トランプ大統領の行動に世界が揺れている。
3月1日、トランプ大統領は、「鉄鋼とアルミニウムの輸入増が安全保障上の脅威になっている」として輸入制限措置を発動する方針を表明した(鉄鋼には25%、アルミニウムには10%の追加関税が課されるとされている)。
続いて3月6日には、「経済政策の司令塔」であるギャリー・コーン国家経済会議議長の辞任が発表された。そして、3月13日には、レックス・ティラーソン国務長官の解任がトランプ大統領自身のツイッターで発表された。さらに、3月23日には、ハーバート・マクマスター大統領補佐官の解任が発表された(後任には、ジョン・ボルトン氏が就任)。
トランプ政権から去った閣僚は、いずれも利害関係国との対話を重視する「国際協調派」として知られていた。彼らを更迭したトランプ大統領の一連の行動は、トランプ政権の経済、及び安全保障政策が、より「強硬」な路線へ転換しつつある証左だと推測される。
このようなトランプ大統領の行動に対し、内外メディアは、1930年の「スムート・ホーリー法の再来」を想定してか、「保護主義の台頭」を懸念する姿勢を強め、まるで世界経済が崩壊に向かっているような書きぶりをしている。
「スムート・ホーリー法」とは、世界大恐慌の最中の1930年6月に、国内産業の保護を目的に、2万品目以上の輸入品に平均で50%程度の関税率の引き上げを行うことを定めた法律である。多くの国が米国に対抗して報復関税をかけ、当時の米国の輸出入金額が半分以下に落ち込んだ。
筆者はこれが世界大恐慌の原因だとは思わないが、恐慌の深度を高めたのは確かであろう。今回のトランプの関税措置はその再来ではないかというのが内外主要メディアの見立てである。
もし、このようなメディアの反応が正しければ、米国株式市場はそれこそ、リーマンショック以来の大暴落局面に入っていてもおかしくないはずである。だが、これまでのところ、確かにメディアが騒いだ瞬間には株価は大きく調整するものの、その翌日には、ほぼそれを相殺する大幅高を演じている。
マーケットに流れる情報は各投資家に平等にいきわたっているかもしれないが、それを分析し、解釈する能力はまちまちである。
反トランプバイアスのかかった報道を鵜呑みにする「情弱」な投資家が慌てふためいて売り急ぎ、株価が下がったところで、「賢明な」投資家がすかさず買って株価は上昇する、というように、トランプ大統領の一連の行動は、絶好のトレーディングの収益機会を与えているようにみえる。
ふりかえってみると、このような株式市場の反応は、今に始まったことではない。
大統領選の時期から過激な発言を繰り返し、世界のリベラル層を閉口させてきたトランプ大統領だが、当選後は、多くのリベラルなメディアの悲観的な予想とは正反対に、世界的な株高がもたらされた。
また、大統領就任後は、ドル安の進行もあり、「循環的に」減速が近いといわれてきた米国景気もいまだに拡大基調を続けている。
このように考えると、トランプ政権下でのマクロ経済は、トランプに批判的なリベラル層が想定しているようなメカニズムでは動いていない可能性がある。
それでは、今後のトランプ政権の政策をどのように考えていけばよいのだろうか。
残念ながら、今回のトランプの政策を「スムート・ホーリー法」と比較するのは適切ではない。