NHKスペシャル メルトダウン7▽そして冷却水は絞られた原発事故迷走の2日間[字][再] 2018.03.29
(爆発音)原発事故から7年。
いつどれだけの放射性物質が放出されたのか。
大気の汚染データなどから全体像が明らかになりつつあります。
放出量の変化を示す解析結果です。
3月12日水素爆発した1号機からの放出。
3月14日3号機の水素爆発。
3月15日は2号機や3号機からの放出と見られています。
そして3月18日から大きな異変が起きていないにもかかわらず再び放出量が増えています。
ただ観測データが少なく精度には限界がありました。
今月その実態に迫る新たなデータが明らかになりました。
3月18日から3回にわたって水素爆発に匹敵する高濃度の放射性物質が確認されたのです。
汚染は岩手から関東の南まで拡大。
解析では3月18日からの4日間の放出量は事故全体の4割に及ぶとされています。
実は東京電力はこの大量放出が始まる前日原子炉を冷却する水の量を大幅に減らしていました。
原子炉は2日間にわたり冷却不足に陥り放射性物質の放出につながった可能性があります。
なぜ東京電力は注水量を減らしたのか。
そしてなぜ2日間にわたって原子炉の状態が悪化している事を見逃し続けたのか。
専門家と共に東京電力や国の事故対応の記録を検証。
当事者の間で交わされた3万以上のテレビ会議の会話記録を人工知能で分析しました。
見えてきたのは事故対応のマニュアルが事態の進展に対応できていなかったという問題。
そして状況の悪化を見逃してしまう…番組では500人を超える関係者の証言やテレビ会議の記録を基に事故対応の詳細をドラマ化。
そういう手順書をちゃんとさ本店の方で作っといてほしいのよ。
真剣にそういうものを作っといてくれよ!再び重大な事故を起こさないために何を教訓としていくのか。
原発事故迷走の2日間に迫ります。
今も立ち入りが制限されている福島県双葉町。
事故から1週間後3月18日以降に起きていた大量放出を解明する新たなデータが今月明らかになりました。
原発から北西におよそ3キロ。
原発に最も近い所にある大気汚染を観測する施設です。
このフィルターで100分の1mm以下の粒子をとらえその量を測定します。
震災後の復旧作業の際に事故当時のフィルターが発見され放射性物質をとらえていた事が分かりました。
そして観測データが少なかった3月18日からの放出を知る重要な手がかりが得られたのです。
こうしたフィルターは東日本各地にありますが今回見つかったものは原発に最も近く原発からの放出をより正確にとらえていると考えられます。
このフィルターの分析を行った首都大学東京の研究グループです。
大浦泰嗣さんは事故当時の東日本各地のフィルターを6年間にわたって分析し続けています。
フィルターからは放射性物質セシウムの1時間ごとの濃度の変化を知る事ができます。
例えば3月12日の午後2時のフィルター。
放射線量を測っても大きな変化はありません。
ところがその1時間後のフィルターは…。
(線量計の音)大きく反応しました。
大浦さんは事故発生直後から2週間分の双葉町のフィルターを全て分析しました。
これは大気中のセシウムの濃度変化を示したグラフです。
3月12日は1号機からの放出。
3月15日は2号機や3号機からの放出と見られます。
そしてこれに匹敵する高濃度のセシウムを3月18日から20日にかけて3回とらえていたのです。
フィルターによって確認された3月18日からの大量放出。
実はその前日東京電力は原子炉を冷却するために注いでいた水の量を大幅に減らし事態を悪化させていました。
なぜ注水量を減らすという判断をしたのか?当時の事故対応を時系列で見ながら検証していきます。
異変が起きるのは水素爆発を起こした3号機。
メルトダウンしたあとも核燃料は熱を発しています。
水を注いで冷やし続けなければ放射性物質が浮遊し放出されるおそれがあります。
どうだ?核燃料を冷却するため消防車の運転が続いていました。
消防車から配管を伝って原子炉へ注がれていた水。
これが当時唯一の冷却手段でした。
最新の解析では消防車による注水によって3号機の原子炉の温度は下がり続けていました。
現地対策本部免震重要棟。
吉田昌郎所長をトップに200人ほどが事故対応に当たっていました。
