はるか彼方の銀河が、謎の物質の「存在」ではなく「不在」によって、天文学者たちの首を傾げさせている。この銀河は、3月29日付けの学術誌「ネイチャー」で報告された。
どのような銀河なのか
今回発見された銀河は、約6500万光年の彼方にあるNGC1052-DF2だ。薄く広がった暗い銀河で、質量は私たちの銀河系の約200分の1である。
銀河の質量は、すべてが見えるわけではない。なぜなら、普通の物質に加えて、ダークマターが存在しているからだ。普通の物質とは恒星や惑星や私たち生物そのもののことであり、これらはもちろん見える。対して、ダークマターは目に見えず、直接観察するすべもない。それなのに存在が知られているのは、普通の物質にその重力が影響を与えているためだ。そして、ダークマターは宇宙の質量の多くを占めている。(参考記事:「謎に満ちた 見えない宇宙」)
NGC1052-DF2のような孤立した銀河には、ほかの銀河から類推すると、普通の物質の約100倍のダークマターがあるはずだった。論文によると、だがしかし、この銀河にはダークマターが欠けていた。(参考記事:「銀河系の質量は太陽7000億個分、暗黒物質が約9割」)
科学者たちの驚き
米エール大学のピーター・バン・ドッカム氏が率いるチームは、多数のレンズを組み合わせたドラゴンフライ望遠鏡を使って、NGC1052-DF2を詳細に調べた。この銀河の中にある10個の星団の運動を追跡して銀河の質量を見積もったところ、驚いたことに、見えている恒星の質量の総和と同じだった。
「ダークマターは銀河の単なるおまけ的なものではないと真剣に考えていました」とバン・ドッカム氏は言う。研究チームは精査を要する奇妙な銀河をほかにもいくつか発見しているという。
この発見がなぜ重要なのか
奇妙な観測結果が1回出ただけでは、理論は必ずしも破綻しない。しかし、ダークマターがない銀河が見つかったことは、いくつかの非常に興味深い事実を示唆している。第一に、この発見は銀河の形成に関する現在の理論に疑問を突きつける。
「今日の銀河形成理論では、銀河はダークマターハローという、ダークマターが重力によって集まった塊の中で形成されると理解されています」と、米スタンフォード大学のリサ・ウェクスラー氏は言う 。「少なくとも銀河が形成されるときには、恒星の数とそこにあるダークマターの量との間に緊密な関係があります」(参考記事:「重力レンズ使った星の重さ測定に成功、ハッブル」)
つまり、ダークマターがなければ銀河は形成されないということだ。
バン・ドッカム氏らは、ダークマターのない銀河の形成と進化を説明できそうなシナリオをいくつか提案しているが、どれも気に入っていないという。ウェクスラー氏もこの結果に当惑していて、ダークマターがなくても銀河が形成されるなら、非常に興味深いと言う。(参考記事:「【解説】大発見? 宇宙最初の星を観測、真相は」)
「その場合、銀河とは何かというところから考え直す必要があります」とウェクスラー氏。
逆説的だが、NGC1052-DF2にダークマターがないという発見はまた、ダークマターが存在している証拠にもなる。(参考記事:「ダークマターの「雲」にずれ、実在の証拠か」)
修正された重力理論のように、宇宙には目に見えるより多くの質量があることを、ダークマター以外で説明する理論もある。しかし、今回発見された銀河は、見えている恒星の分の質量しかないのに、通常の重力理論にしたがっていた。修正された重力理論がもし正しいなら、通常の重力理論にしたがう銀河の質量は、見えているよりも多くなければならず、この銀河を説明できない。
バン・ドッカム氏は言う。「ですから、ダークマターをもたない銀河の発見は、ダークマターが本当に存在していることの証拠になるのです」