CA1915 - 公共図書館への継続的な寄付の事例―寄付は地域の図書館を元気にする― / 嶋崎さや香
カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日
CA1915
公共図書館への継続的な寄付の事例
―寄付は地域の図書館を元気にする―
大阪樟蔭女子大学:嶋崎さや香(しまざきさやか)
2016年度、日本国内の公共図書館全体の資料費予算は279億2,309万円であった。これを10年前と比較すると、8.4%の減少となる。この間に、公共図書館(以下、図書館とする)の数は198館増加していることから、各館の資料費はこの数値以上に削減されている(1)(2)。
こうした予算削減が進む中で、図書館では様々な資金調達が試みられている。例えば2008年にスタートした、いわゆる「ふるさと納税」では、寄付金の使用目的の選択肢に図書館支援を含める地方公共団体もでてきた(3)。他にも事業への賛同者から資金を集めるクラウドファンディング等も登場している(CA1917参照)(4)。いずれも新しい制度を活用した資金調達方法である。
しかし、このような図書館側からの新しい資金調達の方法が試みられる一方で、利用者側から図書館に寄付金という形で支援が寄せられた例も数多く存在する。以下では、地域の住民や企業が継続的に図書館とその活動を支援している例について紹介していく。
1. 地域住民による支援活動
まずは、地域住民からの寄付を紹介していく。
(1) 尾鷲市立図書館
尾鷲市立図書館(三重県)には、市民からの寄付で購入された資料からなる「寿文庫」がある。この文庫、その集め方が一風変わっている。寄付に参加できるのは厄年と、喜寿や米寿などの「祝い年」を迎えた市民だけなのだ。
尾鷲では厄年にたくさんのお金を使うことが、厄払いにつながるとされ、神社や寺での「まき銭」や、料亭での派手な宴会などが盛んに行われるという。こうした風習からヒントを得て始まったのが、「寿文庫」の活動である(E1975参照)(5)。
1966年に「寿文庫」運営委員会が発足して以来2017年までの52年間で、参加者は約6,090人、2,262万円以上が集められ、1万2,000冊を超える書籍が購入された。キャッチフレーズは「厄落し、長寿のお祝いは寿文庫へ」(6)。地域に根付いた風習に、図書館の応援という新たな選択肢を付け加えたユニークな取り組みが行われている。
(2) 横浜市港北図書館
横浜市港北図書館(神奈川県)では、「港北図書館友の会」の協力を得て蔵書の充実をはかっている。ただし、集めるのはお金ではなく「古本」。市民から寄せられた古本で市を開き、その売り上げを寄贈書の購入に充てるのだ。
2012年の活動開始から、2万4,961冊の古本が収集された。資料として活用できる本は図書館に寄贈され、その他を古本市で市民に販売している。これまでに売上金は20万円を超えている(7)。
友の会の活動は、蔵書を充実させるという支援にとどまらない。「読書サロン」や「ビブリオバトル」などの活動を通じて、図書館と地域の人びとを緩やかに結びつけることにも成功している(8)。こうした連帯が図書館への愛着や共感を生み出す可能性にも注目したい。
(3) 二宮町図書館
二宮町(神奈川県)では、2009年に「図書館基金条例」を施行し「図書館基金」を設置、運営している。募金は役場窓口だけでなく、二宮町図書館におかれた募金箱からも可能だ(9)。2016年までに書籍約500冊、DVD35点が購入された。
同館が発行する『図書館だより』69号(2017年5月15日)には、図書館に置かれた募金箱にお金を入れる利用者の姿を目にするたびに「ご期待に添える図書館でありたい」という思いを強くする、との図書館からの言葉が添えられている(10)。ちなみに2017年6月には募金額が1,000万円を突破した(11)。
2. 地域企業による支援活動
続いて、地域企業からの寄付について紹介する。
(1) 伊賀市上野図書館
地域への支援を表明する寄付として、例えば会社の創業年数にちなんだ金額を、地域の図書館に贈り続けている企業がある。伊賀市(三重県)の自動車整備販売会社、株式会社小川モータースだ。「想像を膨らませることができる本の世界を、子どもたちにたくさん親しんでほしい」という同社会長の希望により、2015年から伊賀市上野図書館に寄付を続けている(12)。同館には「小川モータース四礼文庫」が設置されている。
(2) 太宰府市民図書館・みやき町立図書館
福岡市(福岡県)に本社を持つ日之出水道機器株式会社は、1994年より太宰府市民図書館(福岡県)に寄付を行っている。その総額は2017年7月時点で890万円、いずれも図書購入費に充てられた(13)。
