北朝鮮の朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は最近の論説で、ドナルド・トランプ米大統領を皮肉たっぷりに褒め殺していた。精神科病院に閉じ込めろと言わんばかりの憤慨した調子で、トランプ氏について「間抜け」「年老いた奇人」などと書き立てている。
だがこれらの表現に交じって「ギャングの親玉」と呼ぶなど、同氏への違った見方もうかがえた。文字通りのギャング国家を営んできた金王朝の指導者たちは、3代にわたり米国から対等に扱われることを熱望してきた。西側と取引をするのならば、北朝鮮はトップと会談したいのだ。
トランプ大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長からの会談の要請を受けたことで、米国の北朝鮮問題に関わる外交官や工作員、そして海外当局者の中には複雑な気持ちになる者もいる。北朝鮮のペースに乗せられたと考えるからだ。
金氏の申し出は韓国の大統領特使を通じて米国側に伝えられた。北朝鮮による正式な発表はまだだが、金委員長は北朝鮮の安全が保証されることと引き換えに核兵器廃絶について協議する用意があると伝えられている。
ジョージ・W・ブッシュ政権で官僚を務めていたある人物は、「北朝鮮との交渉経験がある人間ならば、誰もがある時点で首脳同士の会談が必要になると理解するだろう」と話す。なぜなら北朝鮮側で決定を下せる人物は1人しかいないからだ。元官僚はそう言って、トランプ大統領と金委員長の首脳会談を慎重かつ楽観的に考えるべきだとした。
だが朝鮮問題の専門家たちは、会談に応じること自体が、大きな譲歩であったと懸念している。
■制裁続けば存続不能と「予測」か
一方で、北朝鮮を交渉のテーブルに着かせたのは厳しい制裁措置の成果だと主張するのは、トランプ大統領の支持者たちだ。トランプ流の脅し文句で中国やロシアなどが重い腰を上げ、北朝鮮との貿易縮小に動いた結果が今回の会談実現に結びついたと考える。
米国務省でアジア問題を専門としていたエバンス・リビア氏などのように、悲観的な理由から会談が実現したとみる者もいる。彼らは、北朝鮮が対話の扉を開いた理由を、制裁がこれ以上強化されると金政権が政治的にも経済的にも存続不能寸前の状態にまで追い込まれると「予測した」からだとみている。
今回の制裁は、前回北朝鮮が核開発中止を約束した2005年当時よりも大きな圧力がかけられている。05年には経済支援を受けること、米国が北朝鮮を侵略しないことを条件に、国際監視下で核開発計画を廃止するとした。だが今でも核開発を続ける北朝鮮は当然ながら当時の約束を守っていない。
にもかかわらず、米国家情報長官を務めたジェームズ・クラッパー氏は米朝首脳会談の実現に価値を見いだしている。同氏は「北朝鮮が安全を感じるには何が必要なのか、我々は金委員長本人から聞く必要がある」と主張する。
北朝鮮は、権力を握る人間の力を信じている、と言うのは米中央情報局(CIA)の元局員、ジョセフ・デトラニ氏だ。同氏は03~06年に米国特使として北朝鮮との多国間軍縮協議に関わった。当時を振り返り、北朝鮮の外交官たちは議論や口論をしながらも「そちらの大統領が我が指導者と会えばこんなにもどかしい手順を踏まなくても簡単に話がつく」と言って当時のブッシュ米大統領との会談を迫ったという。
■誰もトランプ氏に忠告せず
最も楽観的な見方をする人々は、ニクソン元大統領が中国と国交正常化交渉を始めたときのような幕開けの到来をトランプ大統領に期待している。