また、小池晃参議院議員は、佐川氏が昨年2月に国会で改ざん前の文書に基づいて答弁をしていた事実を指摘し、その文書には財務局が森友学園を訪問したことが書いてあるから、それを知らなかったと国会で答弁していたのは虚偽にあたるのではないかと指摘した。
この質問は、自白させることを目的としていない。客観的証拠との整合性を論理的に問う質問である。しかも、刑事訴追の可能性は皆無であるから、佐川氏は正面から回答せざるを得ない。
ところが佐川氏は、自分の補佐人(熊田彰英弁護士)から耳打ちを受けて、証言を拒否した。
それでも小池議員の質問は見事に目的を達成した。佐川氏の供述の不自然性を国民に理解させることに成功したからである。
佐川氏は証人尋問をうまく逃げきったとはいえない。自信満々の「悪魔の証明」で墓穴を掘り、証言拒否の繰り返しによって多数の事実を隠していることが浮き彫りになった。
大切なのは、佐川氏の供述態度を見渡して、その証言が信用に値するものか否かを私たち自身が的確に判断することにある。
私は弁護士として日常的に裁判にかかわっており、法廷で相手側に尋問して証言させることもある。
そのときに、相手側が「私が嘘をついてました」と土下座をする場面は絶対にないと心得ている。むしろ、相手側は最後まで嘘をつくであろうとさえ予測して準備をする。
だからこそ、相手側へ質問をするときには、「本当のことを話させる」ことを目標にせず、「分かりやすく見抜ける嘘をつかせる」ことを目標とする。
一例を示してみよう。
法廷で「あの人が殺人犯です。夕日が東に沈む方向に、ハッキリ見ました」と証言する目撃者に対して、どう質問するべきだろうか。
「あなたは間違っている! 夕日は東には沈まないはずだ!」などと法廷で論争をする必要はない。
「あなたは、自分の目撃が絶対に正しいと思っているのですね」と尋ねたうえで、「太陽が東に沈むのを間違いなく見たのですね」と言う。それだけで質問を終わらせてよい。
これをみた裁判官は、証人が嘘をついていると分かるはずだ。
今回の佐川氏の証人喚問も同じように、論理性や客観的証拠との整合性によって真偽を判断できる。佐川氏が自白をしたかどうかは重要ではない。
重要案件について前任者から十分な引継ぎを受けていない。決裁者として関係文書を詳細に検討していない。それでも首相や本省からの指示はなかったと断言できる。
そんな佐川氏の証言を信用できるのか。私たちの判断が問われている。