さらに同社は工場や研究所を置く、みやき町(佐賀県)にも寄付を行っており、購入された書籍は6,000冊を超える(14)。蔵書数7万冊規模のみやき町立図書館にとって、大きな資金源となっている(15)。地域社会に必要な教育の場を充実させるために、企業が深く関わっている事例と言える。いずれの図書館にも「ヒノデ文庫」が設けられている。
(3) 宇佐市民図書館
宇佐市(大分県)に本社がある三和酒類株式会社は、1985年以来「図書費」の名目で100万円の寄付を続けている(16)。また1998年には図書館建設費1,000万円を寄付するなど、その総額は4,200万円にのぼる。同市は寄付金をもとに「基金」をつくり、地域に関わりのある作家、画家の資料を収集すると同時に、郷土文化に関する資料の出版にも力を入れている。収集、出版された資料は「三和文庫」として図書館に保管され、その一部は閲覧や貸出が可能である(17)。
実はこの三和文庫、宇佐市民以外もその恩恵にあずかることが出来る。同館のデジタルライブラリーには、宇佐市に本籍のあった作家・横光利一の写真や直筆原稿、名刺などが公開されている(18)。
(4) 各地の信用金庫
最後に、地域の活性化を社会的使命として掲げる信用金庫による事例をいくつか紹介したい。大田原信用金庫(栃木県)は2007年から2015年までに、「児童図書文庫(だいしん文庫)」の資料や書架の購入費として、総額650万円を那須塩原市(栃木県)の図書館に寄付してきた(19)。また妙高市(新潟県)に本店をおく新井信用金庫は、1978年に「将来を担う青少年のためになる事業を行いたい」と、妙高市の図書館及び市立の小・中学校の図書購入を支援する「青少年図書充実基金」を設立した(20)。寄付総額は2,000万円、2011年までに1万7,000冊を超える図書が購入されている。同じく新発田信用金庫(新潟県)は、聖籠町立図書館(新潟県)に対して、2015年から10年間、寄付を行うことを約束した(21)。
最後に
ここまで地域の住民や企業から、公共図書館に対して継続的に行われている寄付活動をいくつか紹介してきた。地域の風習を取り込みながら寄付を集める方法、イベントを企画し資金を集める方法、企業が「地域文化発展」のため拠出する場合など、その主体や方法、目的は様々である。
このような、図書館が地域の住民や企業から、活動支援を受けるあり方は、近年に限ったことではない。例えば近江八幡市立図書館(滋賀県)の例を見てみよう。同館の始まりは1904年開設の八幡文庫であるが、文庫開設に当たって地域の篤志家から寄付や寄贈を募っていたことがわかっている(22)。また県立長野図書館の母体となった信濃図書館(1907年)も、開館にあたって、寄付や寄贈を募っている(23)。
もちろん企業人による支援の例もある。例えば1904年に開館した大阪図書館(現在の大阪府立中之島図書館)の建築・資料購入費は、住友財閥の住友友純氏による寄付で賄われた。住友氏による支援は開館後も継続している。例えば1922年には図書館増築のための寄付を、また計8回、合計2万6,902冊におよぶ資料の寄贈も行っている(24)。
明治後期から大正期は、各地に図書館が作られた時期である。このとき地域発展のために図書館が必要だと声をあげ、率先して寄付や寄贈を行った人々がいた。こうした人々の声や支援により誕生した図書館の中には、蔵書や建物などが現在へと引き継がれたものもある。
公共図書館を存続、発展させるためには、地域住民や企業からの息の長い支援が不可欠である。またこうした支援が、コミュニティを文化的に充実させ、暮らしをいっそう豊かにするものと考えられる。
(1)日本図書館協会図書館調査事業委員会編. 日本の図書館 統計と名簿2016. 日本図書館協会, 2017, p. 24-25.
(2)日本図書館協会図書館調査事業委員会編. 日本の図書館 統計と名簿2006. 日本図書館協会, 2007, p. 22-23.
(3)“「ふるさと応援寄附」を活用して行う県の取り組み”. 和歌山県.
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/furusato/kifumenu.html, (参照 2018-01-10).
(4)例えば『LRG』3号(2013年春)や『現代の図書館』51巻3号(2013年9月)、『図書館雑誌』108巻7号(2014年7月)などでも、クラウドファンディングを含めた様々な資金調達の特集が組まれている。
(5)厄払い銭まく代わり本に寄付. 朝日新聞. 2015-01-12, 朝刊[名古屋], p. 26.
(6)“寿文庫50周年記念事業 寿文庫ポスターコンクール”. 尾鷲市.
https://www.city.owase.lg.jp/cmsfiles/contents/0000011/11326/konnku-ru-youkou.pdf, (参照 2017-12-20).
