今年3月に話題のドラマ主題歌「don't cry anymore」でデビュー。以降、さまざまなライヴ・イヴェントに積極的に参加。今夏には映画「カラフル」のイメージ・ソング/エンディング・テーマに起用されたカヴァー曲「僕が僕であるために」/「青空」が配信限定でリリースされるなど、デビュー元年を全力で駆け抜けるmiwa。あらゆる場所で、その歌声を耳にした人も多いだろう。そのmiwaが早くも3作目となるシングル「chAngE」を発表。聴く者を、そして自分自身を鼓舞するようなロック・テイスト満載のアップ・ナンバーで彼女は、自身の体の一部ともいうべきアコースティック・ギターをエレキ・ギターに持ち替える。ニューシングルの話を聞くために久しぶりにmiwaに会う。外から当てられる光ではなく自分自身が発光しているような、そんな眩しさを彼女から感じた。
-- この夏はライヴ三昧だったそうですね。
そうなんです。野外フェスも初めてだったんですけど、暑い中、たくさんの人が集まってくれて。もう、すっごく楽しかったです!
-- 自分のことを知らない人たちの前で演奏するっていうのはどうですか。
緊張もしますし、曲のことも私自身のことも知らない人たちにどう届くんだろう?とも考えるんですけど、でも少しでも心に残ってもらえたり、ひとつでも好きなフレーズを見つけてもらえたらいいなあと。何でもいいから、ちょっとでも引っかかってもらえたら、それだけで嬉しいですね。
-- miwaさんはヴェテランの方々と共演されることも多いですよね。
そうなんですよー。テレビでは矢野顕子さんや森山良子さん、ライヴでは槇原敬之さん・・・もう大先輩の方々と共演させていただいて。もちろんCDでは聴いてきた人たちばかりですけど、生で一緒に演奏したり歌ったりっていうのは、ものすごく刺激になります。しかも皆さんそれぞれにこだわりのある方たちだから「どうやって歌ってるんだろう」とか「どうやって演奏に入るんだろう」とか、勉強になることがたくさんあるんですよ。いい経験になりました。
-- でも、いつ見てもニコニコして、そして堂々としてますよね。
そんなことは(笑)。実際はすごく緊張してるんですよ!ヴェテランの方たちってリハーサルと本番の演奏がまったく違うんですよ。まさにライヴ!って感じで、こちらはもうドキドキでしたけど(笑)
-- 前回取材させていただいたのはデビュー前でしたが、デビュー・シングル「don't cry anymore」にはその後、どんな反響がありましたか。
ドラマを見てくださってる方や、あの曲で私のことを知ってくださった方、たくさんの方から感想やメッセージをいただいたんですけど、それによってすごく客観的にあの曲を見れるようになったんですよ。自分が作った時よりも曲が成長してるんだな、とか、聴いてくれた人自身の曲になってるんだな、とか、そういうのが実感できて、それがすごく嬉しくて。たとえば悩みを抱えている学生の方だとか、毎日辛い思いで会社に行ってる、あのドラマと自分の生活がリンクしてる方たちが私の曲を聴いて「それでも頑張ろうと思います!」っていうメッセージをくださったんですよ。「don't cry anymore」って曲を作って本当によかったなって思いましたね。
-- 作り手と聴き手の双方にそれぞれの思いを残せたってことは、とても幸せなことですね。
はい。一生忘れられない、大切な曲になりました。
-- デビューして約半年、めまぐるしい日々だったでしょう。
本当にあっという間でしたね。初めて経験することばかりだから焦りが常につきまとっていて、考えれば考えるほど焦ってしまう自分がいたりとか。まず目の前にあるライヴに集中したいのに、先のことも考えなきゃいけなかったりとか。追われたくないのに追われてしまう・・・そういう時期もありましたね。
-- シングル以外にも映画のイメージ・ソングとなった配信限定の楽曲も制作されてたんですよね。
そうです。同時進行でアレンジしてレコーディングして。大変でしたけど、でもすごく楽しくて。その度に新鮮な気持ちで向かい合うことができてよかったなと思っています。
-- 「僕が僕であるために」「青空」があまりにもポピュラーな楽曲である分、カヴァーすることにはプレッシャーもあったんじゃないかと思います。
そうですね。それぞれのファンの方にとっても、とても大切な曲だし、下の世代である私でも知ってるような、時代を超えて受け継がれている曲なので、曲のもってるパワーがすごいんですよ。だから最初は「どうしよう、どう表現しよう」と悩んだんですけど、「これはこれでいいね」って言ってもらえる、そんな生まれ変わり方をしたいなって思えたんです。原曲がもってる凛とした佇まいや、女性の私なりに表現できる少年ぽさ、詞から感じる真っすぐな心を私自身も大切にしたい。そんな思いを込めて歌わせてもらいました。-- では早くも3枚目を数えるニューシングル「chAngE」について訊かせてください。この一見、変わった表記にはどんな意味があるんですか。
大文字の“A”と“E”には「アコギからエレキへ」っていう意味が込められています。この曲で今までずっと持ってきたアコギから、今度はエレキに挑戦してみるっていう、その意味で“chAngE”すね。「過去を忘れるわけではなく、いいこと嫌なこと全部をもって次のステップへいこう」という、そういう思いを込めた“chAngE”でもあります。
-- なるほど。大切に弾いてきたアコギを置いてエレキをもった。それにはどんなキッカケがあったんでしょうか。