3月15日以降東京電力トップに加え政府も参加した統合対策本部が設置されていました。
大臣おはようございます。
お疲れさまです。
おはようございます。
おはよう。
統合対策本部の責任者…自衛隊や消防など複数の組織が連携する国を挙げた体制がとられていました。
3月17日朝事態が急変します。
3号サプチャン圧力変動!30分で20キロから420キロパスカルに急上昇。
420?ちょっと見せて。
所長!3号サプチャン圧力ハンチングしてます。
現場が強く警戒したのは放射性物質を閉じ込める格納容器が壊れる事でした。
サプチャンと呼ばれる場所の圧力が20倍に上昇するなど激しく変動。
このままだと格納容器が圧力に耐えられないおそれがあったのです。
安全屋さんたちどう?東京電力本店で対応を検討したのは安全屋と呼ばれる事故分析を担当する技術者たちです。
今の必要な注水量はこれです。
現在の崩壊熱は10トンパーアワー程度。
消防車からの注水量はそれより多めになっています。
ちょっと入り過ぎてるな。
いいですか?本店の判断を受けて注水量をおよそ4分の1に減らします。
この時1号機2号機の注水量も再検討。
そして3つの原子炉の注水量を減らすという判断をしたのです。
事故後の解析では3号機の原子炉は冷却が不足し温度の上昇が始まります。
冷却水を減らすという判断。
その背景を原子炉の専門家たちと検証すると事故への備えに大きな問題があった事が見えてきました。
まあまあそらそうだね。
このマニュアルがそうだよね。
専門家が注目したのは事故対応の手順を定めた当時のマニュアル。
これが今回の事故には対応できないものだったのです。
3号機の事故対応を定めた2,000ページを超える東京電力のマニュアルです。
注水量について「外部からの注水量は2,300m^3以下」と記載されています。
この規定は格納容器を守るためのものです。
しかしこれに従おうとすると消防車による冷却を続ける事ができなくなります。
当時東京電力は原子炉へ注いでいる水の一部がサプチャンに流れ込んでいると考えていました。
サプチャンが満水になり更に水位が上がれば格納容器の圧力が上昇し破壊されるおそれがあります。
そのため注水量を減らしたのです。
つまり当時のマニュアルに従うと消防車で原子炉を冷やし続ける事と格納容器を守る事は両立できなかったのです。
東京電力が行った原子炉への注水を減らすという判断。
それは3月18日からの放射性物質の大量放出にどれほどの影響を与えたのか?最新の解析による3号機の原子炉の温度です。
200℃まで下がっていた温度が注水を減らしたあと400℃近くまで上昇していました。
この温度上昇による格納容器内の変化を放射性物質の性質に詳しい専門家たちと検証しました。
専門家たちは温度が上昇する事によって放射性物質の放出量が増加するあるメカニズムを指摘しました。
専門家たちの考えを映像化します。
メルトダウンした核燃料が溶け落ちた際充満したセシウムが水分と共に周囲に付着します。
冷却のために注いでいた水を大幅に減らした事で温度が上昇。
すると壁などに付着していた水分が蒸発。
セシウムも剥がれ格納容器内に広がります。
更に温度の上昇によって水蒸気などの気体が膨張。
セシウムが水蒸気などと共に格納容器の外に放出されます。
当時の3号機の映像です。
格納容器から漏れ出たと見られる大量の蒸気がとらえられていました。
専門家たちは注水を減らした事が3月18日からの放出につながったと見ています。
専門家たちはこのころ2号機から白煙が上がっている事にも注目しました。
3号機からの放出だけでなくほかの原子炉についても検証していく必要があると指摘しました。
注水を減らした事と放射性物質の放出の関係について東京電力は「因果関係を特定することは困難である」と回答しています。
注水量を減らした事で原子炉の状況が悪化していた3号機。
このあと東京電力は原子炉が危機に陥っている事を2日間にわたって見過ごしていきます。
事故対応の根幹とも言える原子炉の状況をなぜ見過ごしたのか?テレビ会議の会話記録を基に時系列で検証します。
実は注水量を減らした直後事態の悪化を食い止めるチャンスがありました。
新潟県にある柏崎刈羽原発からテレビ会議に参加していた横村所長の発言。
横村所長が懸念したのは消防車からの冷却水が別の場所に流れ込み原子炉に十分届いていない事でした。
