越路吹雪物語 #57[解][字] 2018.03.28
「今日用がある」「今日行くところがある」。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
(拍手)私越路吹雪を卒業します。
えっ!?卒業って…。
あっ岩谷さん。
大丈夫?お時さん。
ごめんなさい私ったら…。
コーちゃんどういう事?嫌です…!そんなの嫌です…!奥様が引退なさるなんてそんなの嫌です…。
やだ和ちゃん私引退なんかしないわよ。
え?でも今…。
そうだよ越路吹雪を卒業って…。
ええ卒業はするわよ。
今までの私にさようなら。
新しい越路吹雪にこんにちはってね。
はあ?やだほらほら和ちゃんもう泣かないの。
コーちゃんどういう事?…うん。
ちょっとミュージカルから離れたい。
芝居がしたいの。
あっ…違うのよ今までのだってちゃんとした芝居だったわよ。
ただ…。
わかってるよ。
ストレートプレーだろ。
本格的な芝居に挑戦したい。
そう。
ちゃんと演技を勉強したいの。
ミュージカルとリサイタルそれを両輪にして越路吹雪は走ってきたわけよね?これからだってそれで走り続ける事だって出来るけど…。
でもねそれじゃあ面白くないじゃない。
私は常にラブが欲しいの。
その夜コーちゃんはいつになく仕事に関して饒舌でした
そうラブ。
私は心が枯れるのが一番怖い。
喉が枯れるのももちろん怖いけどでもやっぱり心よ。
心を枯らさないためにはどうすればいいかそこで必要なのがラブ。
なるほど。
さすが愛の人越路吹雪だね。
でしょ?私は全てにラブしてるの。
旦那様にもラブしてるし。
大好きな海外旅行にもラブしてるし。
でね仕事にもラブしたいの。
第一線で常に新しい事に挑戦したい!その仕事を愛したい!私はいつだって新しい越路吹雪でいたいの。
だから卒業か。
そう!思えばさいつだってそうしてきたよね私たち。
そうだったわね。
で美保子さんはどんな芝居がしたいの?新劇。
宇野先生の舞台に立ちたいの!宇野先生ってあの宇野先生?そう!あの!演劇界の重鎮であり名俳優の宇野重吉ときたか…。
うんそりゃいいね。
でしょ?ねえだから宇野先生に連絡をとって面会の日を決めてほしいのよ。
ええ明日ご連絡してみましょう。
よしっ!じゃあ新しい越路吹雪の道に乾杯!ああああ…。
時子はコーちゃんの舞台からの引き際の事など考えていた自分を心の中で笑うしかありませんでした
そうなのだいつだってコーちゃんはこうやって力強く進み続けていたではないか
だから自分はこの人に生涯ついていこうと思ったのではないかと
何よニタニタして。
いいなって思って。
何が?舞台を愛し舞台に愛されてるコーちゃんが。
舞台馬鹿ですから。
私から舞台を取ったらなんにも残りませんのよ。
はい存じ上げております。
あらら。
今からそんなに緊張しててどうするのよ。
だって相手はあの宇野重吉よ。
ゆうべまでは全然大丈夫って言ってたじゃないの。
映画で共演した事もあるしって。
考えたらあれ随分昔なんだもの。
私との共演なんて覚えてらっしゃらないわよ。
やっぱり私ついていこうか?いやいやいやいや…駄目よ駄目。
一人じゃ何も出来ないなんて思われたくないもの。
だけどガチガチのすごい顔してるわよ。
えっ!?嘘?和ちゃんちょっと手鏡持ってきて!
(和子)はい奥様。
どうぞ。
本当だ。
コーちゃんがこれほど緊張する宇野重吉とは…
第2次世界大戦前から舞台俳優として活躍し戦後日本の代表的新劇劇団となる「民藝」を立ち上げ俳優のみならず舞台演出家としてもその才能を発揮し続けている生ける伝説の人なのです
(ノック)失礼します。
(宇野)はい。
ああよう来たよう来た。
ちょっと休憩だ。
はい。
ほれ。
座って。
はい失礼します。
いや〜久しぶりだねえ。
はい。
あの映画の現場以来かね。
はい。
その節はお世話になりました。
いやあ何も世話なんかしちゃいないけどさ。
でまた僕と仕事がしたいんだって?はい。
宇野先生演出の舞台をやらせて頂きたいんです。
先生のもとで芝居の勉強をさせてください。
お願いします。
こらこら駄目だ。
駄目ですか?やっては頂けないんですか?スターがむやみやたらに頭を下げるんじゃないって言ってるの。
えっ?えっ…?で何がやりたいんだい?ああ…。
こっちで勝手に決めちゃっていいのか?演目。
はいお任せします。
私なんでもやります!ちぇっつまんねえの。
「私なんでもやれます!」ぐらいの事は言ったらどうだい。
あ…はい。
私なんでもやれます。
…多分。
ハハ…。
「多分」?ハハハ…。
正直な子だねえ。
ハハハ…。
すいません…。
二人芝居…?そう。
しかも相手はあの名優米倉斉加年さん!ねえ…どうしよう!どうしようって…。
ものすごく嬉しそうなんですけど?そうなの。
もう嬉しくって!だってこんな最高の舞台を用意してもらえたのよ?あとはもう私が頑張るしかないじゃない?楽しみ!でもその前に年末のディナーショーも来年春のロングリサイタルもあるんですからね。
お忘れなくね。
はいわかっております。
どれも手を抜くわけがございません。
「あなたの燃える手で」「あたしを抱きしめて」
そして1980年
春のロングリサイタルも大喝采を浴びながら無事終了しいよいよ『古風なコメディ』の稽古が始まりました
「なんてひどいオーウィ!」「云いかた」「平日だけどはれ着をきたのよ」
稽古は全て宇野の劇団の稽古場で行われスタッフも全て宇野の劇団の人々でした
実はついさっき夫から手紙が来ましたの。
あの人目下カスピ海にいるもんだからそりゃあ珍しい話を書いて寄越しますのよ。
例えば「あちらではお魚がとっても豊富だ」なんて。
しかしその…一昨日あなたは「結婚していない」と。
ハハ…まさか!
