この点について江田健司衆議院議員は、「もしあなたが、この改ざん問題に関与していないとすれば、そんな(理財局以外の者は誰もかかわっていないという)断言答弁はできないはず」と糺した。
悪魔の証明の不合理を突く指摘である。
これに対し佐川氏は、「官邸や本省から指示があれば私に報告があるはずだが、なかった」と言ってのけた。だから私は不存在を証明できるのだ、という佐川氏の言い分である。
しかし、これは佐川氏の証言の不合理性をさらに強めている。
なぜなら、首相官邸からの指示がなかったという根拠を、「報告を受けていない」という一点に絞り込んでしまったからである。しかも、報告を受けるという受け身の姿勢にあったことを自白している。
これでは、全ての存在事実を精査したから悪魔の証明をできるという前提が崩れてしまう。佐川氏の証言が根底から信用できなくなってしまう。
この証言によって佐川氏が僅かでも有利になるとすれば、「私が報告を受けていないところで、首相からの指示があったかもしれない」という余地があるところである。
要するに、「私は悪くない。首相と部下が悪いのだ」という逃げ方である。
しかし、佐川氏がそんな逃げ口上を意図したとは思えない。やはり、意図しないままに自ら不利な証言をしてしまった、というところであろう。
野党が強く求めて実現した証人喚問であったが、証言拒否の繰り返しによって「不発に終わった」とか「佐川氏は逃げ切った」という評価も散見される。
しかし、それは見当違いである。
そもそも、佐川氏が国会で「首相から指示されました」と言うはずがない。
もし、野党議員が「佐川氏に自白させて謝罪させる」ことを目標としたのであれば、その戦略は誤りであり見通しが甘すぎる。
先ほどの江田議員の質問をみれば、さすがにそんな甘い見通しではなかったと分かる。証言拒否を予測して、的確に準備された質問であった。