免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ
更新日:2018年03月29日 [
更新履歴 ]
更新履歴
2018年03月29日 |
表2、表3、表5を中心に、2018年3月現在の状況に基づいて内容を更新しました。 |
2017年05月02日 |
クレスチンが経過措置品目に移行したことから関連する記述を削除しました。 |
2017年03月31日 |
掲載しました。 |
1.免疫療法全般について
1)免疫とは
(1)私たちの体は、発生したがん細胞を免疫によって排除しています
私たちの体の中で、「自分の体の細胞」ではないものを「異物(いぶつ)」と呼びます。細菌やウイルスなどは「異物」の代表例ですが、体には異物の侵入を防いだり、侵入してきた異物を排除したりして体を守る抵抗力が備わっています。この仕組みを「免疫(めんえき)」といいます(図1)。インフルエンザワクチンなどの予防接種は、この仕組みを利用しています。
「免疫」で中心的な役割を果たすのは、血液の中にある免疫細胞の1つである白血球です。白血球と、白血球に異物の情報を伝える役割をする樹状細胞(じゅじょうさいぼう)を総称し、免疫細胞と呼びます(表1)。
(2)免疫は強まったり弱まったりしています
免疫はいつも同じ状態ではなく、異物を排除するために強まったり(アクセルがかかる)、強まりすぎたときには弱まったり(ブレーキがかかる)しています(図2)。
【免疫について、さらに詳しく】
「免疫」には私たちに生まれつき備わっている「自然免疫」と、私たちが生きていく中でさまざまな異物と接触することで得られる「獲得免疫」とがあります。自然免疫は、異物の種類によらず反応しますが、獲得免疫は異物の種類ごとに異なった反応をします。
自然免疫では、白血球の種類の中でも異物に攻撃を加えるNK細胞や、異物を取り込んで分解してしまう貪食(どんしょく)作用を持つマクロファージや好中球が働きます。
獲得免疫では、T細胞やB細胞が重要な役割を果たしています。B細胞は、異物に個別に働く抗体をつくり、異物を無害化したり貪食されやすくしたりします。T細胞は、サイトカインと呼ばれる物質をつくり、B細胞に抗体をつくるように促したり、ほかのT細胞による異物の排除をしやすくしたりします。がんの療法では、特にT細胞が中心的な役割を担っています。サイトカインや抗体は、免疫関連物質と呼ばれます。
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2)免疫療法(広義)とは
現状では「免疫療法」はさまざまな治療法を含んだ言葉であり、有効性が認められているかいないかに関わらず広く「免疫療法」と呼ばれています。そこで、この情報ページでは一般的な意味での免疫療法を「免疫療法(広義)」とし、科学的に有効性(治療効果)が証明されている治療については「免疫療法(効果あり)」として、分けて説明していきます。
(1)免疫療法(広義)は、免疫本来の力を回復させてがんを治療する方法です
私たちの体は、体内で発生しているがん細胞を免疫により異物として判別し、排除しています。しかし、図3のように免疫が弱まった状態であったり、がん細胞が免疫から逃れる術を身につけて免疫にブレーキをかけることで免疫が弱まったりすることにより、がん細胞を異物として排除しきれないことがあります。免疫療法(広義)は、私たちの体の免疫を強めることにより、がん細胞を排除する治療法です。
3)免疫療法(効果あり)の目的
ほかの治療でも同じですが、免疫療法(効果あり)から期待できる有効性(治療効果)と
予後は、病状や治療の種類によりさまざまです。このため治療を受ける際には、その目的を知っておくことが大切です。免疫療法(効果あり)で期待できる効果については、以下の3つがあります。
(1)延命効果が期待できる
(2)症状の緩和※や
生活の質(QOL)の改善が期待できる
(3)
治癒が期待できる
※腫瘍が小さくなることにより、がんにより引き起こされる症状(例えば、痛みや体のだるさなど)がとれること。
免疫療法(効果あり)は(1)あるいは(2)のために行われることが多いのですが、現在がんの治療で広く行われている外科治療、
化学療法、
放射線治療に続く治療法として期待され、研究開発が進められています。
2.免疫療法(効果あり)の種類
効果が明らかな免疫療法は限られています。
これまでの研究では、残念ながらほとんどの免疫療法(広義)では有効性(治療効果)が認められていません。現在、臨床での研究で効果が明らかにされている免疫療法は、「がん細胞が免疫にブレーキをかける」仕組みに働きかける免疫チェックポイント阻害剤などの一部の薬に限られ、治療効果が認められるがんの種類も今はまだ限られており、ほとんどの免疫療法(広義)は研究開発中です。