(宇野)駄目だ駄目!駄目駄目!駄目だよ…。
あのね…。
はい。
コーちゃんセリフと動きがバラバラなんだよ。
繋がんないんだ。
ああ…。
そんな慣れない環境の中コーちゃんは宇野の厳しい指導にも必死に食らいつき頑張っていたのですが…
あら。
(内藤)あれ?岩谷さん宇野さんの稽古場にはこれから?あ…いえ。
今日は遠慮しておこうかなと思って。
え?どうしてです?民藝には民藝のやり方があるでしょうから長年のマネジャーの私があんまりべったりいたんじゃ宇野さんもスタッフの皆さんもやりにくいかなと思って。
それにコーちゃんも宇野さんに怒られてるところ私に見られたくないかなって…。
うん…。
でもそれはどうですかね?…え?コーちゃん?コーちゃん…?どうしたの?いきなり電話かけてきていきなり切るから…。
なんで来てくれなかったのよ!あ…ごめんなさいね。
仕事もあったから…。
私だってね…。
私だって泣きたくなる事もあるよ!いてほしい時もある!ごめん…そうね。
いっぱい怒られた。
ああ…そうか。
だから…頑張る!うん。
だから…ちゃんと見ててよね。
うん。
うん!
そして春が過ぎ…
あっねえねえねえ!ねえお願い!もう一度…ここ教えてください。
「存在を否定しちゃったわけ」ってこの間…。
わかったちょっと待ってて。
だってこの「奥にある意味」っておっしゃった意味がちょっと…。
コーちゃん便所ぐらい行かせてくれよ。
ごめん…。
じゃあ待ってますからね。
わかったわかった。
ちょっと待ってて。
急いでね?
(宇野)はい。
そうだお時さん。
あさってもお稽古入れてもらったから。
あっ…でもあさっては杉尾先生のところの日よ?がんの定期検査はもうちょっと延ばしてもらって。
この前だって何もなかったんだから大丈夫よ。
今はとにかくお稽古したいのよ。
わかった。
じゃあこの芝居が終わってすぐの辺りに予約を入れ直しておくわ。
うんよろしく。
まだかな…?
そして幕を開けた舞台は宇野の演出越路吹雪と米倉斉加年の演技ともに喝采を浴び客席は連日満員
ついには追加公演が決まったのでした
痛っ…。
ああ〜…痛い。
ふう…。
薬飲む?ああ大丈夫。
舞台に出れば治るから。
(ため息)開演前の胃痛だけはどうしようもないね。
(ノック)
(宇野)コーちゃんいいかい?どうぞ。
(ため息)いや…なんてわけじゃないんだけどね。
この芝居終わったらさ次『桜の園』やろうよ。
チェーホフの?
(宇野)うん。
どうだい?やる!やりたい!よし決まった!ハハハ…!じゃあ今日もよろしく。
はい!今日も頑張ります!聞いた?ええ。
次!次もやろうって!うん!これって役者として認められたって事よね?うん私もそう思った。
そうよね?そうよね!よし。
じゃあまずは残りの追加公演頑張らないとね。
この時コーちゃんの目には未来へと続く明るい道が見えていました
そしてそれは時子も同じでした
まさか残酷な運命がすぐそこに待ち構えていようとは2人とも知る由もなかったのです
余命あと3カ月…。
(内藤)そんな残酷な事…美保子さんには無理だ。
あの約束は破りましょう。
2018/03/28(水) 12:30〜12:50
ABCテレビ1
越路吹雪物語 #57[解][字]
名曲「愛の讃歌」を世に送り出した戦後の大スター・越路吹雪と作詞家で越路吹雪の生涯のマネージャー・岩谷時子。昭和の時代を背景に偉大な2人の友情と波乱の人生を描く。
詳細情報
◇番組内容
美保子(大地真央)は、久々に時子(市毛良枝)の母・秋子(原日出子)に会いに行く。ある時、美保子は「今までの越路吹雪を卒業して本格的な演技に挑戦したい」と希望し、演劇界の重鎮・宇野重吉(山本學)が演出する舞台に立つ。しかし千秋楽の日、猛烈な胃痛に襲われ、胃と十二指腸の間のあたりに影が見つかり入院する。闘病が続く中、美保子は突然「やりたいことはみんなやってきたから、この世に悔いはない」と時子に告げる。
◇出演者
大地真央、市毛良枝
山本學、近江谷太朗、三倉佳奈
吉田栄作
◇ナレーション
真矢ミキ
◇脚本
龍居由佳里
◇演出
藤田明二(テレビ朝日)
◇主題歌
大地真央『愛の讃歌』(ユニバーサル ミュージック)
◇スタッフ
【チーフプロデューサー】五十嵐文郎(テレビ朝日)
【プロデューサー】藤本一彦(テレビ朝日)、布施等(MMJ)
◇おしらせ
☆番組HP
http://www.tv-asahi.co.jp/koshiji/
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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