だけの差で、やっている事はまったく同じじゃないか」という事になっちゃうわけですね。
だから、少なくともルパンにとっては「アイツ(カリオストロ伯爵)とは違う」 と。
「まっとうな人の影で生きてようと、まっとうな人の上に立ったりはしないんだ」 と。
これが10年間、少なくとも泥棒人生の中でルパンが得た、本当に わずかばかりの見栄とプライドみたいなものなんですね。
ルパンが残っちゃえば、カリオスロト伯爵になっちゃうわけですから。
だから、ルパンとクラリスの道は、交わらないんですね。
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この記事は『岡田斗司夫ニコ生ゼミ』3月18日(#222)から一部抜粋してお届けしました。
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