ライヴを重ねる中で、もっとお客さんに近づけるような、もっと一緒になって盛り上がれるような、ロックな曲、アップ・テンポの曲をやりたい、そういう曲を作りたいって思ったんです。そのとき頭の中で鳴ってたのがアコギじゃなくて、力強いダウンストロークで弾くエレキの歪んだ音だったんですよ。1曲1曲、毎回サプライズしてもらえるような曲を届けていきたいっていう思いもあったし、今までにないような曲を作りたいっていう思いもあったし、自分で自分の枠を作ってしまうのもよくないなあっていう思いもあって、このタイミングでやってみようと。エレキのもってる直線的な音、尖った音が、「chAngE」という曲のテーマとも重なるんですね。突き進んでいく感じ、周りに囚われずに自分らしくいようとする思いにすごくリンクしてるなと思って。
-- 展開もスリリングですよね。
Aメロから作っていったんですけど、サビで悩んだんですよ。サビで“chAngE”する感じをどうしても出したくて。Bメロから続くメロディも全然浮かんでこない。どうすればいいんだろうって考えたときに「あ、転調すればいいのかも!」って思いついて。転調してみたらサビの頭の“chAngE”がすごく際立ったんですよ。「これだ!」って。
-- 言いたいことが溢れて止まらないっていう、どこか切迫したものを感じたんですが、「私は私なんだ」と思えるまでには覚悟も必要ですよね。周りに流されたほうが生きていくには楽ですしね。
そうですね。そういう人たちと一緒に頑張れるキッカケになったらいいですよね、この曲が。自分を変えたいのになかなかその1歩を踏み出せない人って、いっぱいいると思うんです。そんな人たちが、とりあえず何かやってみようとする、その1歩につながったらいいなあって思うんですよね。
-- 自分自身を奮い立たせるような厳しい言葉を敢えて使っていますが、でもちょっと後ろ髪をひかれているところもある。そこがとても人間臭いですね。
そうですそうです。後ろを振り返りたい気持ちでいっぱいなんですよ、本当は。涙がもう、ここまで出てきちゃってる。でも振り切っていかなきゃっていう。その切ない部分を隠しながら、強くなりたい、強くならなきゃっていう思いに駆られているというか。
-- 聴き手にはどう受け取ってほしいですか。
“チェンジ”とか“チャレンジ”とかって前向きな言葉に聞こえるんですけど、その裏には痛みや悲しみが隠れていると思うんですね。でもそこは周囲の人の目には見えない、自分にしかわからないものだから自分だけで戦っていかなくてはいけなくて。だから私もただ背中を押すのではなく、その心の裏側を聴いてくれる人たちと共有できたらと思いますね。その上で「一緒に背負っていくよ、一緒に踏み出そうよ」と。「次に行こうよ、突き進もうよ」と。みんなと一緒に、その先の希望を見つけていきたい。その思いを感じてもらえたら嬉しいですね。
-- その強い気持ちと同時に「愛なき明日」「道なき道」といった達観した言葉も出てくる。
そうですね。何かを選ぶことで何かを失うこともあるんですよね。でもその選択をしたのは自分自身だし、後々振り返ったときに「ああ、これでよかったんだ」って思える人生でありたいなあと思うんですよ。そのときはすごく悲しかったとしても長い目で見たら必要な選択だったのかもしれないし。ズームではなく引きで見たときに「これでいい」って思えるような、そういう人生を歩んでいきたいなって思いますね。
-- カップリングの「you can do it!」ネガティヴを経てポジティヴに向かう曲ですね。
これは元々、妹に向けて書いた曲なんですよ。妹が受験のときに何か言ってあげたいけど、直接口に出すと「私だって頑張ってるわよ!」ってケンカになりそうだったので(笑)、「何も言えないけど、でも見守ってるからね」っていう気持ちを歌にしたんです。自分にとっても思い出の曲。それを今度はたくさんの人の、いろんな場面での応援歌にしてもらえたらと思って収録しました。聴いてくれる人の近い存在になれたら嬉しいですね。
-- これはmiwaさんのルーツにいちばん近い曲だなと思いました。
そうなんです!カントリーがホントに大好きで(笑)、「どの曲でやろうか?」「どの曲ならカントリーのアレンジに合うんだろう?」「どの曲でやろうか?」って考えながら、ずっと待ってたんですよね。それで今回、この「you can do it!」をカップリングにしようって決まったときに、「じゃ、これでやりましょう!」みたいな(笑)。コーラスも今までやったことのないスタイルでやれたし、もう思う存分楽しみました。今すぐライヴでみんなと一緒に歌いたい(笑)
-- 嬉しそうですね(笑)。やりたかったことも叶ったし、チャレンジもできたと。もうひとつのカップリング曲「あまやどり」、これはまたシンプルな曲ですね。
街で雨に降られて雨宿りをしている時、自分の目の前をたくさんの人がすごくセカセカ歩いて行くのが目に入ったんです。その人たちに自分自身の姿が重なったんですね。「私はいつもあそこに混ざってるんだ。だから自分自身に気付けないんだな」って思ったんですよ。自分がいざ立ち止まってしまった時、その状況からなかなか抜け出せなくなっている時に、迷うことも大切なんだなって初めて思えたんです。「いつも突っ走っているから自分のことを把握できていなかったんだ」「だからどんどん空回りしてしまうんだ」って気付いた瞬間でした。でも、あれだけ人間がいる街の中でも自分はひとりぼっちなんですよね。そこにちょっとでも光が射したらな、っていう曲です。
-- 誰かのためなら無理もする。誰かを励ましたくて歌を書く。でもこと自分のこととなるとすごく弱虫になってしまう。そんなmiwaさんの人となりが手に取るようにわかる3曲ですね。
・・・確かにそうですね(笑)。
<インタビュー・文 / 篠原美江>
2010.3.2 公開