(7)“古本市(蔵書支援)”. 港北図書館友の会.
https://sites.google.com/site/kouhokutosyokan/oshirase/morebooks, (参照 2017-12-20).
(8)“活動報告”. 港北図書館友の会.
https://sites.google.com/site/kouhokutosyokan/--tomonokai-go-an-nai, (参照 2017-12-20).
(9)“図書館基金”. 二宮町図書館.
https://www.ninomiya-public-library.jp/index?2&pid=53, (参照 2017-12-20).
(10)特集, ありがとうございます!図書館基金. にのみやまちとしょかん 図書館だより. 2017, (69), p. 1.
http://www.ninomiya-public-library.jp/images/upload/no69.pdf, (参照 2017-12-20).
(11)@ninomiya_lib. Twitter. 2017-06-13.
https://twitter.com/ninomiya_lib/status/874547137559674881, (参照 2018-01-10).
(12)児童書買って 伊賀市に6万6千円寄付 小川モータース. 朝日新聞. 2015-11-11, 朝刊[伊賀], p. 27.
児童書購入費を寄付. 朝日新聞. 2017-10-16, 朝刊[伊賀], p. 29.
(13)寄附金をいただきました. 太宰府市民図書館 としょかんだより. 2017, 平成29年7月号, p. 1.
https://www.library.dazaifu.fukuoka.jp/download/tayori/201707/tayori-11.pdf, (参照 2017-12-20).
(14)“みやき町に500万円寄付 日之出水道機器”. 佐賀新聞. 2017-06-08.
http://www.saga-s.co.jp/articles/-/100653, (参照 2017-12-20).
(15)日本図書館協会図書館調査事業委員会編. 日本の図書館 統計と名簿. 2016, 日本図書館協会, 2017, p. 58-59.
(16)三和酒類:文化事業支援、今年も100万円 宇佐市に寄付.毎日新聞. 2017-07.25, 朝刊[大分], p. 26.
(17)今年も図書費寄付 宇佐の三和酒類. 朝日新聞. 2007-05-29, 朝刊[大分], p. 31.
“三和文庫 出版物ご案内”. 宇佐市.
http://www.city.usa.oita.jp/soshiki/43/607.html, (参照 2018-01-10).
(18)“デジタルライブラリー”. 宇佐市民図書館.
http://www.usa-public-library.jp/cgi-bin/digital/index.cgi, (参照 2017-12-20).
(19)“大田原信用金庫寄附贈呈式(受領式)について”. 那須塩原市.
https://www.city.nasushiobara.lg.jp/02/documents/290119_7.pdf, (参照 2017-12-20).
(20)“新井信用金庫(新潟県) 青少年図書充実基金への支援”. 一般社団法人全国信用金庫協会.
http://www.shinkin.org/kouken/prize/15times/02.html, (参照 2017-12-20).
“新井しんきんの沿革”. 新井信用金庫.
http://www.shinkin.co.jp/arai/about/enkaku.html, (参照 2018-01-10).
(21)新発田信用金庫様から寄付をいただきました。. 社会教育だより. 2017, (399), p. 12.
http://www.town.seiro.niigata.jp/s_tayori/2017/syakyou201708.pdf, (参照 2018-01-10).
(22)嶋崎さや香. 教育会図書館の社会的意義 : 滋賀県八幡文庫(1904~1909)を例に. 図書館界. 2015, 67(1), p. 2-17.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.67.1_2, (参照 2018-01-10).
(23)嶋崎さや香. 図書館設立過程と地域社会:信濃図書館を例として. 京都大学大学院教育学研究科紀要. 2016, (62), p. 115-127.
http://hdl.handle.net/2433/209929, (参照 2018-01-10).
(24)『中之島百年―大阪府立図書館のあゆみ』編集委員会編.中之島百年―大阪府立図書館のあゆみ. 大阪府立中之島図書館百周年記念事業実行委員会, 2004, 385, 90p.
“大阪府立中之島図書館 前編”. 住友グループ広報委員会.
http://www.sumitomo.gr.jp/history/related/masterpiece/nakanoshima-lib_01/, (参照 2018-01-10).
“大阪府立中之島図書館 後編”. 住友グループ広報委員会.
http://www.sumitomo.gr.jp/history/related/masterpiece/nakanoshima-lib_02/, (参照 2018-01-10).
[受理:2018-02-02]
嶋崎さや香. 公共図書館への継続的な寄付の事例―寄付は地域の図書館を元気にする―. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1915, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1915
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062619
Shimazaki Sayaka
Case of Continuous Donation to Public Libraries
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