東野幸治が描く“ダイノジ大谷伝説”「大谷君が、芸人仲間からダントツで嫌われる理由」

芸能週刊新潮 2018年3月22日号掲載

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 東野幸治が仲間たちの秘話をつづる連載「この素晴らしき世界」。今週のタイトルは「天下を取りたい男、ダイノジ大谷(1)」
 
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 大谷ノブ彦君と大地洋輔君の2人組、「ダイノジ」を知ってますか? 結成23年、大分県出身の同級生コンビです。

 ビートたけしさんやとんねるずさん、ダウンタウンさんに憧れてお笑いの世界にやってきた。1994年のことです。

 当時の若手お笑い芸人、みんなが思っていたこと。「テレビの世界で天下を取りたい!」「ゴールデンに自身の冠番組を持ちたい!」。もちろんダイノジもそれを目標に頑張ってきました。でも無理でした。

 新人時代、銀座7丁目劇場でライバルだった「品川庄司」としのぎを削り、NHKの「爆笑オンエアバトル」に出演してテレビでの露出も増え、M-1グランプリの決勝にも出演した。結果は残念ながら振るわず、以降、テレビの世界からあまりお呼びがかからなくなっていきました。

 でもそんな若手芸人はごまんといます。チャンスを逃して落ち目になった芸人さんを私もいっぱい見てきました。

 が、しかし! ダイノジというコンビは、いやダイノジの大谷君という芸人は他の芸人とは違うんです。それは圧倒的に身内から嫌われているということです。ある雑誌で「芸人が選ぶ嫌いな芸人ランキング」というのがあって、一般的には知名度がそれほど高くなかったにもかかわらず、大谷君が大差で1位に選ばれたことがありました。テレビに全く出ていないのに……。2位が、テレビでの露出が多かった時期の、品川庄司・品川祐君。3位が「はねるのトびら」という人気番組に出演していた頃のインパルスの堤下敦君です。

 これは相当凄いことなんです。結果が雑誌に載るので、ある程度知名度がある芸人が選ばれないと読んでる人にはわからないって、選ぶ芸人側ももちろんわかってるんです。それなのに……。いざアンケート用紙に名前を書こうと思ったら……。「ダイノジ大谷」って書くんですから。

 同業者の私が言うのもナンですが、これはガチのアンケートです。不正して1位を品川君にしなかったことは、完全に雑誌側のミスですね。

 アンケートが実施された当時、大谷君はDJとして多くのイベントにゲスト出演していて、特に「ジャイアンナイト」というクラブイベントで自分のプレイ中に後輩芸人をバックダンサーとして踊らせ、場を盛り上げていたそうです。その踊りの練習が厳しくて、後輩たちは時には叱られたりもしたそうです。

 踊らされている芸人さんからしたら「こんなことするためにこの世界に入ったんじゃない」「コントの稽古がしたい」「お金がないからアルバイトしたい」「そもそも大谷さんは好きではない」など不平不満が溜まりに溜まったところで、当日のイベントを迎えました。踊りは一応成功したものの、大谷君からは幾ばくかの小銭をもらえただけ。「ふざけんな!」「安すぎるだろ!」と後輩芸人の怒りは頂点に達したそうです。その話が吉本芸人の間で一気に広まり、先輩芸人の耳にも届き大谷君は総スカンを喰らうことになりました。

 大谷君にしたら、お笑い芸人として王道で売れないなら、あの手この手で頑張っていつかこの世界で天下を取るぞ!という意気込みで始めたクラブDJイベント。まだ若く生意気な大谷君は嫌われてることを反省して好きになってもらおうとせず、笑いに変えることも媚びることもせずに、黙々とマイペースでDJイベントをやり続けます。

(ご不快かもしれませんが、大谷君の話、次回に続きます)

東野幸治(ひがしの・こうじ)
1967年生まれ。兵庫県出身。東西問わずテレビを中心に活躍中。著書に『泥の家族』『この間。』がある。