どこに行くんだろうか。いまこうして自身がその身になってみて、僕自身が一番それを知りたい。
この年度末で任期が切れる。
5年。長いと思っていた。
自分の能力の割に良いところに就けた。この次はテニュア職だ。准教授だって狙ってもいいかもしれない。そんなことまで思っていた。
今、思えば滑稽だ。
助教と言ったっていわゆる特任助教だ。ポスドクに毛が生えたようなものなのはわかっていた。更新もない。
そうはいっても身の丈にあまる場所での職位、精一杯背伸びして研究も教育にも力を注いだ。
自分で外部資金取ってきて、論文だって毎年筆頭をひとつは出したさ。
同じ部局の同年代と比べて遜色ない程度にはやったんじゃないか。
公募もずいぶん出した。北から南、東から西。ときには海の向こう。
渾身の研究計画を書いて、業績欄には年齢を超える数の論文をならべた。
10にひとつは面接に呼ばれた。その都度イチから推敲したプレゼンを準備し、見知らぬ土地で熱く語った。
当て馬っぽいなと感じたものもあったけれど、これはガチだなとすぐにわかるものも多かった。
きっと僕程度の若手なんて腐るほどいる。いや、もっと能力が高い人だって…。
業界にいれば嫌でもわかる。「なんでこの人が」という人が任期付きにあえぎながらゴロゴロしている。
またこの人々と限られた椅子を巡って争わないといけない。考えるだけで陰鬱。
自分で自分を褒めてもいいんじゃないかな、などと自己満足してる程度の若手なんて、そこまでの人材。
多くの先生方に言われたのは「何とかしてやりたい気持ちはあるが…こればかりは」というやつだ。
論文も書かず、外部資金も取らず、不幸なひきこもり学生を生み出しながら、限られた席を埋め続けるあなた方の強靭なメンタルを僕もほしい。
いや、そんなメンタルはいいや。そんなものよりテニュアがほしい。
学生は言ってくれたりもする。
「先生に見てもらえて良かった」と。それだけで報われる。
そんな感傷的な記憶も、ピペットも実験ノートも段ボール箱に押し込め封をする。
桜ほころぶキャンパス。
次にどこにいくのかは、僕だって知らない。