現在、効果が明らかにされ、
診療ガイドラインに記載されて
標準治療となっている治療方法は、表2の「1)体内の免疫(T細胞など)の活性化を持続する(ブレーキがかかるのを防ぐ)」方法と「2)体内の免疫を強める(アクセルを強める)」方法の一部に限られます。
表2 免疫療法(効果あり)の種類
国で承認され、国内の診療ガイドラインに推奨の記載がある薬を掲載
次の表3は、一定の効果があり国で承認されていますが、現時点では診療ガイドラインに記載されていない薬です。なお、薬や使用できるがんの種類が承認されたばかりの場合には、ガイドラインの更新のタイミングにより掲載されていないことがあります。また、どのような副作用が起きるかわからないことから、より慎重に使用されます。
表3 免疫療法(効果あり)の種類2
国で承認されているが、国内の診療ガイドラインに推奨の記載がない薬を掲載
1)体内の免疫(T細胞など)の活性化を持続する(ブレーキがかかるのを防ぐ)方法
図4のように、がん細胞が免疫から逃れようと体内の免疫(T細胞など)にブレーキをかけるのを防いで、体内にもともとある免疫細胞の活性化を持続する方法です。この方法として免疫チェックポイント阻害剤があります。2018年3月現在、一定の効果があるとされる免疫療法(効果あり)の多くはこの分類に属します。
図4 体内の免疫(T細胞など)の活性化を持続する(ブレーキがかかるのを防ぐ)
【体内の免疫(T細胞など)の活性化を持続する(ブレーキがかかるのを防ぐ)方法について、さらに詳しく】
免疫チェックポイント阻害剤
私たちの体は免疫により異物を体から排除していますが、一方で、免疫が強くなりすぎると自己免疫疾患やアレルギーのような病気になるので、自らの免疫反応を自ら抑制する仕組みも備えています。この免疫を抑制する仕組みを利用して、がん細胞は免疫による監視から逃れていることがわかってきました。がん細胞は、細胞表面にタンパク質でできたアンテナを出して、免疫細胞(T細胞)の表面にある“免疫チェックポイント”という「異物を攻撃せよ」と命令を受けとるタンパク質(受容体)に結合して、「免疫を抑制せよ」と偽のシグナルを送り、免疫細胞ががん細胞を攻撃しないようにします。
そこで、がん細胞が免疫チェックポイントに結合しないようにすれば、がん細胞の周囲にある免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくなるのではないか、という考えから“免疫チェックポイント阻害薬”が開発されました。免疫チェックポイントには、PD-1(T細胞の表面にある)やPD-L1(一部のがん細胞や一部の免疫細胞などの表面にある)、CTLA-4(T細胞の表面にある)などいくつかの種類があります。
現在、免疫チェックポイント阻害薬として国内で承認されているのは、
表2および表3に示した数種類の薬で、かつ一部のがんの種類に対してのみです。これらは、まだ承認されて間もない薬のため、どのような副作用がどのような状態の時に出るのかがわかっていないことから、慎重に使用されています。
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2)体内の免疫を強める(アクセルを強める)方法
免疫細胞を活性化させる物質を投与することによって、免疫細胞を活性化し、がん細胞を攻撃する治療法です(図5)。サイトカイン療法やBRM療法、がんワクチン療法、免疫細胞療法などが該当します。2018年3月現在、サイトカイン療法やBCGを用いた治療は標準治療になっていますが、がんワクチン療法や免疫細胞療法の安全性や有効性は確立されておらず、標準治療にはなっていません。また、診療ガイドラインにも推奨する治療として記載されていません。
【体内の免疫を強める方法について、さらに詳しく】
②サイトカイン療法
サイトカインとは、細胞でつくられる免疫や炎症に関係するタンパク質の総称です。インターフェロン(IFN)とインターロイキン(IL)がその代表格で、体の中にあるサイトカインとしては、現在までに100種類以上が知られています。
・インターフェロン(IFN)
国内で承認されているインターフェロン製剤には、IFNアルファ、IFNガンマなどの分類があり、さらに細かく分類された製剤があります。製剤によって使われるがんの種類が異なり、腎がんや皮膚悪性腫瘍に使用されます。IFNβは、ほかの薬の補助として使われる場合があります。
・インターロイキン-2(IL-2)
インターロイキン-2は数あるインターロイキンのうちの1つで、腎がんに使用されます。
③その他
