世界でも珍しいピアノ・デュオとして、ゴキゲンなブギウギから、シブみあふれるブルースまでを、独特の〈キャトルマンスタイル〉で聴かせてくれるレ・フレール。そんな彼らの最新作は、二人が幼いころから親しんできたクリスマスソングを中心に、彼らの本領である即興を生かしたメドレーあり、新鮮なカヴァー・アレンジありで挑んだクリスマス・アルバム『ノエル・ド・キャトルマン』。そこで今回は、カラフルで瑞々しくて、いかにもレ・フレールらしいクリスマス!って感じの本作の制作エピソードを、お二人に語ってもらいました。シャイで口べたながらも、問いひとつひとつに丁寧に答えてくれる彼らの誠実な人柄も伝わる、ほのぼのトークです。
--クリスマスと聞いてお二人が思い出すのは、どんなクリスマスですか?
守也:斎藤家は昔からクリスマス会というのをやってまして、兄弟が多いので、小さい頃は7人兄弟が劇や演奏会を親に見せるというのをやってたんですね。一番最初に思い出すのは、その楽しいイメージです。
--劇や演奏会って楽しそうですね~。
圭土:けっこう本格的でした(笑)。
守也:一番上の姉が指揮をして、下の6人を集めてやるんですけど、親に見せるものなので、親のいないところで練習しなきゃいけないわけですよ。それで朝の5時に叩き起こされて朝練みたいなことをやったり(苦笑)。
--劇の台本を書いていたのは、もちろん…。
圭土:一番上の姉です。
--その台本を、みなさん暗記させられて…「させられて」というのも何ですが。
圭土:いえ、「させられて」です(苦笑)。
守也:劇をやったのは本当に小さい頃だけですけどね。大きくなってからは演奏会という形になって、クリスマスソングをピアノと歌でやったり。毎年やってましたね。
--ツリーもちゃんと飾って、お母さんが美味しいものを作ってくれて。
守也:そうですね(照れ)。飾り付けして。
--いいですねぇ…。その後、ルクセンブルクに留学している時のクリスマスは、どんな感じだったんですか?
守也:一番上の姉が向こうで暮らしていたので、その家族と楽しく過ごしたり、知り合いの家族に呼ばれたりしてましたね。
--向こうでは、どんなクリスマスソングが主流なんですか?
守也:(『ノエル・ド・キャトルマン』の収録曲を指しながら)この「楽しく陽気にいこうよ」ってドイツ民謡なんですけど、向こうでは子供が歌ってますね、クリスマスの時期に。
--いわゆる、山下達郎やマライア・キャリーのクリスマスソングが街を踊らせるような、ポップな雰囲気というのは?
圭土:そういう感じはなかったですね。
守也:もちろん若者だけで集まって(パーティーなどを)やる人もいると思うんですけど、基本は日本のお正月みたいに家族で集まる感じですね。だから街がシ~ンとする。そこが日本のクリスマスとは、だいぶん違いますね。
--なるほど。ちなみに、お二人が特に好きなクリスマス・アルバムはありますか?
守也:今回クリスマス・アルバムを作るにあたって、いろいろ聴いたなかには好きなものもありましたけど、元もとは、いわゆるクリスマスのスタンダードが入っているオムニバスを何枚か持っていたくらいで(笑)。
圭土:ただ、聖歌隊がチャペルで歌うクリスマスCDなんかは結構好きで、小さい頃から聴いてきているので、今回そういう曲をアレンジするのはとても楽しかったし、嬉しかったですね。小さい頃のクリスマスの思い出や、心に残っているいろいろなものを発信できればいいなあと思って作りました。
--その楽しさはビンビン伝わってきました。というわけで、新作の『ノエル・ド・キャトルマン』ですが、選曲は互いの好きな曲をダーッと持ち寄って、という感じですか?
圭土:そうですね。
守也:で、実際に試してみて、二人の連弾アレンジ…キャトルマン・アレンジに合いそうな楽曲ってことで選んでいきました。
--原曲の印象を覆すような、おおっ!?というアレンジもありますが、そのへんは意識的に?
守也:クリスマスソングってパターンが似てくるので、バリエーションをつける、メリハリをつけるという意味でいろんなアレンジにしようとは思いましたけど、あえて突飛なことをやろうというよりは、むしろ忠実にやろうと、自分たちは思ってたんですですよ。
圭土:あ、でも「ジングル・ベル」がマイナーになってたり…ってことですよね?
--そうです。マイナー調の「ジングル・ベル」というのは、かなり新鮮でしたもん。
守也:そうですね。一番変わったのは「ジングル・ベル」と「きよしこの夜」ですね。マイナーになって。
--あと、調までは変わらずとも、スタンダードがロックステディやボッサなどに生まれ変わるのも楽しいですね。
圭土:キャトルマン・アレンジならではの、というのを駆使していくと、いきなりロックステディになったりしたんですよね(笑)。レ・フレールである理由…僕たちの特色と原曲の特色がマッチした瞬間が、カヴァーの面白さだと思うんです。
--「ジングル・ベル」は、なぜワイルドなマイナー調に?
