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「呼吸 鼻呼吸VS口呼吸」  ( 10月: 阿部哲夫 相談員 )


  産業の現場において労働者が有機溶剤、特化物などの有害物質に曝露する場合、人体への吸収の経路としては皮膚、消化器、呼吸器などがありその中でも呼吸器をとうして吸収されるものが最も多いといわれています。
  有害物質の中でかなりのものは口腔内即ちお口の中に特有の症状を表すものがあります。その代表的なものが歯牙酸蝕症と呼ばれる職業性の疾患です。
  歯牙酸蝕症は、硫酸などの酸のミストを吸い込んだ時にミストが歯の表面に接触して歯のエナメル質を脱灰しておこす疾患です。安衛法66条第3項の規定により歯及びその支持組織に有害な物質を扱う事業所では半年以内に1度の歯科医師による特殊健康診断を行うことが義務づけられています。
  事業場の特殊健康診断を行う際に、呼吸器から体内に吸収される有害物質とお口の中の症状を考えた時に'呼吸は鼻'でするもの'お口は食事をとるための器官で呼吸のための器官ではないでしょう'と思いつつ健康診断を行っていました。
  1つは、同じような職場環境で酸のミストに暴露している方でも症状の現れ方は異なります。これにはいろいろな要因が関係していることは確かです。歯牙の酸蝕症に関してはお口の中の脱灰に対する再石灰化の機能が大きく関与していることは十分に考えられます。しかし呼吸のほうが症状の現れ方に著名に影響を及ぼすのではないか、作業中に正しい呼吸=鼻呼吸をしていたならば、酸のミストは歯の表面のエナメル質に接触する可能性は少なくなり酸蝕症にもならないはずでは。また酸蝕症に限らず正しい呼吸をすることが有害物質の体内吸収を軽減する最初の対策なのではなどと考えながら特殊健康診断をしています。
  2つ目は、産業保健で働く人たちの安全と健康を守るための有効な手法として作業環境管理、作業管理、健康管理が労働衛生管理の基本的対策で労働衛生3管理と呼ばれ行われてきました。作業管理の作業手順書の作製の前に労働衛生教育の前に、作業環境管理で作業場の現場の状況の把握のための作業環境測定を行うが如く、人の本来持っている人体の機能、正しい呼吸=鼻呼吸の指導が作業管理、健康管理のベースにあってもいいのではなどと具にもつかないことを考えながら半年に1度の特殊健康診断をしています。
  私たちの体は正しい使い方をすれば健康が保たれるようにできているようです。
  私たちは、体を使って生活をなりたたせています。その時に体を偏って使うことがつきもののようです。これが日常化するとその人の「癖」となります。そのくせは体が正常に機能することを妨げるようです。たとえばお口の中では片方噛み(片側咀嚼)の癖のある方は顎の痛み、顔のゆがみ、頭痛、肩こりなどの症状を誘発します。片側咀嚼という噛み癖は人のからだに様々な影響を及ぼします。口呼吸という癖もからだに様々な影響を及ぼします。
  正しい呼吸=鼻呼吸と誤った体の使い方による呼吸=口呼吸の違いは『舌の位置』が決めます。
  鼻呼吸のメリットは、*吸い込んだ空気が程よい暖かさと湿気を帯びて肺におくられます。*空気中のほこりや花粉さらには細菌やウイルス等体に悪い影響を及ぼす物質を濾過します*鼻を通過した空気は上咽頭に達し鼻腔で補足できなかった異物もここで補足され上咽頭と咽頭のリンパ組織で処理されます。ワイダイエルのリンパ輪が気道への異物の侵入を防いでいます。*正しい鼻呼吸では吸気鼻の穴の上方を呼気歯鼻の穴の下の方をとうります。吸気は鼻腔で適度な湿度と温度を得ると同時に脳の活動で生じる熱をクールダウンしています。
