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小西康陽が愛するルグラン・ナンバー

ルグランが書いたナンバーは、それこそ星の数より少し少ないくらい。しかも、サントラからジャズにシャンソンと様々な分野を手掛けてきただけに、小西さんが選んだナンバーも実に多彩なセレクト。ルグラン・ファンになるきっかけとなった『華麗なる賭け』や『ロシュフォールの恋人たち』からのナンバーはもちろんのこと、「最近、発見した」というボサノヴァ・スタンダードのカヴァー「ワン・ノート・サンバ」など、どの曲にもルグランらしい複雑なアレンジとエレガントな旋律を楽しむことができるはず。(文:村尾泰郎)

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  1. ジターバグ・ワルツ
    ミシェル・ルグラン

    『ルグラン・ジャズ』というアルバムの1曲目です。これはもう、テンポ・チェンジの嵐。倍速になったり戻ったり。ルグランのジャズの曲で好きなアレンジは多いんですけど、基本は全部ここに入ってるかな。

  2. ホエン・イッツ・スウィングス
    ミシェル・ルグラン

    これはルグランが自分で歌ってる曲なんですが、僕がよくクラブでかけてる曲のひとつです。ルグランの歌声って好きなので、ほんとにどれでもかまわないんですけど(笑)、この曲の良さはスウィング感ですかね。これはほんと、ダンスフロア向けの曲だと思います。

  3. 風のささやき
    サントラ

    これは前の曲とは正反対な曲(笑)。日本でミシェル・ルグランのメロディーというと、やっぱりこれとか、あるいは「シェルブールの雨傘」のテーマソングとか、「これからの人生」みたいな半音の多いマイナーのメロディーだと思うんです。その分野のなかで、いちばん好きな曲がこれですね。これもメロディーのモチーフをどんどん積み上げていく曲。正直、大学生の頃には良さが解らなかった曲なんですけど、今はたまらなく好きだし、またノエル・ハリスンの歌い方が最高なんですよね。俳優が歌う音楽の最高峰だと思う。ほとんどシェイクスピアの役者が朗読するような歌ですよね。俳優が朗読するときの、少し小説からもれて字余りするような、そのリズム感を許容してるようにも聴こえる。そういう語り手の語り口を譜面に置き換えたみたいな。そのへんがすごく巧い。

  4. 華麗なる賭け
    サントラ

    前曲と同じく、『華麗なる賭け』のサントラから。この最初のフレーズが歌えれば、もう大丈夫っていうか(笑)。そこで半音が多くて歌えなきゃ、この曲はもう歌えない。歌い手として難しい曲なんじゃないですか。僕が書いた曲で「東京は夜の七時」って曲があるんですが、あれも〈ぼんやり〉ってとこが歌えないと歌えない(笑)。

  5. ワン・ノート・サンバ
    ミシェル・ルグラン

    『20ソングス・オブ・ザ・センチュリー 』というレコードに入ってる曲です。このアルバムには「明日に架ける橋」も入ってるんですが、この2曲のアレンジはすごいですよ。ショックなアレンジ。もう全然ボサノヴァじゃないんですが(笑)、アレンジャーとしてのルグランの面目躍如みたいな曲ですね。目からウロコです。

  6. ピカソ・サマー
    ミシェル・ルグラン

    これはルグラン流のグルーヴィーな音楽ですよね。踊れるんだけど、何かがヨーロッパ的。特にハーモニーなんかそうですね。ルグランは普通にグルーヴィーな曲もすごく巧い。ルグランがアレンジした「ジーザス・クライスト・スーパースター」なんて、けっこうよく書けてて、派手でいいんですよ(笑)。多分この人、アレンジャーとして譜面を書くのも現場で手早く書いちゃう人だと思いますね。

  7. ウォッチ・ホワット・ハプンズ
    セルジオ・メンデス&ブラジル’66

    これは『シェルブールの雨傘』の曲ですけど、このヴァージョンのほうが好きですね。いろんな人がやってる曲ですけど、この7小節目で〈あ、ルグランの曲だ〉ってなっちゃうわけだから、変えようがないというか。やっぱり12音音階っていうか、複雑系のハーモニーが体に染みついてるんじゃないですかね。ちなみに僕がいちばん好きなこの曲のヴァージョンは、テナーサックスのハロルド・ヴィックっていう人がやってるヴァージョン。ワン・ホーンでやってるんですけど、イントロから女性コーラスが入るんですよ。かなりR&Bっっぽい感じで、すごいおもしろい。

  8. He, Antonio
    Michel Legrand

    これはアントニオ・カルロス・ジョビンに捧げてる歌ですね。お互いリスペクトしてるでしょ? だけど、歌い出しの〈ヘ~イ、アントニオ~〉ってところは全然ボサノヴァっぽくない(笑)。いつものルグラン節で、情緒のまったくない歌が聴けます。ルグランは意外とベタベタなボサの曲ってないんですけど、これはそうなんですよ。譜面だけ見たら、アントニオ・カルロス・ジョビンとルグランは結構近いと思うけど、パフォーマーとしては、ルグランとジョアン・ジルベルトは正反対ですね。『レッド・ホット+リオ』っていうボサノヴァのコンピでデヴィッド・バーンがジョビンの歌を歌ってたのを聴いて〈最悪〉って思ったけど、あれに近いものがある(笑)。でも、コレいいんですよ。

  9. コミュニケーション’72
    スタン・ゲッツ

    コーラスを使ったジャズのトラックで、これも〈こんなスコア書く人、他にいないな〉って感じですよね。このダバダバコーラスがヘン。ルチアーノ・ベリオがスウィングル・シンガーズを使ってる曲があるじゃないですか? あれをポップスにしたみたいな。だからアプローチがかなり現代音楽的。でもダバダバしてるからオシャレにも聴こえるという曲なんです(笑)。ある意味、パロディーなのかもしれない。

  10. キャラバンの到着
    サントラ

    とにかく、ずっとサントラを聴いてたのに、なかなか映画が観られなくて。90年代半ばにリバイバル上映されてようやく観た時、曲は全部知ってたから、音楽に映像がついたみたいで感動しましたね。(好きなシーンは)この1曲目がかかって、みんなが広場で踊り出す、あのあたりかな。動き出したとたん、泣いちゃいましたね。そういえばバート・バカラックとディオンヌ・ワーウィックのコンビで、86年くらいに来日コンサートをやったんですけど、それを観に行ったんですよ。正直言って僕はディオンヌ・ワーウィックってあんまり好きじゃなかったんですけど、ディオンヌが出てきて「小さな願い」を歌い始めたとたん、もうそこで泣いちゃって(笑)。だから、今回のルグランのコンサートもかなり恐い(笑)。