2018年3月30日(金)20:30
ブシロード木谷高明氏のエンタメ仕事術(後編) “勝ち組感”をつくるための広告手法
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木谷氏に、エンタメビジネスにまつわる話を聞く後編。作品や情報があふれている今、コンテンツには“勝ち組感”が求められているという。その真意や、ブシロードの広告展開や採用に関することなど、さまざまなトピックについて持論を語っていただいた。
取材・構成/五所光太郎(アニメハック編集部)
――これまでシンガポールを拠点にされてきて、日本のエンタメの見え方も違っていたのではないかと思います。日本のアニメは、どう見えていたでしょうか。
木谷:日本のコンテンツの中で、相対的にアニメはすごく頑張っていると思います。シンガポールには息子も一緒に行っていましたが、息子の友達もみんなアニメを見ていました。ケーブルテレビでも配信でも今は見ることができますし、ケーブルは日本のアニメばかりやっているチャンネルがあって、日本のドラマやバラエティ、ニュースやスポーツなんかはNHK以外、一切見られなかったりするんですよ。見るコンテンツが少なくて、みんなアニメばかり見ているから、自然とアニメファンになってしまう。そういう意味でいうと、アニメはすごく頑張っているなと思います。
ただ、今の日本のアニメビジネスは、「中国やアメリカが、いくらで買ってくれました」でおしまいになっていて、「(世界で)どれだけの人が見てくれたか」まで意識していないところがある気がします。「買ってくれるから売っているだけ」で満足してしまっているというか。本当は吹き替え版をつくって、バンバン出すべきだと思うんですけどね。字幕版でいいじゃないかという人もいるかもしれませんが、それはマニアの意見なんですよ。一般の人が見るのは、やっぱり吹き替え版で、とくに子どもは吹き替え版じゃないと見られません。贅沢な意見かもしれませんが、見てもらうための努力を国策ふくめやるべきだと思います。
日本のゲームもすごくかんばっていると思います。ただ、ゲームは逆に攻めこまれることも増えていますね。Appleのダウンロードの順位を見ても、50位ぐらいまでの間に海外タイトルが10本以上入っている。これまで日本のゲームマーケットに、ここまで海外勢が入ることはなかったと思います。しかもユーザーのなかには、海外のゲームだと知らずにプレイしている人もたくさんいる。
――ブシロードは、わりと早い時期からスマホ向けゲームをつくりはじめている印象です。これは、今のような未来を想像されていたからでしょうか。
木谷:スマホ向けアプリは、6年前に、担当役員の広瀬(和彦)と進出するかしないかという相談をしたんですよ。インフラもノウハウもまったくないけれど、出すのも出さないのも恐いから、同じ恐いのだったら進出するほうを選ぼうと、やることに決めました。「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」(※以下「スクフェス」)が当たったからよかったですが、そうでなかったからとっくの昔に撤退しています。
――そうなんですか。
木谷:なかなか続くヒットがでないんですよね。「しんちゃん」(※「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 炎のカスカベランナー!!」「クレヨンしんちゃん 一致団ケツ!かすかべシティ大開発」)がよかった時期もありますし、「しろくろジョーカー」は3年続いていますけれど。そんななか、スマホ向けアプリは「音楽ものがいいんじゃないか」と思うようになりました。「スクフェス」を13年1月からはじめたから、14年の頭ぐらいに考えはじめたのかな……。スマホって、音楽やライブと相性がいいんですよ。また、仮にアニメが当たったとして、第2期を放送するまで間があくことがありますよね。そこでファンの熱が冷めてしまうことがよくあるんです。そんなとき、作品に関するアプリがあったら、デイリーアクティブユーザーがいるわけですよね。それとリアルのライブやイベントを楽しんでいただくことによって、ファンの熱を持続させることができる。だから、しばらくは音楽もののコンテンツをつくっていこうと思っていたときに、「BanG Dream!(バンドリ!)」のアイデアを思いついたんですよ。
スマホ向けアプリゲーム「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」
(C) BanG Dream! Project (C) Craft Egg Inc. ©bushiroad All Rights Reserved.
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――どんなきっかけがあったのでしょう。
木谷:愛美さんが、「アイマス」の「ミリオン」(※「アイドルマスター ミリオンライブ!」)に入っていて、さいたまスーパーアリーナでギターを弾いたんですよ。(※「THE IDOLM@STER M@STERS OF IDOL WORLD!!2014」)。僕は生では見てないんですけど、部下がそのことを報告してくれて、「愛美にガールズバンドをやってもらったらどうか」と言ってきたんです。「え、なんで?」と聞いたら「愛美がギター弾いた瞬間、さいたまスーパーアリーナがどよめいたんですよ」と。このどよめきには2つの意味があると思うんです。ひとつは「ここまでキャラに合わせてくれたんだ」という喜び、もうひとつは「声優なのにギター弾けるんだ」という驚きですね。そこから、ガールズバンドをやってもらうのはいいけど、コンテンツにしなければ意味がないと、楽器を弾ける声優さんを探しながら企画をつくっていきました。で、キャスティングが決まったら、1年後にはもうライブをやるぞと。最初はもう何がおこるか分からないので、それこそ練習ぐらいの気持ちで、どんどん実践をつんでもらい、昨年の夏にはとうとう武道館までいきました。メンバーは皆どんどん入り込んでいくし、チームワークもすごくよくなって、本当のバンドっぽくなってきました。まだまだ広がっていくと思いますよ。
――ブシロードさんの作品で印象的なのは、継続の強さがあると思います。「ヴァイスシュヴァルツ」など、私のようにカードゲームをやらない人間でも、アニメの間にやっているCMを何度も見ることで刷りこまれてしまいました。
木谷:そういってもらえるとありがたいですね。ちょっと前まで僕は、「流行っている感」が大事だと言っていましたが、今はもう違います。「勝ち組感」が大事なんです。
――どういうことでしょう。
木谷:今の世の中は、エンターテインメントやコンテンツがすごくふえて、お客さんは、そのなかから選んでいますよね。日々接している情報自体も、どうでもいいものをふくめて莫大に増えている。昔だったらテレビと新聞、せいぜいラジオぐらいだったものが、今はもうネットでも流れるし個人でも発信できますし、情報の生産のされ方がとんでもなく増えています。
エンタメも情報も多い。そんななかから、お客さんは自分が楽しむために大切な時間とお金を使わなければいけない。「楽しむ」ってことは、時間とお金をそれに対して“張る”ってことですよね。だったら、半年後になくなっているような「負け組」には張りたくでしょう。だから、勝ち組がさらに勝つんですよ。
――見るテレビアニメを決めるときも、そういうところがあるかもしれません。自分が本当に好きなものというより、これを見ていればみんなと話ができるとか、これを見ておけば間違いないというか。
木谷:そういう意味でいうと、オタクはいなくなった……いや、みんな何が面白いのか分からなくなったという言い方のほうが正確かもしれません。だから、方向性がしめされて道筋ができると、みんなワーッと集まるわけですよ。その波も、ほんのちょっとしたきっかけで引いてしまうこともあるわけで、勝ち組感があっても、振り子が反対にふれてしまえば完璧な負け組感に変わってしまい、どうやっても取り戻せなくなるときもある。これは本当に恐いことですが、それだけプロモーションが大事な時代になってきているともいえます。僕はそっちのほうが得意なので、のぞむところですけどね。
作品情報
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幼い頃、星空を見上げた時に聴こえた「星の鼓動」のように、キラキラでドキドキなことをずっと探していた、香澄。高校に入学したばかりのある日、古びた質屋の蔵で出会った「星型のギター」に初めてのときめき...
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