「小さい会社こそ、法務が重要」。AI-CON導入で、法務力を向上する

受託開発を事業の中心として、2010年12月に設立されたヴェルク株式会社様。2014年には自社開発のクラウド型業務管理システム「board」をリリースし、現在まで右肩上がりでユーザ数を伸ばし続けています。

同社で法務を担当するのは代表取締役の田向祐介様。中堅から大企業まで幅広く手がける受託開発の現場で、何百という契約書を目にしてきた田向様に、AI-CONの活用方法と利便性、そして導入によって得られた価値とは何かを伺いました。

設立の経緯や御社サービスへの想いを教えてください

エンジニアが、一生エンジニアとして食べていける環境をつくりたい

私は大学を卒業し業務系システムをつくる会社に就職しています。開発やコンサルティングを経験したあと、10名ほどのベンチャーを経てヴェルクを設立。現在も経営者としての仕事をしながら、エンジニアとしてばりばりコードを書いています。boardのメイン開発者でもあります。

起業を考えたのは、「エンジニアが、一生エンジニアとして食べていける環境」を実現したいという思いから。

エンジニア界隈では「35歳定年説」がささやかれがち。年齢を重ねることで新しい技術の吸収が難儀になるといわれますが、日本の働き方も要因の一つだと考えています。

日本では30代半ば頃から管理職となり、マネジメント中心の業務にシフトするケースが多いもの。一度現場を離れると、新しい技術をキャッチアップし続ける必要のある技術職の性質上、マネジメントに注力すればするほどエンジニアとしてのキャリアはそこで途絶えてしまいます。マネジメントスキルは、エンジニアとしてつちかってきたスキルと別物ですからね。

変化の早いこの業界で、エンジニアが新しい技術に対応しながら年齢を重ねてもエンジニアを続けられるような環境をつくりたい。その思いから、2010年に立ち上げたのがヴェルク株式会社です。

2018年現在、従業員数は5名、平均年齢は30代前半という若い組織です。バックオフィス専任者はおらず、主に私が対応しています。

2004年にフューチャーシステムコンサルティング株式会社(現・フューチャーアーキテクト株式会社)に入社。開発者として、プロジェクトリーダーとして、システム開発からシステムコンサルティングまでスキル・経験を積む。

受託開発と自社サービスの両立を目指して

弊社の事業は受託開発が中心ですが、創立以来、受託開発と自社サービスの両立を目指してきました。受託開発の入金は納品後の翌月など。納品は受注してから数ヶ月先になることが多いため、その期間はキャッシュフローが悪化してしまいます。中期的に経営を安定させるために、納品がなくても毎月売上が入る仕組みが必要でした。そこで自社サービスの開発と、受託業務との両立に取り組むことに。boardを提供しはじめて3年半が経ちましたが、おかげさまで現在では自社サービスが、売上の基盤となっています。
経営・業務管理システムである「board」はもともと、経営者である私が自分自身のためにつくったもの。自分たちの強みである業務・経営の理解や開発部分に注力しながらながらユーザ数を伸ばしてきました。

受託開発のなかで最近増えているのは、Tableauを使ったデータ分析系の仕事です。小売・大学など様々な業界のお客さまを支援しており、たとえば大手スーパーマーケットチェーンに対してPOSデータを分析するプラットフォームを整えて、お客さま社内の分析チームを育成をしています。今後事業としては、このようなデータ分析と「board」に注力していきたいと考えているところです。

AI-CON導入のきっかけとご利用状況を教えてください

無駄の排除と価値を出せる業務への集中

弊社では、お客さまと基本契約を結ぶ際には弁護士さんに都度レビューを依頼しています。

一方、NDA(秘密保持契約)は、項目が決まっていて、項目の内容もある程度パターン化されていると思い、私ひとりで判断しているものが多い状況でした。私は法務のプロではありません。AI-CONの導入前は、月3〜5件契約の締結業務が発生するたびに1件あたり30分ほどかけて契約書を読み込みました。やはり、見落としを不安に感じます。経営者として広範囲の業務をこまごまと扱うなかで、契約書にかかる時間とストレスが負担になっていた状況でした。

AI-CONを使い始めたきっかけは、弊社が顧問をお願いしているGVA法律事務所からの紹介です。NDAを結ぶ際にはまずAI-CONでレビュー。自分の認識と合っていた部分、見落としていた部分を確認します。自分の認識と合っていた部分は、レビューにその理由まで書かれているので知見が高まるんですよね。そして、弁護士さんへ相談が必要なケースと不要なケースを切り分けることためのツールとして活用しています。

定型業務とストレスは少しでも減らしながら、その時間を価値を出せる業務に回したいというのは誰しも感じていると思います。私の場合、一番価値を出せる領域はやはり開発。開発に集中するための時間や精神状態をきちんと確保することは、パフォーマンスに直結するためとても重要です。AI-CONは判断の根拠になってくれて、心理的ストレスを減らすことができます。その意味で、AI-CONは本質的な業務に集中するための支えになってくれています。

