この記事は日経 xTECH有料会員限定ですが、2018年4月1日10時まではどなたでもご覧いただけます。

 2017年12月に発生した新幹線「のぞみ34号」(N700系)の台車亀裂トラブルに関し、「新幹線重大インシデントに係る有識者会議」が報告書をまとめた(報告書のPDF関連記事1関連記事2)。報告書ではこれまでの西日本旅客鉄道(JR西日本)の対応を評価・検証するとともに、事故防止に向けて5つの提言を行っている。

図1 新幹線の台車に入った亀裂(出所:JR西日本)
[画像のクリックで拡大表示]
図2 事故を起こしたのと同型の台車(出所:川崎重工業)
[画像のクリックで拡大表示]

 同有識者会議は、“異音を発していたのぞみ34号の運行をなぜ新大阪駅までの間に止められなかったのか”という課題をヒューマンファクターの視点から検討・検証するためのもの。JR西日本が2018年1月に設置した。「新幹線異常感知時の運転継続事象への再発防止対策に関する検討結果について」と題した報告書では、上記課題は指令員や車両保守担当社員、車掌らのコミュニケーション不足にあったという同社の認識とその対策については、「実効性のある」ものと一定の評価をしつつも、「より広い視点からの安全システムの改善にかかわる施策になっていない」(報告書)としている。

 例えば、現場にいない指令員の判断を仰いで対応が後手に回ったとの反省から、同社は現場・現地の判断を最優先するという方針を打ち出している。この点について報告書では「JR西日本には、対策を打ち出したらそれで終わりになりがちな傾向」(同)があると指摘。意識や価値観を定着させるためには経営トップ層が継続的に発信し続けていく必要があるとしている。同有識者会議の委員の1人である明治大学名誉教授の向殿政男氏は、「トップの安全への関与が弱い。もっと安全にコミットすべきで、そういう意味ではJR西日本の安全文化の醸成は道半ば」と語る。

 運行中に発生した異常事象について対処ルールを定めるとした点についても、「列車を迷わず止めるという意識に変えるという意味では、即効性のある対策として有効」(報告書)だが、「このルールで全ての事象に対応できるものではなく、長く続くと従事する社員等は自ら状況把握や判断をしなくなってしまう恐れがある」(同)として、今後は社員の力量を高める取り組みとともに、ルールの適時見直しが必要とコメントしている。