免疫賦活剤(ふかつざい)は、特定の免疫細胞に働くわけではなく、患者さんの体全体の働きを調節すると考えられています。放射線治療や化学療法のように、がん細胞を標的とする治療法とは異なる考え方です。
・免疫賦活剤(BCG)
結核菌製剤であるBCG(イムシスト、イムノブラダー)は、膀胱がん(上皮内がん)に対する膀胱内注入療法として診療ガイドラインに記載されており、標準治療となっています。しかし、ほかには「体全体の免疫を高めてがんを治療する」という考えが、科学的に検証されて治療に応用されている例はありません。
・免疫賦活剤(ピシバニールなど)
溶連菌製剤であるOK432(ピシバニール)なども免疫賦活剤と呼ばれます。これらの免疫賦活剤は、1970~80年代に厚生省(当時)の承認を受け、現在でも公的医療保険の対象になっていますが、有効性(治療効果)についての科学的根拠が必ずしも十分とはいえないことから、診療ガイドラインに引用、記載されることなく、標準治療とは考えられていません。
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※未承認の開発中の免疫療法(広義)については「5.研究開発が行われている免疫療法(広義)・・・慎重な確認が必要な免疫療法(広義)」を参照ください。
【参考資料】
- 日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン 2018年版;金原出版
- 日本頭頸部癌学会編:頭頸部癌診療ガイドライン2018年版;金原出版
- 日本肺癌学会ホームページ:EBMの手法による 肺癌診療ガイドライン 2017年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む
- 日本肺癌学会編:肺癌診療ガイドライン 2017年版 IV期非小細胞肺癌薬物療法;金原出版
- 日本皮膚科学会編:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版;日本皮膚科学会雑誌,2015;125(1):35-48
- 日本皮膚科学会、日本皮膚悪性腫瘍学会編:科学的根拠に基づく皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン 第2版(2015年);金原出版
- 日本泌尿器科学会編:腎癌診療ガイドライン 2017年版;メディカルレビュー社
- 日本泌尿器科学会編:膀胱癌診療ガイドライン 2015年版;医学図書出版
- 日本臨床腫瘍学会編:がん免疫療法ガイドライン 2016年版;金原出版
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3.免疫療法(効果あり)の効果について
免疫療法(効果あり)ではすぐに治療効果があらわれることが多いのですが、場合によっては治療の開始からがん細胞への免疫の機能が高まるまでに日数がかかることがあります。治療を開始してから数カ月後にがんが小さくなる場合(遅延効果)や、一部の患者さんでは免疫療法(効果あり)を終了してからも治療効果が長く続く場合があることがわかってきました。そこで、化学療法とは別の効果判定の考え方が必要とされ、免疫療法(効果あり)の特性にあった効果判定の基準が検討されています。
現在までのところ、標準治療となっている免疫療法(効果あり)についてもすべての患者さんに効果があるわけではなく、一定の割合の患者さんに効果があることがわかってきました。そこで、治療効果や予後を予測する診断法を開発するために、がん細胞や免疫細胞に存在する
バイオマーカーと呼ばれる目印となる遺伝子やタンパク質により、がんの特性を調べる研究が進められています。
免疫療法(効果あり)が、どのような患者さんの長期の生存につながるかどうかについては、まだまだ多くの時間をかけて研究する必要があるとされています。
4.生活と療養・副作用
免疫療法(効果あり)にもリスクがあります
免疫療法(効果あり)は、従来の化学療法に比べて副作用が少ないと報告されています。しかし、これまでの薬とは異なる作用をすることから、免疫療法(効果あり)では副作用がいつ生じるか予測がつかないため注意が必要です。投与直後に生じることや、まれですが投与を終了してから数週間から数カ月後に生じることもあります。また、思わぬ部位に副作用が出ることがあります。
副作用が出たときには、その副作用に対して適切な治療を受ける必要があります。免疫療法(効果あり)を受ける前に、治療を提供する医師や薬剤師、看護師などに副作用についてよく確認しておきましょう。
副作用の種類は多岐にわたり、疲労、発熱、食欲不振などのほかは、免疫療法(効果あり)の種類によって異なります。
