九州新幹線長崎ルートを巡ってフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)の導入が事実上困難になったのを受け、現行計画での実施を求める佐賀県に困惑が広がった。国土交通省の試算結果で費用対効果が最も高かった全線フル規格化に対し、山口祥義知事は「お話にならない」と一蹴し、勢いづく待望論への警戒を強めた。
県は時間短縮が見込めない長崎ルートの整備理由に関西・中国方面からの人の流入効果を挙げていたが、国交省がFGTの山陽新幹線への乗り入れを否定する見解を示して理由の前提が揺らいだ。山口知事は、暫定開業で武雄温泉駅が新幹線と在来線の全てが停車する乗換駅になることを挙げ、「今の条件の中でも(財政負担による)効果が県に還元できるように全力を尽くす」と述べた。
全線フル規格による整備の場合、県は年間負担額がピーク時で道路の年間予算に匹敵する規模になると試算していて、「現実的ではない」と訴えてきた。国交省の検討結果では県が想定していた800億円を上回る1100億円の実質負担が見込まれ、山口知事は「(財源は)県民の税金なので、本当に投入の意味を考えなければならない。(追加負担を)のむことはあり得ない」と強調した。
長崎ルートの着工前、JRから経営分離される「並行在来線」の沿線自治体の同意を巡って県内に激しい対立を引き起こした。フル規格を検討する場合は再び並行在来線の問題が生じる恐れがあり、「県はつらい状況に追い込まれる。自らお金を出してわざわざ並行在来線をつくることはない」と言明した。
フル規格を求める動きが追加負担の伴わない長崎県で強まっているのに対し、「(FGTを前提とする)合意は重く、約束は守ってもらいたい。長崎県はもうちょっとわれわれの状況を考えてもらわないと」とけん制した。