トランスジェンダー「救急外来で嫌な思い」、調査

「見世物になった」と感じる患者も、米国で対策始まる

2018.03.29
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
最新の調査で、70%のトランスジェンダーと性同一性障害者が医療の現場で深刻な差別を受けたことがあると回答した。(PHOTOGRAPH BY ANNA SCHROLL, FOTOGLORIA/LUZ/REDUX)
[画像のクリックで拡大表示]

 病院の救急外来に駆け込むような状況になれば、誰であっても精神的に弱くなるものだが、トランスジェンダー(生物学的な性と自認する性が一致しない人)の心の負担はさらに大きい。トランスジェンダー特有の健康問題を知らない医療スタッフが多いために、患者は偏見のない満足な治療を受けられるのかという不安に駆られるのだ。

 その結果が、トランスジェンダーの健康に関する憂慮すべき統計となって表れている。

「見世物にされた」体験

 現在、米国人のおよそ0.6~0.7%がトランスジェンダーを自認している。彼らが病気に罹患する確率や死亡率は、全人口と比較して異常に高い。その理由のひとつとなっているのが、救急医療の受診をためらうトランスジェンダーが多いことだ。定期健診すら受けようとしない人もいる。(参考記事:「曖昧になる男女の境界」

 トランスジェンダーの救急医療に関してアンケート調査を行ったところ、救急外来を受診した成人トランスジェンダーのほとんどが、トランスジェンダー特有の問題に、医療者が十分に対応できなかったと答えている。

 例えば、多くの医療者はトランスジェンダーの意味を理解せず、ホルモン治療の副作用や性別適合手術による合併症など、トランスジェンダー特有の症状に関する治療経験も知識も持っていなかった。この調査結果は、学術誌「Annals of Emergency Medicine」2月号に掲載された。

 ある回答者は、病院で「見世物になったようだった」と答えている。ほかにも、同様の経験談が多く寄せられた。彼らが救急外来に行きたがらないのは、まさにこうした理由からである。誤った処置を施されたり、差別やハラスメントを恐れているためだ。(参考記事:「ありのままの自分で 米国の少女たち」

「救急外来に駆け込まなければならないほど体が弱っている時に、そこでの反応まで心配しなければいけないなんて最悪です」と、ある回答者は答えている。「トランスジェンダーには特有のニーズがあり、彼らに最適な治療を施すには、ある程度の知識がどうしても必要なのです」と、ジェンダー・リレーションシップ・アイデンティティ&セクシャリティ・トレーニング研究所(TIGRIS)のシニアコンサルタントであるエイシー・マーサー氏は訴える。

次ページ:各地で医療者の教育はじまる

  • このエントリーをはてなブックマークに追加