パッと見この料理、何に見えますか?
スープ、リゾット、おじや……? 独得のルックスですよね。たくさんの粒々、これはパスタや米でもなく、麦でもありません。みんな、そばの実なんです。
徳島県に伝わる郷土料理、「そば米汁(そばごめじる)」というもの。「そばと米汁」ではなく、「そば米と汁」で「そば米汁」です。
そばの実は、おなじみ「そば」の原料。いつも食べている麺はあの実を粉にして、こねて伸ばし、切ったものです。
そばを実のまま使う料理は全国的にもめずらしいんですが、これがね……
うまいんですよ……!
一度食べてすっかりハマりました。日本の郷土メシに興味があっていろいろ調べては食べているんですが、「そば米汁」は何度も家でリピートしてるもののひとつ。
そばの香りに、鶏肉のうま味、野菜の甘みが加わって、実に優しい味わい。そばだけに腹のこなれもよく、朝食や軽食として最高なんだなあ。味つけもあっさり。
現地の人からは「夜中、小腹が空いたときの定番です」という声もよく聞かれました。パスタ類や米、ラーメンなどの料理よりもカロリーオフ、胃に軽いのもうれしいところ。
そばの実、最近では大手スーパーの雑穀コーナーで見かけることも多くなってきました。もしあったらゼヒ試してほしいです。まずは作り方をご紹介!
レシピはこちら
そば米汁 材料(3~4人前)
- そば米 100g
- 鶏モモ肉 80g
- ニンジン 25g
- ちくわ 30g程度
- 水 600ml
A
- 酒 大さじ2
- みりん 大さじ2
- 醤油 大さじ2(あれば薄口醤油で)
今回は最低限の材料で、シンプルなやり方をご紹介します。
1:材料はそれぞれこんな風に切っておきます。ニンジンはいちょう切り、ちくわは輪切りに。幅は3ミリぐらいでしょうか。鶏肉はひと口大に切りましょう。大きさで言うと3センチ大ぐらい。
ざっくりで構いませんよ!
2:湯を沸かして、そば米を下ゆで。約10分煮て、ざるにあげてください。
3:別の鍋に水、Aを入れて、1で切った具材すべてを入れて一度沸かします。沸騰したら中火にして10分煮ましょう。
4:そば米を加えます。
5:ここで味見。薄ければ塩少々で調節してください。
うつわに盛って、完成です! もしあれば、青ネギや三つ葉を添えてください。彩りも香味もよくなります。
【ポイント】
- 具材としては他に、大根、白ネギ、キノコ類、豆腐、ゴボウ、油揚げなどを加えてもおいしい。
- 今回は簡単に水でやりましたが、現地ではいりこだしでやることも。うま味の相乗効果でよりコクが増します。
- 干しシイタケを加えることも多く、戻し汁を加えて煮れば、さらにうま味は増します。料理に慣れているかたは「いりこだし+干しシイタケ戻し汁」でやってみてください。干しシイタケはもちろん刻んで汁の具に。
- だしを使用する場合、醤油は大さじ1から試して、味見して量を加減してください。
料理の背景にあるもの
徳島県といえは、まず有名なのが阿波踊り、そして鳴門(なると)のうず潮でしょうか。鳴門のワカメも有名ですね。海のイメージが強いかもですが、実際は県の約8割が山地なんです。
米が作りにくい土地が多く、雑穀やそばが日常食として長く食べられてきました。特に四国山地にある祖谷(いや)地方は、「そば米汁」の“本場”として知られています。
「昔は正月や婚礼など、お祝い事には必ず作りました」「『そば米汁』とも、『そば米雑炊』とも呼ばれますね」とは現地のかたの声。
太平洋戦争後、「そば米汁」は祖谷地方のみならず、県内全域で食べられるようになったと聞きます。
「戦後、米の無い時代の代用食だったんでしょうね。昔は山のほうのものだったけど、『食べてみたら意外においしいね』なんて広まったんじゃないですか(笑)」と話してくださったかたもいらっしゃいました。
「もともと山あいの料理なのに、なぜちくわが具に?」
と、思ったんですよ。県人のかたに聞いてみたら、「県の名物というか、ちくわってすごく身近なものだから、自然に具になったんじゃないか」「練りものからも良いだしが出るしね」なんて声が。
たしかにちくわは、徳島県の特産物のひとつ。竹がついたままの「竹ちくわ」が特に有名です(写真上)。またこれは「そば米汁」に限らずなんですが、聞き取りをしていると、昭和40年代後半ぐらいから練りもの類(ちくわ、かまぼこなど)を伝統的な煮もの、汁ものに加える人がどうも各地で増えたようなんですね。
これは「たんぱく質をもっと取ろう」という栄養意識の高まりが原因のよう。そういうこともあって「『そば米汁』にちくわプラス」が定着していったのでは……と考えます。
平家の落人が考案?
(祖谷は)下界と隔絶した別天地の秘境。屋島の戦いに敗れた平家の落ち武者の一族や、山岳武士たちの世を忍ぶ絶好の隠れ場だった。
『日本の郷土料理』実業之日本社 1966年刊
その昔に平家の残党が祖谷に逃れてきて、畑を耕しそばを作り、「そば米汁」の原型が生まれた……なんて逸話、地元ではよーく聞かれるんです。もちろんこれは伝説の域を出ません。けれど郷土料理は、そんな土地のヒストリーが見え隠れするのが面白いもの。
現在でも祖谷はアクセスがいいとは決して言えません。でも、その不便さが現代においてかえって希少となり、豊かな自然が残っていることも含めて、海外からの観光客も増えているんですよ。そばは今も祖谷の名物。そば米だけでなく、一般的なそばも人気です。
さて、きょうは「そば米汁」に春セリをたっぷり入れて楽しみました。刻んで最後に加えてひと煮するだけ。
そばの実を使った料理は山形県にもあるんですが、その話はまたの機会に。そば米を見つけたら、ぜひ「そば米汁」をお試しあれ。