AI-CONの詳細なレビュー結果を読むことで、法務力が向上

実は、AI-CONを導入した後の方が1件の契約書にかける時間が長くなりました。レビューのコメントがとても勉強になる内容なので、時間をかけて読み込むためです。

通常弁護士さんへのレビュー依頼では、問題のある箇所にのみ指摘が入ります。問題のない箇所については条項の意図を知る機会がなく、その部分に関する知見は得られません。

それに対してAI-CONは、契約内容について一通りのレビューを返してくれます。問題ない箇所も含めてポイントとなる知見を蓄積でき、自分の法務力向上につながっていくのです。

法務力は、小さな会社にとっては非常に重要なものです。もし訴訟になれば、資金力が低くて法務対策に力を割くことができない私たちのような小さな会社は、非常に不利です。訴訟が会社経営に影響すれば、社員が困ります。社員を守るためにも「予防法務」に力を入れるべきと考えています。

開発業務には法務的なリスクがつきもの。取引先から提案される契約書が不平等であることもあります。受託開発で論点になりやすい点は、コードの著作権、瑕疵担保期間、検収期間、損害賠償上限などです。

一度結んだ契約内容の変更は時間と手間がかかります。不平等な条項を受け入れてしまえばその会社と取引する限り、半永久的にコストとリスクを重荷として背負うことは避けるべきでしょう。

とくに、大手企業から提案される契約書は不平等なケースがよくあります。法務部が自社を守るための雛形を作成し、現場の事情が加味されていないように見受けられることも多いです。相手が大手企業だと、契約内容について意見しにくい心理もあるかもしれません。しかし仕事をする上では、私たちはあくまでビジネスパートナーという対等な立場。思い切って窓口となっている担当者に修正依頼とともに理由を連絡すると、担当者が調整してくれるケースも多いものです。

会社の規模が小さいと法務部を社内に持つのは難しいですし、弁護士さんに毎回レビューをお願いするというわけにはいきません。そもそも弁護士さんと顧問契約をすること自体、金銭的にも心理的にもハードルが高いことだと思います。弊社も顧問契約をしたのは、起業して3〜4年目の頃でした。

いまでこそ契約書を読めるようになりましたが、前職では苦労しました。前職も小さな会社で法務部がなく、相談相手もゼロ。自分にも知見がなくて困ってばかりでした。まず、文字を目で追っても契約書の条文が頭に入ってこないんですよね。ですので、経験が少なくて困っている人の気持ちはわかります。

AI-CONによって、社内で法務力を向上できるのは、弊社のような小さな会社にとって大きな価値だと考えています。

属人的なものをシステム化することで、再現性の向上にも貢献

AI-CONは、私が今後法務を別のメンバーに引き継ぐことになった場合にも有用だろうと考えています。弊社の規模では法務専任ではなく、バックオフィス全般の担当者が法務も兼任する可能性が高いです。この場合、それまで私が身につけたすべての知見を短時間で引き継ぐことはできません。専門知識がない社員が担当となった場合もAI-CONのレビュー機能があれば法務まわりのリスクを削減できて予防法務に繋がります。

プロでない限り、契約書を読んだ時の理解度は、そのときの集中力ややる気、忙しさによってどうしてもムラが生じます。私自身、集中できていないときに読むと「なんとなく良さそうだ」と思ってしまうことはあります。でも契約書は判を押したら最後。雰囲気で判断することは許されません。

そのようにムラが生じやすい人間の判断に契約書を委ねず、常に一定レベルでレビューが返されるのはAI-CON活用におけるメリットの1つではないでしょうか。

今後の展望について教えてください

法務は、小さな会社ほど注力すべきもの

弊社は、今後も受託開発と自社サービスの2本柱で事業を進めていきます。私自身も経営者としての仕事とエンジニアとしての仕事を両立し続けたい。

弊社が成長する上で一つの重要なテーマとして考えているのが「労働集約型」からの脱却です。小さい会社にとって採用は本当にハードルが高く、しかも人口は減少傾向なので、「人を増やすこと」に依存したモデルは厳しいと感じています。

社内で冗談半分で「10人で利益を10倍にする方法を考えるのが自分の仕事」と言っています。利益を増やすためには、攻撃(売上の増加)と守り(効率化と予防法務)が重要で、AI-CONは、法務の効率化と予防法務に大いに役立つと感じています。

バックオフィスのなかでも特に法務は、小さな会社ほどしっかりと力を入れて対策すべきと考えています。裁判沙汰になれば小さな会社は資金力がなく厳しい戦いを強いられます。。社員を守るためにも、トラブルに巻き込まれないよう法務対策をしておくことが必要です。意識と労力を少し割くだけでも、リスクは大きくヘッジできると思います。

弊社では弁護士さんに法務的なリスクをまとめたマニュアルをつくっていただき、日々の開発業務のなかでどのような法的リスクがあるのかを、社員みんなで認識するようにしています。私自身も会社と社員を守るために、より一層法務力を磨いていかなければと思っています。