「2050年なら、原発ゼロにできる」

エネルギーの権威が語る“超現実シナリオ”

2018年3月29日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 「原発ゼロ」は可能なのか。再稼働が続く中で、原子力発電所は日本からなくなることはないのか。政策にも強い影響力を持つエネルギーの権威、橘川武郎・東京理科大学大学院教授に聞いた。「政も官も正面から原子力問題に取り組んでいない」。原発の危険度を下げる「ノーベル賞級」の研究を進めなければいけないが、それが頓挫すれば2050年に原発ゼロを目指す――。そんな“超現実シナリオ”を披露する。

橘川武郎(きっかわ・たけお)氏
東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。1951年和歌山県生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授などを経て、2015年より現職。専門は日本経営史、エネルギー産業論。著書に『石油産業の真実』『電力改革』など。

3・11から7年、原発の将来像が見えません。

橘川:エネルギーの今を見ると、非常に不思議なことが起きています。システム改革は3・11以前では考えられないほど進みました。電力と都市ガスが自由化になり、法的分離までいくことになりました。

 一方で、進んでないのが原子力政策です。7年たっても何も変わっていない。規制委員会はできたけど、それは安全行政の話であって、肝心の原子力政策は混迷している。

誰も原発をまじめに考えてない

 システム改革は進んだが、原子力政策は止まったまま。このアンバランスをどう読み解くかがカギです。この答えを言うと嫌われるんだけど……。

そこを、ぜひ教えて下さい。

橘川:要するに、政治家や官僚が「叩かれる側」でなくて、「叩く側」に回っていて、そのポジションを取り続けていることが問題だと思います。

つまり、責任を取っていない、と。

橘川:(原発は)民営でもあり、また国営でもある。つまり、「国策民営方式」でやってきたわけです。だから、福島の事故で、まず東電(東京電力)が土下座に行くのは当たり前です。だけど、国策だったわけだから政治家も官僚も行って土下座しなきゃいけないんですよ、本当は。だけど、それが嫌だから、そこで巧妙に論点をすり替えるために、「自分たちは叩かれる側じゃなくて、叩く側なんですよ」というポーズを取り続けた7年だと思うんです。

 東電を法的処理しないで生き残らせたのは、そういう政治的意図があったと僕は思っています。悪者がいないと叩けませんから。

なるほど。東電がいないと困るわけですね。

橘川:もろに、自分たちが批判の対象になっちゃう。だから東電を残した。東電だけだと悪者が持たなくなったから、電力業界全体を悪者にしてシステム改革をやった。それでも厳しくなったら、今度は都市ガス業界まで悪者の方に回して、「自分たちは叩いているぞ」「国民の味方なんだぞ」というポーズを取り続けてきた。そうすると票になるわけですよ。

選挙で有利になると。

橘川:逆に、原子力でまともな政策を打とうとすると、票が増えないどころか、むしろ減っちゃう可能性があるので、逃げ回っている。そして先延ばしを続けているのが本質です。叩く側に回ることばかりを政官が考えている。だから、すごく事は深刻で、誰もエネルギー政策をまじめに考えてないんです。

その方が自分たちにとって得策だと。

橘川:目先の票ですから、政治家は3年先ぐらいまでしか考えてない。エネ庁(資源エネルギー庁)の連中はもう少し長期で考えたいんですが、森友問題でも明らかなように、官邸に逆らえませんから。端的に言うと日下部(聡・資源エネルギー庁長官)、嶋田(隆・経済産業省事務次官)より、今井(尚哉・首相秘書官)の方が力を持っているんですよ、(経産省の)同期だけど。

 例えば原子力政策は、(原発を)使い続けるならば、危険性最小化のために新しい原子炉がいいに決まっています。だから、リプレース(建て替え)と言わないのは無責任だと思うんですね。(原発)依存度は下げるべきだと思っていますけど、リプレースは言うべきだと思うんですが、それを絶対言わないんですよ。

リプレースとは、今の原発を潰して、その場所に新しい原子炉を作るという意味ですね。

橘川:その通りです。原発の新規立地なんて、ありえませんから。

「使い続けるなら、新しい設備で」ということをエネ庁や経産省が言えないということですね。

橘川:エネ庁は言いたかったけど、官邸に言えないようにされている。

そんなことを言うと……。

橘川:次のポストがないよと。だから政治家は次の選挙、官僚は次のポストを考えて、数年先しか考えない。自分の任期中は、無難に原子力問題を先送りしていこうというのがずっと続いているんですよ。そこが問題の本質だと思います。

原発の建て替えは、使い続けるなら急務ということですね。

橘川:使い続けるならば、原発依存度を何パーセントにするにしろ、早くリプレースすべきです。原発は、基本的に危険なものなんです。その危険性最小化のためには、新しい原子炉にした方がいいに決まっている。これは脱原発派も認めるロジックです。

 ところが日本の原子炉は今、加圧水型(PWR)18基のうち、1基も最新鋭の設備がないんです。古いのばっかり。(次世代型の)AP1000もなければ、APWR(改良型加圧類型軽水炉)もない。沸騰水型(BWR)が22基あって、4基が最新鋭のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)です。しかし、今はPWRばかり動いていて、古いのばっかりなんですよ。

 建て替えの話がない原子力政策なんてありえないと思う。逆に言うと、古いものは40年に達しなくてもガンガンたたんでいくべきです。それで、原発依存度は政府が2030年に20~22%だというが、私は多くても15%ぐらいだと思っています。

原発依存度が政府の想定以上に下がる。

橘川:依存度を下げながらリプレースするというのが、僕は責任ある原子力政策だと思う。

 そもそも、バックエンド(発電後の処分)は「もんじゅ」の代わりをどうするのか。それはオンサイト(発電現場)中間貯蔵で時間を稼いで、やっぱり高速炉技術を使って核種変換(他の種類の原子核への転換)に取り組まざるを得ないと思うんです。核種変換で(半減期を短縮して)危険な期間を短くしないと、最終処分場なんて見つからない。

 オンサイト中間貯蔵をやっている間は、地元に保管料を払うことを考えなければいけないと思うんだけど、このような原子力政策が何も語られていない。議席とポストを守ることばっかり考えている。

オススメ情報

「キーパーソンに聞く」のバックナンバー

一覧

「「2050年なら、原発ゼロにできる」」の著者

金田 信一郎

金田 信一郎(かねだ・しんいちろう)

日経ビジネス編集委員

日経ビジネス記者、ニューヨーク特派員、日経ビジネス副編集長、日本経済新聞編集委員を経て、2017年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

トップに就任したとき、「好かれるために来たんじゃない」と社内ではっきり言いました。

星﨑 尚彦 メガネスーパーCEO