しかしこの時現場の責任者である吉田所長は作業員の安全確保に追われていました。
おい大丈夫か?退避したのか?まだ4名戻ってきていないんだよな?まだです。
まだ戻ってきてません。
テレビ会議の実際のやり取りを詳細に見てみます。
横村所長が原子炉の冷却について懸念の声を上げたこの時。
吉田所長は冷却を巡る議論に加わる事はありませんでした。
更に福島第一原発では吉田所長だけでなくほかの人も注水量を減らす事に反対の声を上げていませんでした。
危機管理の専門家たちはこの一連の会話が象徴するのは吉田所長が関与しないと危機が見過ごされてしまう組織の問題だと指摘します。
実は吉田所長が対応に追われていたのは格納容器の外側にある燃料プールの冷却でした。
1号機から4号機まで合わせて3,100本余りの核燃料が保管されています。
ここにも外部から水を注ぐ必要がありました。
その時作業員が危険にさらされる事を吉田所長は懸念していたのです。
「僕は免震棟を出るまでですね現場の連中の安全が最優先しろとずっと言ってたんですよね。
一番最初に死ぬのはその人たちなんです」。
燃料プールへの対応に追われていた事は事故当時交わされた3万4,000の会話の分析からも分かります。
人の会話や文章を解析する人工知能も使って吉田所長の発言を内容ごとに分類。
発言の多さを丸の大きさで表示しています。
注水を減らす判断をした3月17日。
吉田所長が原子炉の冷却について発言した回数は僅か6回でした。
一方最も多いのは燃料プールへの放水に関する会話。
242回に上りました。
更にこの会話を詳細に分析すると関係する組織が増える事で危機を見過ごしてしまう構造が見えてきました。
これは燃料プールについて吉田所長が誰と会話を交わしたか示した図です。
一日の間に自衛隊や政治家など30以上の人や組織とやり取りをしていたのです。
組織間の調整に時間が費やされる事は調整コストと呼ばれ円滑な意思決定を妨げると専門家は指摘します。
燃料プールへの放水に伴いそれに関連する別の調整も必要になっていました。
連鎖的に増えていったのは作業員の退避や放水のための車両の誘導などの会話。
新たな調整に追われる中で吉田所長の原子炉の冷却に関する会話は極めて少なくなっていたのです。
はい。
燃料プールへの放水に向けて福島第一原発に次々と寄せられる要求。
原発事故という未曽有の事態に対し国を挙げて行われた収束作業。
それは調整コストの増加をもたらし原子炉の危機は見過ごされていったのです。
更に当時の記録を読み解くと本来事故対応を監督すべき国の機関も事態の悪化を見逃していた事が分かってきました。
東京電力と原子力安全・保安院や原子力安全委員会の間で交わされた2万枚を超えるFAX。
全ての内容や送受信の時間について分析しました。
その中の2枚に注水量を減らした事を伝える手書きの記述が見つかりました。
当時統合対策本部の責任者だった海江田元経済産業大臣。
国も注水量を減らすという情報は共有していたものの東京電力の判断に対し反対はしなかったといいます。
原子炉の危機を見過ごし続ける中大量放出が続いた福島第一原発。
3号機のデータを検証すると東京電力が原子炉の状態を知る重要なデータを計測していなかった事実も明らかになってきました。
現地対策本部がある免震重要棟から500メートルほど離れた事故対応の最前線中央制御室。
全ての電源が失われた中バッテリーを使って計器を復旧し原子炉の冷却状態を探っていました。
復旧を優先していたのは水位計。
う〜ん。
利用できる電源には限りがあり原子炉の温度を測定できる温度計の復旧は後回しになっていたのです。
なぜ温度ではなく水位を優先して計測していたのか。
東京電力で事故対応のマニュアルの策定に携わった元運転員が取材に応じました。
通常であれば水位を見れば原子炉の冷却状態は把握できます。
しかし当時事故の影響で水位計は正常に機能していませんでした。
事態を打開するために必要だったのが原子炉建屋に電気を通す電源復旧作業でした。
電源が復旧すれば温度計を見る事ができ原子炉の危機に気付く事ができるからです。
ところが…。
作業開始まだですかね?本店の指示待ちだ。
電源復旧作業は丸2日間待機の状態が続いていました。
統合対策本部で指揮を執っていた海江田元大臣の当時のノートには作業の優先順位が記されていました。