圭土:これはアルバムの中で(メドレーを含めると)合計3回やっていて…。
守也:他のところではメジャーでやってますし、マイナーでもできるぞ、ということで。
--「ウィンター・ワンダーランド」のロックステディ調は?
守也:これは……どうでしたっけ?(笑)
圭土:最初からロックステディだったっけ?
守也:たしかこれは結構早めに決まってましたね。でも今回は、最初のイメージを途中でガラッと変えたものは、ほとんどないですね。そういう意味では煮詰まらなかったです。
--「ホワイト・クリスマス」のボッサ調も、やってみたらしっくりきたから、という感じですか?
守也:そうです(笑)。
圭土:「ウィンター・ワンダーランド」や「ホワイト・クリスマス」は新しい試みだったので、弾いていても新鮮で、気持ちよくできましたね。今までオリジナルでこういったタイプの曲はなかったので。
--たぶんどの曲も「やってみたらしっくりきた」に落ち着くんだとは思うんですが…「シルバー・ベルズ」や「サンタが街にやってくる」も最初からブルースで? 個人的にブルース・アレンジが大好きなんです。
圭土:「シルバー・ベルズ」は最初からそうですね。「サンタが街に~」は結構変わりました。レコーディング中にも変わっていっちゃって。
守也:唯一、煮詰まったかなって思うのがこれかな。
--「広間を飾ろう」は、日本ではあまり知られていないですよね。もとはどんな感じの曲ですか?
守也:これは北欧の…たぶんアイルランドのトラディショナルですね。よくオーケストラ・アレンジとかで聴く気がします。
圭土:僕は少年の聖歌隊が歌ってるイメージがあるんですけど、どれがオリジナルに近いものなのかは、よくわからないですよね。
--ああ、でもアイルランドと聞くと、アレンジがとても頷けます。持続音はバグパイプ的なイメージですよね?
圭土:そうです。
--旋律の節回し自体もアイルランドっぽいですもんね。
守也:そうなんですよ。
--そして「クリスマスおめでとう」。日本では原題の「We Wish You A Merry Christmas」でも馴染み深いですが、このピアノの音色は、ファン的には「ZDバージョン!?」という感じですよね。(註:ZDバージョン=アルバム『ピアノ・ピトレスク』収録曲「星空」初回盤のバージョン名)
2人:あははは、たしかに(笑)。
--「星空」の時は、あのバロック的な音色を作るために弦のところに何を仕込んだかは、結局明かされませんでしたよね?金属的なものかな、と思ったんですが。
守也:おお、さすがです(ニヤニヤ)。
--ホントかなあ? 今回も仕込んだものは同じですか?
圭土:同じです。“ZD”ですね。
守也:別に明かしてもいいんですけどね(苦笑)。隠してるわけじゃないんで(笑)。
--いやいや、もうしばらく企業秘密にしておきましょう。そして聴きどころとして忘れちゃいけないのはやっぱり、クリスマスソング14曲をメドレーにした「ノエル・ド・キャトルマン」と、即興を盛り込んだ「ブギー・クリスマス」。お二人の本領発揮、この2つがアルバムのキモですよね?
圭土:やっぱり「ノエル・ド・キャトルマン」は一番力も入れましたし、時間もかけましたしね。ただ、アルバムの聴きどころという意味では…全部好きです(笑)。
守也:どれも自分たちの気持ちのいいところで演ったので、本当にどれも好きなんですよね。自画自賛ですけど(笑)。聴きどころかあ……そうですねぇ…あえて挙げるならやっぱり「ノエル・ド・キャトルマン」はメインになる曲なので……う~ん、でも……う~ん……(悩みまくり)。
--もう、そのへんで大丈夫です。どれも可愛い我が子ってことですよね。
守也:(ホッとしたように)そうです、そういう感じです(苦笑)。
--ラストの「きよしこの夜」も、なんとも不思議な色合いの仕上がりになってますし、個人的にも最初から最後までみっちり楽しませていただいてます。ちなみに、このアルバム……お二人なら、どんなクリスマスに流しますか?
守也:やっぱり、イメージとしては家族で集まってる時のBGMですね。
--恋人とのクリスマスじゃなく。
守也:いや、もちろん、恋人とでも(笑)。
圭土:僕はクリスマスじゃなくても聴けるアルバムだと思うんですよね。1年じゅう聴いてもおかしくないアレンジになっているので。好きなときに、どんな状況でも聴けるかなって、作ってから思いましたね。
--たしかに、ボッサなどは初夏っぽいイメージもありますもんね。ところで、本作を携えてのツアーがもう始まっていますが、これからの公演に向けて予告編があれば、ぜひお願いします。
守也:細かいサプライズというか、演出をしたいなあと思ってます。やっぱりクリスマスは特別なので、いつもとはちょっと違う雰囲気を出したいなあと。
--詳細は本番までのお楽しみ…。
守也:そうですね(笑)。
--圭土さんが前回のツアーのように何か物語を読んでくれるという企画はいかがですか? クリスマスの物語とか。
圭土:いや、たぶんやりません(苦笑)。他の部分で楽しみにしていてください(笑)。
<インタビュー・文 / 河野アミ>