「戦争は経済を活性化させる」は、デタラメである なぜ戦争が終わると不況になる?
内閣官房「『平和安全法制』の概要」より
このように「戦争」という言葉がにわかにクローズアップされつつある中で、「戦争は経済に利益をもたらす」という主張をよく耳にする。戦時には武器や弾薬、兵士の食糧などが大量に必要になり、それらを扱う企業が儲かる。さまざまな技術が戦争をきっかけに開発される。戦争が終わると、戦時中に破壊された多くの住宅やビルが建て直され、経済活動を刺激する――。だから戦争は悲惨であっても、国を経済的に豊かにする、というのである。
しかし、これは本当だろうか。
米国の経済ジャーナリスト、ヘンリー・ハズリットは、第二次世界大戦終結直後の1946年に出版して以来ロングセラーとなっている著書『世界一シンプルな経済学』(村井章子訳/日経BP社)で、戦争が経済にプラスに働くというこの説を取り上げ、それが間違っていることを明らかにしている。
ハズリットはまず、「割れた窓ガラス」という寓話を紹介する。悪童がパン屋の窓ガラスを割る。それを見た近所の人が「窓を割られたのは不運だったが、悪いことばかりでもない」と言い合う。「例えば、そら、ガラス屋が仕事にありつくじゃあないか」。代金を得たガラス屋は、その分かそれ以上を別の店で使うだろう。その店の主人はまたその分を……という具合で、割れた窓ガラスは、次第に大きな範囲で収益と雇用を生むことになる。すると、この寓話の結論はこうなる。「ガラスを割った悪童は、町に損害を与えるどころか、利益をもたらしたのだ」
さて、この結論は正しいだろうか。ハズリットは次のように異を唱える。たしかに悪童のいたずらは、とりあえずガラス屋の仕事を増やす。だが実はパン屋の主人は、窓ガラスの修理代金で礼服を買うつもりだった。それが250ドルだとすると、パン屋の主人は、以前は窓ガラスと250ドルの両方を持っていたのに、今では窓ガラスしかない。窓ガラスと礼服の両方を手にする代わりに、窓ガラスのみで満足し、礼服は諦めざるを得なくなったのである。