優先順位で一番初めに3号プールへの放水。
それから2番目が4号プールへの放水。
3番目が外部電源の接続という事ですが。
燃料プールへの放水と原子炉の温度を知る事につながる電源復旧作業は同時に行う事はできませんでした。
原子炉建屋の近くでの作業が必要な電源復旧。
放水によって放射性物質が飛散すれば作業員が危険にさらされるおそれがあったのです。
燃料プールへの放水を優先する事によって後回しにされていく電源復旧。
ちょっと至急だから。
至急至急!できれば夜になる前に放水作業を行いたいと考えます。
官邸に連絡します。
自衛隊が早くやりたいと言ってるから。
承知致しました。
統合対策本部が決定した優先順位。
電源復旧の遅れが原子炉の危機に気付くチャンスを失わせていったのです。
当時の福島第一原発での混乱について東京電力社員が匿名を条件に取材に応じました。
燃料プールへの放水など原子炉建屋周辺でのさまざまな対応が続く事で作業員の被ばく量は増え続けます。
現場はますます追い詰められていきました。
所長。
ん?ようやく電源復旧を開始しようとしたその時。
被ばく量が…所長。
本店さん本店さん。
みんなこの8日間ずっと徹夜してます。
それから現場行きまくってます。
被ばく量がですね既に200近くもしくは200をオーバーしているとそういう部下しかおりません。
そういう部下にですよ現場に行って高線量の所を結線してこいという事は私は言えませんよ。
線量的にもこれ以上浴びせられないんです。
そこを本当に本店さんどう思ってるのか。
中央制御室に電源がつながったのは冷却水を減らしてから2日がたった3月19日朝。
3号原子炉300℃を超えているそうです。
危機に気付いた統合対策本部。
再び冷却水の量を増やしました。
原子炉の冷却を見過ごした時に起こる現実が突きつけられたのです。
東京電力と事故対応に当たった統合対策本部の責任者海江田元経済産業大臣。
3月18日から始まった放射性物質の大量放出。
新たに得られた大気汚染の観測データを基に広範囲に及んだ汚染の実態の解明が進められています。
これは地表の汚染の最新の解析結果です。
3月17日までは放射性物質に汚染された地域は福島から岩手南部にかけてそして関東地方北部が中心でした。
それが18日以降宮城岩手で汚染が悪化。
更に関東地方南部や山梨静岡東部まで広がります。
「東京都飾区にある都の浄水場の水から…」。
東京都の水道水で基準を上回る濃度の汚染が確認されたのもこの時の放出が原因だと考えられています。
東京湾の埋立地にある廃棄物の処分場。
その一角にある黒いシートの下には原発事故によって都内で放射性物質に汚染された廃棄物が保管されています。
その量980トン。
放射性物質が漏れないよう管理が続けられていますが最終的な処分方法は今も決まっていません。
事故による放射性廃棄物は東北や関東など各地に残されたままです。
福島第一原発の事故から7年。
新たなデータが明らかにする事故の真相。
検証はまだ道半ばです。
今話題のあの人に…。
キュンキュンしちゃってる感じで?そんな女子たちが集まって。
2018/03/29(木) 01:00〜01:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル メルトダウン7▽そして冷却水は絞られた原発事故迷走の2日間[字][再]
世界最悪レベルとなった福島第一原発事故の真相に迫るシリーズ「メルトダウン」。現場で人々がどう行動し何が起きたのか、AIも使って分析。再現ドラマで詳細に描く。
詳細情報
番組内容
世界最悪レベルとなった福島第一原発の事故。独自の取材と専門家による科学的検証を重ねてきたシリーズ「メルトダウン」。今回は人工知能AIも使って、現場で人々がどう行動し何が起きたのかに迫る。3つの原子炉がメルトダウンした後も続いていた放射性物質の放出。東北地方だけでなく、一部は東京や千葉など関東地方にも届いた。なぜ放出は止まらなかったのか。当時の現場をドラマで再現し、今に突きつけられた課題を探る。
出演者
【出演】大杉漣,宅麻伸,佐戸井けん太,篠井英介,【語り】高橋美鈴
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