邦丸:他省庁のキャリア組の局長クラスの人が、以前朝日新聞のインタビューに答えて、「もし自分がそういう立場だとすれば、最初から決裁文書の文言にこんなことは書かせない、文書そのものを決裁前に廃棄する」と。
佐藤:いや、それはウソだ。
邦丸:ウソですか。
佐藤:もし本当にやっているなら、その官僚は最低の官僚です。なぜかというと、事実は残さないといけない。意思決定に政治力が影響していたとしたら、それは残しておかないと。
真実をなかったことにして抹消し、自己保身を図る。ましてそれを堂々と新聞に言うなんて、官僚として最低です。
邦丸:もう一点お聞きしたいのは、公文書の今後の扱いですよね。今後は官僚が作る公文書、あるいはメモにしても、最初からそういう事実自体を書かなくなってしまうんじゃないか。つまり、口頭ではやり取りがあっても、文書として残らなくなっちゃうんじゃないかと思うのですが。
佐藤:口頭でのやり取りは、お互いの顔が見える範囲でしかできないんです。近畿と東京にまたがる事案とか、あるいは外務省でモスクワの大使館と東京の事案ということだったら、口頭ではムリ。
邦丸:ムリですか。
佐藤:だから、どこかの過程で必ず書面が出ます。今後はおそらく、官僚の使うコンピュータは、私的なものは一切使えないということが徹底されると同時に、書き損じのメモといった過程を含めて全部保存されるシステムになると思う。
たとえば、われわれ作家はDropboxなどのオンラインストレージサービスを使うと、修正した原稿のファイルが全部保存されているんですよ。そういったことが簡単にできるわけだから、今後、官僚の文書は全部記憶されるという方向で問題の解決を図るんじゃないかと思います。過去の記録を全部追うことができるシステムになり、決裁は電子決裁になる。差し替えできないように。
邦丸:ふーむ。
佐藤:ところで今回、財務省はあの文書の中で、いちばん重要な紙を出していないんです。それは「表紙」です。
邦丸:表紙ですか。
佐藤:表紙には、どの役職の人間まで決裁をしたかという記録が残っている。
邦丸:決裁というのは、読みましたということですよね。読んで許可していると。
佐藤:それだけではないんですよ。実は私、今回の文書の表紙をあるところで見せてもらったんですね。そうしたら、近畿財務局の次長までしか決裁が取れていなかったんです。近畿財務局長の決裁は取れていない。でも、近畿財務局長が知らないはずがないんですよ。
これは外務省の業界用語だから、役所によって違うので、財務省ではどう呼ぶのか知らないですけれど「ツイハイ」という言葉があるんです。
邦丸:ツイハイ?
佐藤:「追加配布」の略です。すなわち、ヤバい案件だから自分はサインしたくない。だから、下にサインさせておいて、コピーだけを幹部に配るんです。
邦丸:ははあ〜。
佐藤:決裁を委託した、任せたという大雑把な管理責任はあるんだけれど、直接的な管理責任はないわけですよね。そういうふうにして逃げることがあるんですよ。
邦丸:証拠を残さないわけですね。
佐藤:少なくとも、自分が直接関与したわけではなかったと。だから謝る時も、政治家の圧力があったものと認めて謝るのではなくて、「部下に任せていたんですが、その部下が的確な判断をできなかった。そのことに関しては申し訳ありません」という謝り方をする。こういうの、官僚は好きなんですよ。
邦丸:へえ〜。
佐藤:それともう一つ、財務省が隠しているのは、この文書の秘密指定が何だったかということなんです。
通常この種の文書というのは、「取扱注意」──これは秘密文書ではないんですけれど、外に見せてはいけませんよということ、その次は「秘」──普通の秘密、それから「極秘」と、だいたいこの3段階に分かれるんです。
「極秘」の場合は、ひとつひとつの文書が誰のところに行っているかの記録が全部あるんです。ですから、この文書が極秘文書だった場合は、本当は誰に回っているか全部わかるので、その原簿があるはずなんです。「秘」の文書でも、配布先に関する資料はあるはずです。そこを隠していますよね。
邦丸:ふむ。
佐藤:それが出てくると、原本の段階で誰が知っていたのか全部わかるんですよ。
今回は80枚のA4版の紙を配り、みんなの関心がそこに集中したわけですが、いちばん隠したい「表紙」と「配布先」に関する情報を出していないんですから、極めて悪質度が高いですね。こうした情報公開のしかたを見ても、まだ全然諦めていない。彼らは「逃げ切れる」と思っていますね。