「人種差別」広告はわざとなのか

チェリー・ウィルソン記者 BBC「ニュースビート」

左から順に、ハイネケン、H&M、ダヴの広告 Image copyright Heineken/H&M/Dove
Image caption 左から順に、ハイネケン、H&M、ダヴの広告

広告が「人種差別的」だと批判を集め、取り下げや釈明に追われた大手ブランドが相次いでいる。

スウェーデンの衣料品大手H&Mは今年1月、黒人の子供が「ジャングルで一番クールなサル」と書かれたフード付きスウェットシャツ(パーカー)を来た広告写真で謝罪に追い込まれた。

その数カ月前には、米日用品メーカー「ダヴ」が、黒人女性がシャツを脱ぐと白人女性に変わるCM動画について謝罪している。

最近では、オランダのビール会社、ハイネケンが出した「ハイネケン・ライト」のCM動画を、歌手のチャンス・ザ・ラッパーが「ひどく人種差別的」だと呼び、「注目を集めるため、明らかに人種差別的な広告をわざと出している」と批判した。

チャンス・ザ・ラッパーの主張に真実味はあるのだろうか。

A tweet by Chance the Rapper Image copyright Twitter/ChanceTheRapper

クリアリーPRマーケティング・アンド・コミュニケーションズのポール・マッケンジー=カミンズ社長は、一部のブランドは人々の関心を集めるために人種問題を使っている、と考えている。

マッケンジー=カミンズ氏は、「広告会社で働く人たちは賢い人たちだ。高い技能と莫大な予算を持っていて、顧客ブランドの認知度を上げるプレッシャーは高まる一方だ。市場は非常に競争が激しく、小売分野でこれほどまでに競争が激化したことは今までない。何らかの手で、人々に目や耳を向けてもらう必要がある」と指摘した。

歌手のザ・ウィークエンドは問題となった広告を受けてH&Mと関係を断った Image copyright H&M website
Image caption 歌手のザ・ウィークエンドは問題となった広告を受けてH&Mと関係を断った

広告業界で11年間のキャリアを持つマッケンジー=カミンズ氏は、このような方法は最終的にはブランドの評判を傷付けることになると考えている。

「広告が意図的に挑発的で、メディアの注目を集めようとしているという点で、チャンスさんはある程度正しい。その面では効果は出ている。その面では、というのが重要だ。結局はそこに行き着く。彼らが思っている以上に、最終的にはブランドに傷が付く」

この広告は、人種間の恋愛をタブーだと示唆しているとして禁止された Image copyright ASA
Image caption この広告は、人種間の恋愛をタブーだと示唆しているとして禁止された

英国で広告に関する基準を定める広告基準協議会(ASA)によると、2013年以来、956の広告について人種差別だとする苦情が2396件寄せられたという。

このうち12件について正式な調査が行われ、10件で苦情の内容が認められた。ASAには、基準に違反していると判断された広告を禁止する権限を持つ。

最近の例では、ブックメーカー(賭け屋)のパディ・パワーが出した、プロボクサーのフロイド・メイウェザー氏の写真に「いつも黒に賭けろ」という言葉を組み合わせた広告が問題となった。

ASAは広告を禁止する理由として、「人種の面で非常に不快な思いをさせる可能性が高い」とし、パディ・パワーに再発防止を求めた。

パディ・パワー社は広告が軽蔑的、悪趣味、あるいは不快だとは思わないと反論した Image copyright ASA
Image caption パディ・パワー社は広告が軽蔑的、悪趣味、あるいは不快だとは思わないと反論した

ブランド構築を支援する会社「シー・ビルズ・ブランズ」の創業者、クビ・スプリンガー氏は仏化粧品大手ロレアルや音楽賞「モボ・アワード」と協働した経験があるが、広告が出る前に多くの人が目を通しているものの、広告会社内の「ダイバーシティー(多様性)の欠如」によって、問題が気づかれない可能性があると指摘した。

「(ブランドが)罪のない間違いだとまでは言わないが、チャンス・ザ・ラッパーさんのような、意図的に人種差別をしている、という主張も行き過ぎだ。管理職や経営者のレベルで多様な人々がいる必要がある。人種だけでなく、LGBT(性的少数者)や女性で、『これは特定の層を不快にさせるかもしれないので再検討するべきかもしれない』と指摘できるような人たちだ」

モデルのケンダル・ジェンナー氏を起用したこのペプシのCMは、警察暴力などに抗議する「Black Lives Matter(黒人の命も大事だ)」運動をからかっているとして非難された Image copyright Pepsi
Image caption モデルのケンダル・ジェンナー氏を起用したこのペプシのCMは、警察暴力などに抗議する「Black Lives Matter(黒人の命も大事だ)」運動をからかっているとして非難された

英国の広告業界団体「IPA」が昨年行った調査では、業界で働く人々の12.9%が黒人あるいはマイノリティー(少数派)に属していた。

広告会社グレイ・ロンドンのサラ・ジェンキンズ最高マーケティング責任者(CMO)は、人種差別的な広告を意図的に出すブランドはないと考えている。

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人種差別と批判されたCM 出演モデルが反論

グレイ・ロンドンは、広告会社約20社が参加するダイバーシティー促進のための作業部会を発足させ、より人口構成を反映した採用を支援している。

ジェンキンズ氏もスプリンガー氏同様、広告業界のダイバーシティ欠如が、不適切と受け止められるかもしれない広告に一部のブランドが気づくことができない背景にあると考えている。

「一部に劣悪な広告活動が見られるが、一方で素晴らしい広告会社や取り組みが存在する。ダイバーシティー作業部会は、英国の最大手、そして最も将来を見据えた広告会社を結集させた。最も優秀な人材をひきつけるため、我々は協力し我々の能力を活用しようとしている」

「間違いを犯すのを心配しているのではなく、より前向きな理由でやっている。我々に多様性があれば、我々はより良いアイデアや、さまざまな視点やアプローチを手に入れることができるし、単純にもっと良い仕事ができる」

(英語記事 Are adverts deliberately being racist?

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