編集長の大口(左)とFPの横山光昭さん(右) ファイナンシャル・プランナー(FP)の横山光昭さんといえば、当マネー研究所をご覧の方にとっては連載「もうかる家計のつくり方」の筆者として有名でしょう。一方、我々のような金融メディアの間では「6人の子供を持ち、ユニークな金銭教育を実践している人気FP」として有名なのです。6歳の保育園児から小3、中2、高2、大2、大4までの子供6人に奥さんも加え、毎月、全員で「家族マネー会議」を行い、子供には外貨で小遣いを渡す。今回はそんな横山さんに、私(編集長の大口)が横山家の金銭教育と今どきの教育費づくりの考え方をじっくり聞いてきました。
■全て公立でも1000万円、だが「負債」ととらえない
1本目の動画では教育費づくりの考え方をまとめています。
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教育費といえば、最近はざっくりした目安として「大学を卒業するまで、全部公立でも1人1000万円はかかる」といわれています。文部科学省の「平成28年度子供の学習費調査」によれば、幼稚園(3歳)から高校3年までの15年間、全て公立に通った場合の学習費総額は約540万円(全て私立なら約1770万円)。この後、大学の学費負担が急に厳しくなり、日本政策金融公庫の「教育費負担の実態調査結果」(平成28年度)を見ると、卒業までに必要な入学・在学費用は国公立大で約485万円(私立文系は約695万円、私立理系は約880万円)。高校までの540万円と合わせると1025万円となり、全て私立なら2500万円前後にもなります。
この他、食費や衣服代などの養育費もかかるわけですから、子供がいない私でも「子育ては本当に甘くないな」と感じます。特に横山家には保育園児から大学生まで6人の子供がいるので大変そうに思うのですが、横山さんは「そこは子供たちと語り合いながら計画を立て、うまく対処している」と落ち着いた様子。むしろ「子供にお金をかけてあげるのは大事なことなので、子供を単純に『1人あたり1000万円の負債』のようにとらえるべきではない」と言い切ります。相談者の中には「これから何年間で○○万円用意しないと……」と数字で頭をいっぱいにして悩んでいる人もいるそうですが、これらの数字はあくまで平均値。「実際には思ったほどかからないケースもあるし、子供が多いと1人あたりの養育費の部分は平均より下げられる」からです。
一方、「お金の使い方ではバランスが大事。子供の教育費に全てをかけて親が老後破綻するようでは、結局は子供の負担を増やすことになるので良くない」とも。また「一番上の子に教育費をかけすぎ、下の子たちに回らないというのも不公平になる」と、子供全員のバランスにも配慮が必要だと訴えます。
幸い、教育費づくりは計画をもって臨めば子供が小さいうちから時間をかけて行えますし、児童1人あたり月5000円~1万5000円の児童手当もあります。ただ、長引く超低金利の中で預金ではほとんど増やせませんし、これまでの主役だった学資保険でも元本割れするものが増えています。では、どんな金融商品を使えばいいのでしょうか。横山さんは「教育費づくりというと、つい色を付けて(利息や運用益を期待して)増やしたくなるが、現在の環境ではそれは難しい。なので大きく増やそうとは考えず、色の付かない元金の部分をしっかり積んでいくという考え方でいい。それにはiDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISA(積み立て型の少額投資非課税制度)など、非課税メリットのあるものから先に使っていくのが基本」としています。
iDeCoは60歳まで引き出せませんので、横山さんは「親自身の資産として」という意味で例に挙げているのですが、一方では晩婚・晩産化も進んでいて人生の資金需要のピークが後ずれしていますので、最近はiDeCoのお金を大学生の子供の教育費に充てる、というようなことも実際にあるようです。
いずれにせよ子供自身の将来にかかわるお金ですので、子供がある程度大きくなったら「本人ともよく話し合いながら、家族全体で方針を決めていきたい」ということです。
■毎月「家族マネー会議」を開き、小遣いは外貨で
2本目の動画では横山家の金銭教育の実際を紹介しています。
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まず、これは相当珍しいと思うのですが横山家では毎月家族8人で「家族マネー会議」を開いているそうです。横山さんの仕事の状況から現在の収入、支出、それぞれの買いたいものやお金の使い道を話し合う会議で、「我が家はいわば『株式会社横山』のようなもの。子供であっても全員が一丸となって、同じ方向を向いて家計に協力していくのを理想としている。家族マネー会議は、そのための『経営会議』といった位置づけ」(横山さん)。私はちょっと感動してしまいました。
というのは、日本の家庭ではよく「子供にお金の苦労は見せない」「(お金は汚いものなので)家ではお金の話はしない」などと言いますよね。でもお金が汚いものであるはずがないし、親のそういう思い込みによって、子供が正しい金銭観を身に付ける機会を失っているのでは、と常々思っていたからです。もちろん学校でもお金の持つ意味や大切さなどは習いませんから、「日本人の金融リテラシーは国際的に見れば中学生レベル」などと言われてしまうわけです。
その点、横山家では従来の全く逆を実践しており、子供にも家計の状況を一切隠さずに伝えているわけですから、こうして育った子供たちはきっとお金の大切さを誰より正しく理解していることでしょう。もっとも、「パパの仕事、最近あまりうまくいってなくてさ」とか「先月、上がると思って投資した株は暴落しちゃったんだ」などと子供に説明するのは、親自身が相当腹をくくっていないとできないと思います。なので普通の家では、従来像と横山家の中間くらいで、「なるべく子供とお金の話をしていく」くらいのところから始めるのがいいかもしれません。
そして2つめのサプライズが、横山家では小遣いを外貨で渡しているということ。毎月必ず外貨というわけではなく希望すれば円でももらえるそうですが、為替の状況によっては円でもらうより得な場合もありそうです。また使う際にも「○○が欲しいけど、今は円高だから買わない」などと、必然的に為替動向を意識し、熟考してから使うようになりますよね。投資をすると経済や為替にアンテナが立つ、とよく言いますが、このやり方なら小遣いをもらったり使ったりするだけでも子供が経済ニュースを見るようになるはずです。
お金の使い方といえば、横山さんは「消・浪・投」の3つに分けて考えるのが重要だといつもおっしゃっています。それぞれ消費、浪費、投資の略ですが、聞いていて私が面白いなと思うのは「人間には浪費も必要だ」と認めているところです。FPだから単純に浪費をいさめ、投資を勧めるというわけではなく、「頑張った後の息抜きは必要なのだから、浪費も大きな割合にならない限りはあってもいい。また一見浪費に見えても、後から考えればそれは必要な自己投資だった、ということもあり得る」(横山さん)。家族マネー会議でお互いの買いたいもの、お金の使い道をプレゼンする際には、やはりこの「その使い道は消・浪・投のどれなのか」という議論になるそうです。
今回は教育費という入り口から入りましたが、子供にお金の価値を教える重要さや、そもそもお金の価値とは一体何だろうかということを私自身考え直す良い機会になりました。(マネー研究所編集長 大口克人)
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