<ゲーム翻訳の概要>
訪問者の皆さま、初めまして。当ブログの管理人、日本人ゲーム翻訳者の羽無エラー(はねなしえらー)と申します
当ブログをご覧いただいているということは、ビデオゲームの翻訳に多少なりとも関心を持っていらっしゃるのではないかと思われます。が、皆さまの中には、ゲーム翻訳の経験や学習歴がほとんどない方もいらっしゃることでしょう。
そこで、まずは当ブログのプロローグと致しまして、ゲーム翻訳の概要、つまり「ゲーム翻訳とは何ぞや?」ということについて、駆け足ではありますが、なるべく分かりやすく解説していきたいと思います。
・翻訳の世界におけるゲーム翻訳
まず、翻訳分野の1つとしてのゲーム翻訳について説明します。
一般的に「ゲーム翻訳」というと、
ゲームの中で使われるテキストの翻訳を指すことが多いと思います。そういった「ゲームの中で使われるテキスト」のことを、当ブログでは
「インゲームテキスト(in-game text)」と呼ぶことにします(それ以外の呼び名は聞いたことがありません)。
インゲームテキストの種類は多岐にわたりますが、私は
キャラクターのセリフ、システムメッセージ、インターフェーステキスト(UIテキスト)の3つに大別できると考えています。
・キャラクターのセリフ…「どうかお姫さまをお助けください!」など、ゲームに登場するキャラクターがセリフとして発するテキスト
・システムメッセージ…「○ボタンを押すとジャンプします」など、プレイヤーに情報や指示を与えるためのテキスト
・インターフェーステキスト…「たたかう/にげる」や「はい/いいえ」など、インターフェース周りで使用されるテキスト
もちろん、これはかなり大まかな分類です。実際は、上記3つのどれにも属さないテキストや、逆に、2つ以上の要素を兼ね備えているテキスト(キャラクターが発するシステムメッセージ的なセリフなど)も多数存在します。
また、インゲームテキストの翻訳以外にも、取扱説明書やバグレポートの翻訳、ゲームのプレゼン資料や公式サイトのPR文の翻訳など、ゲーム関連ドキュメントの翻訳全般をひっくるめて「ゲーム翻訳」と呼ぶ場合もあります。
当ブログでは基本的に
インゲームテキストの翻訳を指して「ゲーム翻訳」と呼ぶことにしますが、機会があれば
取扱説明書や
バグレポートの翻訳などについても触れていこうと思っています。
・ゲーム翻訳の特徴
ゲーム翻訳は、数ある翻訳分野の中でも非常に特徴的かつ複雑な分野です。一般的に翻訳は、
「実務翻訳(または産業翻訳、ビジネス翻訳)」、「文芸翻訳(または出版翻訳)」、「映像翻訳」の3分野に分けられることが多いと思います。しかしゲーム翻訳は、このいずれにも該当しません。
いえ、もっと正確には、
上記3分野の性質をすべて包括しているのがゲーム翻訳である、といっても過言ではないと思います。+
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なぜなら、
システムメッセージの翻訳は
実務翻訳に含まれ、
キャラクターのセリフの翻訳は
文芸翻訳に含まれ、
ムービーシーンのセリフの翻訳は
映像翻訳に含まれるからです。
もちろん、それだけではありません。ゲーム翻訳には、上記3分野にはないゲーム翻訳ならではの要素というのも多く存在します。つまり、
実務、文芸、映像の三分野にまたがり、なおかつ独自の要素も持っている、それがゲーム翻訳なのです
+
+
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そう聞くと、なんとなく夢いっぱいで楽しい翻訳分野であるように思えてきませんか(笑)。
・ローカライズにおけるゲーム翻訳
ここまでは、翻訳分野の1つとしてのゲーム翻訳について説明してきましたが、次に、
ゲームのローカライズ工程の一部としてのゲーム翻訳についてもザッと説明しようと思います。
まず、日本のゲーム業界における「ローカライズ」というビジネスを一言で説明すると、
海外の会社が作ったゲームの日本語版を作って日本で売る、またはその逆をすることです。 ローカライズの定義について詳しく知りたい方は、Wikipediaの
「国際化と地域化」などをご参照ください。
海外ゲームの日本語版を制作する(ローカライズする)際、実に様々な作業が伴われます。日本人ユーザーに向けての仕様変更や、より綿密なデバッグ、日本人声優を使ったボイスオーバー、リップシンクなどなど。そしてインゲームテキストの翻訳は、そのローカライズ工程の中核をなす最も重要な作業です。海外ゲームがローカライズされる際、インゲームテキストの翻訳はほぼ必ずといっていいほど行われますし、ローカライズ作業全体の中で最も大きな割合を占めるのもインゲームテキストの翻訳となることが多いと思います。極端な話、言語以外の仕様に関しては海外版のまんまでも特に問題ないケースもありますが、インゲームテキストが翻訳されていない状態では、ユーザーがゲームをプレイすることは非常に困難になります(スポーツゲームなどでは、インゲームテキストの翻訳が行われないケースもあります)。また、RPGなど、テキストライティングの重要性が高いジャンルでは、訳文の良し悪しでゲーム全体の印象がガラリと変わってくる可能性もあります。そういった意味でも、インゲームテキストの翻訳はローカライズの要であるといえるのです。実際、インゲームテキストの翻訳のみを指して「ローカライズ」と呼ぶゲーム開発者も、たまにですが見かけることがあります。「今回は何文字ぐらいローカライズするの~?」とか。厳密には間違いですけどね…(笑)。