  口呼吸のマイナス面は正しい鼻呼吸のメリットが受けられなくなります。*口から入った空気はお口の中の水分を奪います。*口から入った冷たく、湿気のない空気は肺胞の粘膜の働きを悪くし酸素と二酸化炭素の交換の能率を下げ、酸素の吸収量が減ります。*肺に届く以前に冷たく乾いた空気は咽頭や喉頭を通過する際に粘膜を刺激し痛めます。*粘膜を痛めるだけにとどまらず異物をブロックするはずのリンパ組織自体が痛めつけられ炎症を起こし炎症性細菌のたまり場になり十分な免疫機能を営めなくなる。*上方咽頭、咽頭のリンパ組織の機能の低下のみならず炎症を起こしたリンパ節は病巣感染の原発病巣となり全身に影響を及ぼします。
  哺乳類は、ほとんどが鼻で呼吸をします。鼻は呼吸のため、口は食べるためにあります。ところが進化の過程で言葉を使うようになってから、食道と気道が交わるようになり呼吸をする際に鼻だけではなく、口も空気の入り口として使うことが可能になったようです。哺乳類の中で1歳以上の人間だけが口でも呼吸ができるようになりました。どうも言葉を獲得した代償としての食道と気道の交差は、むせったり、誤嚥や口呼吸の習慣をもたらす欠陥構造だったようです。
  「生きる」とは「息をする」と言葉が詰まった表現で、呼吸をすることは生きることそのものです。正しい呼吸を日常の生活で行うためにはどうしたらよいのでしょう。正しい呼吸と口呼吸の分かれ目は舌の位置ということになります。
  口呼吸のほとんどすべての方が「低位舌」です。低位舌はベロの先端が下の歯の裏側かそれよりも下の下の歯ぐきを触っている状態をいいます。歯の治療ではお口の開いた状態を数十分キープしていただきます。この時お口の中に唾がたまったりお水がたまったりするとすぐに苦しいと訴えられうがいをとおっしゃる方がおいでになります。正しい鼻呼吸ができない方がこの様な状態になります。治療後に楽になった状態で「今ベロの位置は?」とお尋ねすると必ず低位舌の舌尖の位置にあります。
  正しい舌の位置はといいますとベロ全体が上あごの天井にペタッと吸い付いた状態(舌尖は切歯乳頭の後方で舌背全部が硬口蓋に隙間なく接触している状態)をいいます。皆さんにこのお話をするとほとんどの方が「そんな話聞いたことない。」「そんなこと出来る筈もない。」とおっしゃいます。実際にやっていただくとベロの先で上の前歯裏側を触るのが精一杯で舌背全体を上あごの天井にペッタとつけるなどほとんど想像を超えたことのようです。
    歯科の領域には口腔機能回復のための補綴の分野だけではなく、今回ご紹介する「口腔筋機能療法」のようなリハビリテーションの分野もあります。
    口腔筋機能療法=MFTは口腔周囲筋の不調和があると咀嚼、嚥下、発音など口腔の持つ基本的機能に問題が生じる、機能が保たれるように口腔周囲筋の弛緩や異常緊張を取り除くとともに正しいバランスを作り出しそれを維持しようとする治療法です。このような歯科と関連性のある口腔周囲筋の不調和は舌癖や異常嚥下癖などと呼ばれてきました。口腔筋機能療法は舌癖のトレーニングとも呼ばれています。
  今回はこのMFTを正しい呼吸のための舌の位置の改善に使おうというおはなしです。
  MFTのトレーニングはレッスン1からレッスン8までありますがその中で多少乱暴ですがただ1つだけ選んでみました「オープンアンドクローズ」です。舌の正しい位置が実感でき正しい位置の強化につながります。数回やっただけで鼻の通りが良くなります
  「オープンアンドクローズ」
  舌全体を口蓋に吸い付け 口を大きく開け 舌小帯を十分に伸ばし
  (ベロを吸い付けたまま あいてとじてを30回)

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