免疫チェックポイント阻害剤を例に取ると、皮膚障害、肺障害、肝・胆・膵障害、胃腸障害、腎障害、神経筋障害、内分泌障害、眼障害、インフュージョンリアクションなどがあげられます。
副作用を過度におそれることなく、事前に起きるかもしれない症状を知り、ご自身の体調を観察して、治療中や治療後にいつもと違う症状を感じたら、医師や薬剤師、看護師にすぐに相談しましょう。
【免疫チェックポイント阻害剤の主な副作用による症状について、さらに詳しく】
表4 免疫チェックポイント阻害剤の主な副作用による症状
日本臨床腫瘍学会編 「がん免疫療法ガイドライン 2016年版」(金原出版)より作成
投与を受ける際には、副作用が生じた場合の対策をしっかり行っている施設かどうかについて確認しましょう。 副作用対策として、ステロイド剤や免疫抑制剤を使用し、免疫の過剰反応に対する症状緩和を行う必要がある場合があります。
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5.研究開発が行われている免疫療法(広義)~慎重な確認が必要な免疫療法
免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤を含め、
治験や
先進医療での検討が進められています。表5にがん免疫療法ガイドラインに記載があり、まだ国で承認されていない免疫療法(広義)の種類を記載しています。これらは「効果があるかどうか」や「安全かどうか」についてはまだ確認されていませんので、慎重な確認が必要です。例えば、がんペプチドワクチンでは治験(PhaseⅢ)を行ったところ標準治療に比べて明らかな有効性を示すことができなかったとの報告があります。
自由診療で行われる免疫療法(広義)では慎重な確認が必要です
「免疫療法(広義)」は発展途上の治療法で、有効性(治療効果)が科学的に証明されていない免疫療法も多数あります。効果が明らかになっていない治療法は、保険診療として認められていないことから、患者が全額治療費を支払う自由診療として行っている医療施設もあります。一口に「免疫療法(広義)」と言っても、効果が証明され保険診療になっているものと、効果が確認されていないものがありますので慎重な確認が必要です。
患者さんやご家族が、標準治療が使えなくなって治療の選択に困り、自由診療でのがん免疫療法(広義)を選択肢として考えるときには、その選択をする前に公的制度に基づく
臨床試験、治験などの研究段階の医療に熟知した医師に
セカンドオピニオンを求めることをお勧めします。
セカンドオピニオンを求める医師がわからない場合には、ご自分の担当医や
がん診療連携拠点病院などに設置されている
がん相談支援センターにご相談ください。
表5 開発中の免疫療法(まだ効果が明らかにされていないので慎重な確認が必要)
●先進医療や臨床試験について
■参考資料
- 日本臨床腫瘍学会編:がん免疫療法ガイドライン 2016年版;金原出版
6.医師には何を聞けばよいか
1)治療の効果がどの程度証明されているか確認しましょう
免疫療法を検討する際は、まず、①受けようとしている免疫療法がどのようなものなのか、②これまでにどのような患者さんにどのような効果が認められているのか、を医師に聞きましょう。免疫療法(広義)は現在研究開発段階の治療であることが多く、信頼できる情報を集め、ご自身にどのような治療効果が期待できるかを明らかにすることが重要です。治療効果が期待できるかどうかがわからない場合には、その治療を受けないことも肝心です。
2)保険診療で受けられる治療かどうかを確認しましょう
3)考えられる副作用と対応策について確認しましょう
免疫療法(広義)では、上述の「4.生活と療養・副作用」に記したような、予測がつかない副作用が出ることがあります。
免疫療法(広義)を受ける選択をした場合には、①予想される副作用と②その対策方法、副作用が発生したときに受診する医療機関、③必要な費用(副作用が発生した場合の費用)についても聞きましょう。
次のような注意喚起もご参照ください。
「
厚生労働省健康被害情報・無承認無許可医薬品情報」
「免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブオプジーボ®)、イピリムマブ(ヤーボイ®)などの治療を受ける患者さんへ」(公益社団法人日本臨床腫瘍学会)(平成28年7月13日)
※ほかの病院で治療を受ける場合には、主治医に話しましょう。
※よくわからないとき、困ったときには、全国の「がん診療連携拠点病院」などに設置されている「がん相談支援センター」に電話や面談で相談することもできます。
お近くのがん相談支援センターは「
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