・日本におけるゲーム翻訳の需要
最後に、ゲーム翻訳は現在日本でどれほど需要があるのか、ということについて考えてみたいと思います。これは私の推測による部分が大きいため、必ずしも真理をついた内容になっているとは限らないことを最初に断っておきます。
近年、日本国内のゲーム会社の間で、
海外へのローカライズに対する意識がグングンと高まってきています。ローカライズ工程の改善はもちろん、企画段階から海外ユーザーを意識したゲーム制作をしようという動きも、一昔前に比べて格段に広まってきているように感じます。また、業界人ではない一般ユーザーの方々が「ローカライズ」という言葉を普通に口にし始めたのも、つい最近のことではないでしょうか。欧米のゲーム市場の規模は日本のゲーム市場の軽く倍以上はありますので、より多くの利益を求めて積極的に海外展開していこうというわけですね(今は「円高」というステータス異常が付いていたりしますが…
)。
しかしそれに伴い、
海外から日本へのローカライズ(上記とは逆のローカライズ)も、少しずつではあるものの、着実に増えてきている実感があります。
これには、主に以下のような背景があります。
1. 海外ゲームのクオリティーがジャパニーズゲームのクオリティーに追いつきつつある(すでに追い抜いたという意見もちらほら)。そのため、日本で販売しても黒字が期待できるような良質な海外ゲームが増えてきた。
2. 一からゲームを制作するよりも、海外ゲームをローカライズした方が開発費や開発期間を抑えられる場合が多い。
要するに経済的な理由ですね。ここ近年は、ゲーム開発費の高騰や開発期間の長期化などが原因で、不況にあえぐゲーム会社が昔よりも増えてきています(海外でもスタジオの閉鎖が相次いでいます)。自らの手で一からゲームを制作する方が、日本人ユーザーのテイストに合ったゲームに仕上げられることは確かです。しかしその場合、ヒットすれば大儲けできますが、当然リスクも膨れ上がってきます。
それに対して海外ゲームのローカライズは、10億円超といった莫大な利益こそ望めないもののリスクも小さいため、ゲーム会社としては、ある種、安心して小遣い稼ぎができるビジネスモデルなのです。プロジェクトによってマチマチなので一概には言えませんが、海外ゲームのローカライズの場合、1~2万本前後出荷できればプロジェクトとして黒字になるというケースも珍しくはありません。
しかし現在はまだ、海外と日本のゲーム産業の隔たりは大きく、「海外→日本」のローカライズはそこまで普及しているわけではありません。そのため、
英日のゲーム翻訳の需要もそう多くはないのが現状であると考えられます。おそらく、フルタイムで働く翻訳者が日本に数十人もいればこと足りてしまう程度の需要しかないと私は推測しています(実際は、ゲーム翻訳専門でフルで働く翻訳者は少ないので、もっと多くの翻訳者がゲーム翻訳に関わっているでしょうが)。
ただ、日本でもウケるような海外ゲームが徐々に増えてきていること、コアゲーマーを中心に日本でも海外ゲームを受け入れる基盤ができつつあること、また、一本一本のゲームのボリュームが増えてきていることなどから、今後どんどんゲーム翻訳の需要が伸びていくことも十分考えられます。本当にそうなるかどうかは神のみぞ知るところですが、これは実際、ゲーム開発の関係者の多くが口にしていることです。
また、翻訳の世界においても、「ゲーム翻訳は絶賛人気上昇中の分野である」と聞いたことがありますし、これからゲーム翻訳に関わる翻訳者が増加していく可能性もあります。実際、ゲーム翻訳を請け負う翻訳会社も、ここ数年でどんどん増えてきています。
・当ブログの目的
ゲーム翻訳は日本では比較的新しい翻訳分野であるため、
インターネットや書籍などで調べようとしても、詳しい情報は、ほとんど表に出ていないのが現状です。また、確固としたノウハウが確立されておらず、その場その場で手探りで進められている分野(イレギュラーが多い分野)でもあります。
当ブログでは、ゲーム翻訳の情報を求めている方のために、
現役の翻訳者がゲーム翻訳を紐解いて解説していこうと思っています。 なるべく自身の経験を交え、いわゆる「机上の空論」にならないような解説を心掛けていきますので、一人でも多くの方に、当ブログを参考になさっていただければ幸いです。
また、当ブログで解説している内容以外でも、何か知りたいことがあればお気軽にお問い合わせください
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