現代の人間社会が抱える闇に真っ向から対峙した問題のドラマ『泣かないと決めた日』から聴こえてくる切迫した歌声とキャッチーなメロディーに、多くの人が耳を奪われたことだろう。歌っているのはmiwa。シェリル・クロウをはじめとする海外の女性シンガー・ソングライターに憧れ、音楽活動をスタート。今春、同ドラマ主題歌「don’t cry anymore」でデビューするシンガー・ソングライターだ。彼女に会って話を訊く。曲のもつイメージとは裏腹に、素顔はとても人懐こく愛らしい。溢れる情報が迷いを加速させ、手を伸ばそうとすれば現実が行く手を阻むといった閉塞感の真っ只中にいるヤング・ジェネレーションにあって彼女は、夢を叶えるためのあらゆる可能性を自分の方に引き寄せ、ひとつずつモノにしていくんだという、清々しいほどの希望に溢れていた。大型新人の名にふさわしい幸運なデビューを果たす19歳の少女は期待や重責すら力に換え、明日からもまた自身の手で自身のポテンシャルをグイグイと広げていくのだろう。
--miwaさんは今、19歳で、大学生でもあるんですよね。
はい!もうすぐ2年生になります!多分・・・大丈夫だと思います(笑)。
--(笑)。学業と音楽活動を両立させながら頑張った結果が、今回、メジャー・デビューという形で実を結んだわけですが、最初に触れた音楽はお家でご両親が聴いていた洋楽だったそうですね。
そうです。父が音楽好きで、いつも家に音楽が流れていたし、父は趣味でギターも弾いていたんですよ。だから小さい頃から特に意識もせず、父の聴く音楽を自然と耳にしていたんですよね。キャロル・キングとかディープ・パープルとか、その時は誰のなんという音楽かも知らず、大きくなってからその名前を知るんですけど、周りの友達に話しても誰も知らなくて(笑)。それからいろいろな音楽を聴きましたけど、でもあの頃聴いた音楽はもうわたしの中には染み付いているものですから。今も変わらず大好きですね。
--お父様が聴かれていた音楽以外で、自分から意識的に聴きたいと思った音楽はどんなものなんですか。
シェリル・クロウ、アヴリル・ラヴィーン、最近だとテイラー・スウィフトとか。今はカントリーっぽいロックがすごく好きです。基本的には女性シンガーが好きで、その人に憧れて、その音楽を聴く、っていうことが多いですね。中でも中学生のときに出会ったアヴリルは衝撃的で。日本人にはないパワフルさみたいなものに目が釘付けになりました。その後、シェリル・クロウに出会って、そこからはもう「わたしはシェリル・クロウみたいになるんだ!」って(笑)。それでわたしもギブソンを持ったというわけではないんですけど、シェリルと同じギブソンを弾ける、そのことがすごく嬉しいんです!
--ホントに嬉しそうですね(笑)。
もう憧れの人だったし、「わたしにはコレしかない!」っていう気持ちは、シェリルの来日公演を観てからさらに強くなりましたね。
--「こうだ!」と思ったら貫くタイプ?
わたしが音楽をやっていることは友達にも言ってなかったし、誰にも相談できなかったっていうのも関係しているかもしれないです。辛かったけど、でもわたしの心は決まっていた。それが支えでしたね。歌が好きで小学生の頃からボイトレもしてましたし、シンガー・ソングライターになりたいっていう気持ちはどんどん強くなっていったし、ずっとその夢だけを追いかけていたというか。少しずつですけど1歩1歩そこに近づいてるんだって思ってました。
--バイトして、ギターも買って、ライヴハウスもご自分でブッキングしてっていう、その決断力と行動力もすごいですけど、それって「夢は絶対に叶う」って強く信じる気持ちがあったからなのではないですか。
はい。そう信じてました。わたしは“言霊”を信じているんですよ。だから有言実行、ではないですけど、やると決めたらまずはやってみようと。失敗したっていいから、とりあえずやってみようっていう精神ではいましたね。ライヴをやっても最初は当然お客さんも少なくて。でもやり続けていくうちに絶対に成長するだろう、トークも上手くなるだろう、新曲もどんどん生まれていくだろうって、それは信じてました。
--その気持ちの強さが必然的に音楽に説得力を生むんでしょうね。今回の「don’t cry anymore」も「泣かない」「きっと笑える」と、すごくポジティヴで力強い。
はい、少しのことではくじけないです(笑)。
--でも本当のあなたは違うんじゃないですか。
本当は泣き虫だったりするんですけど(笑)、でも弱い自分を奮い立たせるというか、「強くならなきゃ」っていうのがわたしらしいかなと思って。本当は泣いちゃうし、弱音も吐いちゃうけど、でも前に進まなきゃっていう。涙って我慢すればするほど出てきちゃうし、止めようとすればするほど溢れてきちゃいますからね。だったら最初から泣かないほうがいいぞと(笑)。
--「明るいね、元気だね、強いね」ってよく言われないですか。
言われます言われます(笑)。「いいよね、悩みとかなくて」って言われますね。
--やっぱり(笑)。この曲はドラマに沿った曲ではあるけれども、「これもわたしです」っていう曲でもありますよね。
そうですね。
--主題歌のオファーがあってから曲作りを?
