高額ぼったくりがこうした短期的なイタチごっこと同じプロセスをたどらず、むしろ2年以上の長期にわたって収束したままである(2018年3月現在)ことの理由は2つ考えられる。
1つは営業者側の理由、もう1つは取り締まる側の理由だ。
何らかの事情で店名や名義上の経営者を短期的に変えながら営業することが難しい場合は、イタチごっこは成立しない。しかし、ぼったくりという手口に関して特別にこうした困難が存在すると考える合理的な根拠は差し当たって思い当たらない。
もう1つの取り締まる側の理由は容易に想像がつくものである。そもそも歓楽街の摘発や取締りの事例として、被害者が営業者と連れ立って交番前までやってくることは異例である。
こうした異例の事態において、「引き剥がし」の戦略が端的に功を奏したこと、このことが高額ぼったくりを中期的に収束させることに与って力があったのではないか。
このことを直接論証しようとするならば高額ぼったくりの当事者たちにインタビューをするのがストレートだが、筆者にはそうしたインフォーマント(情報提供者)の心当たりはない。
ここでは<警察の方針転換>と<高額ぼったくりの収束>とのあいだの因果関係は仮説として提示するに留めておき、そこからさらに一歩踏み込んで、これらの現象のより一般的な意義について考えることで、将来行われる(かも知れない)調査研究の下準備を行うこととしたい。
警察の方針転換に対して、一定の理性を備えたぼったくり店(だからこそ規則的にぼったくりを行うことができた)が一斉に高額ぼったくりから手を引いていったのだとすれば、高額ぼったくりを1年もの間のさばらせてきたのは交番の怠慢だった、と言えるだろうか?
交番で警察官がぼったくり店員を被害者から「引き剥がす」ようになったことはひとつの「方針転換」であった。一定の新しい「方針」ということは、場当たり的な対処ではないことを意味する。
その意味では、ぼったくり被害者が泣きついてきても一切の対応をしなかったことも、交番にとってはひとつの「方針」であったわけだ。
しかしこの「方針」とは何だろうか?
拙著『歌舞伎町はなぜ<ぼったくり>がなくならないのか』(イーストプレス、2016)で論じたように、警察の「方針」を形づくるもののひとつに「通達」がある。
通達とは上位の行政機関が下位の行政機関に対して、法の具体的な運用、執行に際して障害となるような曖昧さを取り除くため、統一的な見解を示したものである。