「虚像と現実」が交錯するハリウッド──ある写真家が切り取った風景は、まるで「現代の縮図」だった
半年かけてつくった架空の撮影セットや、実在しないポルノ映画の撮影現場──。ハリウッドに魅せられたフォトグラファー、ジャンルカ・ガルトルッコがつくったのは、つくりものの光景と、人々が見ようとしない“裏通り”の現実が交錯する世界だった。ファクトすら捏造される現代の縮図ともいえる、10の光景を紹介しよう。
TEXT BY MICHAEL HARDY
TRANSLATION BY ASUKA KAWANABE
WIRED (US)
ミラノ生まれのフォトグラファー、ジャンルカ・ガルトルッコが初めてロサンゼルス(LA)を訪れたのは1983年のことだった。義父がユニヴァーサル・スタジオへ連れてきてくれたのだ。その経験は12歳だったガルトルッコ少年に多大な影響ををもたらした。
「ハリウッドという世界のシステム、ハリウッドサイン、ヤシの木を目の当たりにして、打ち抜かれたような衝撃を受けました。『いつかここに戻ってこよう。LAに住むんだ』と思いましたね。それが実現したんです」
ガルトルッコの最初の写真集『For Your Consideration』は、第二の故郷へのラヴレターだ。ガルトルッコは93年、この街に移り住んだ。
制作には何年も費やした。本には、ロサンゼルスでの日々の暮らしを収めた写真のほか、入念に演出を施してつくりあげた創作シーンも含まれている。後者はガルトルッコのお気に入りの映画監督である、テレンス・マリックやスタンリー・キューブリックらにインスピレーションを受けたアイデアだ。
「真実を簡単に捏造できる時代」の縮図
表紙には、中東を舞台にした壮大な戦争映画の撮影現場で、キャストや撮影クルーがくつろいでいる様子を表現した写真を使った(ギャラリー1枚目)。撮影には6カ月かかった。
ガルトルッコはLA郊外に撮影用のセットをつくり上げ、数十人もの俳優を雇い、シャイフや米軍兵士、架空の撮影現場のクルーたちを演じてもらった。撮影はクレーンの上から大判カメラを使って行われた。
ほかの作品には、ポルノ映画の撮影現場で休憩をとる出演者や、大統領執務室のセットで演技をするアジア人俳優たち、イタリア風の背景の前でポーズを撮る新郎新婦を写した写真などがある。
ガルトルッコは、現実と想像が交差する風景こそ現代の縮図だと信じている。いまの時代、真実などいとも簡単に捏造できてしまうからだ。
運命を決めた、マジックアワーの光
壮大さのない(つくり込まれていない)写真もまた、感情に訴えるものがある。廃ビルの横にぽつんと置かれた巨大なディスコボールや、忘れ去られた映画の大道具などを写したものだ。ガルトルッコは話す。
「この写真集は、人々が思い描くハリウッドをとらえたものではありません。レッドカーペットや大規模なプレミアとは無縁のもの、つまり普段は誰も見ようとしない“裏通り”の景色なのです」
ガルトルッコは最初、ファッションフォトグラファーとして写真の道に入った。しかし、屋内でモデルたちを撮影するのに、すぐに飽きてしまったのだという。そして、屋外で写真を撮りたいという一心で、LAへと移住した。
「『ロサンゼルスは運命の場所だ』という想いは募るばかりでした。その理由は光でした。自然光が完璧だったのです。日が没んだあとも、うっすらと残って世界を包む、黄色と橙色のかすかな光──。それが、ただただ美しいのです」
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