はい。ドラマのコンセプトを見せていただいたとき最初に思ったのは、これをどうやってドラマにするんだろうと思うくらい、それほど重いテーマで。その後、第1話の台本を読ませていただいてから歌詞を書いていったんですけど、主人公も社会人1年生、そしてわたしもデビュー1年生じゃないですか。知らない世界に飛び込むって怖いし、この先、順調にいかないことばかりだろうし、すぐには希望をもてないかもしれない。でもドラマを観てくれた人や、わたしの曲を聴いてくれた人に「これから社会と闘わなきゃいけないんだ」っていう心構えができたらいいな、その人たちが「わたしも頑張ろう」って奮い立ってくれたらいいな、そんなイメージで書いていきました。わたし自身もこの先、辛いことに突き当たった時に「この時、わたし頑張ってたな」とか「頑張んなきゃいけないな」ってこの曲が思わせてくれる、そういう日がくるんだろうなあって思ってるんです。
--先に待ち受けてる試練すら前向きに考えることができると。
はい、それも含めて楽しみというか。知らないことばかりだと思うので、たくさん苦労もするだろうし、どうしていいかわからなくなることもあると思うんですけど、でもわからないことは「わからないです」って、正直にまず言って(笑)。それで覚えたら次はもっとちゃんとできると思うし、その次はもっと自由にできるかも知れないし。そう思うと、楽しくなりますよね。
--タイトル曲とはガラリとイメージを変えたカップリングの2曲には、その持ち前の明るさも出ていますね。
「don't cry anymore」はわたしにとってもチャレンジだったので、カップリング曲のほうが素の自分に近いかも知れないですね。「don't cry anymore」だけを聴いたら、「miwaって暗い人なのかな?」って思われるかもしれないんですけど、「こんな曲も歌うの?」「こっちの曲も好きだな」って思ってもらえたらいいなと思って、この2曲を選びました。
--歌の表情もそれぞれに異なりますね。
そうですね。曲を書いている時から自分でその世界に引き込まれてしまうというか、ただ口ずさんでいる状態の時から、自然と曲をイメージできるような歌い方になってしまうんですよ。敢えて「こう歌うんだ」という意識ではなくて自然とそうなってくるんです。でもわたし、自分の声って最初はあまり好きではなかったんですけど、それも特徴かなと受け入れて(笑)、いろいろ試していきたいですね。
--バンドでのレコーディングは今回が初めてですか。
しっかりとしたバンドでやったのはレコーディングでのセッションが初めてですね。ヴェテランの方たちばかりだからすごく緊張したし、今までは自分の歌とギターだけしかモニターで聴いたことなかったので最初はとまどいましたけど、慣れたらすごく楽しくて!ある時は皆さんが引っ張っていってくれるし、ある時はわたしのギターに皆さんが合わせてくれたり、そのたびごとに面白いグルーヴが生まれるんですよ。それを生で体験できたのは嬉しかったですね。
--セッションの相手がたとえヴェテランでも自己主張はする。
そうですね。やっぱり自分の曲だし、わたしの頭の中で鳴ってる音もあるので、「こういうフレーズがいいです」とか「こんなテイストを入れたいです」ってちゃんと伝えるし、お願いするところはお願いもしました。
--ライヴでもこれまでは弾き語りでしたが、今後はバンドでもやってみたいですか。
思いましたね。自分ひとりでは出せないスケール感、ダイナミックさにずっと憧れもあったので実現できたらいいなと思ってます。いつか武道館でもやってみたいし、AXとかZEPPとか、もういろいろやりたい場所があるんですよ。でもいちばんやってみたいのは、やっぱりシェリル・クロウを観たJCBホールかな(笑)。
<インタビュー・文 / 篠原美江>