「虚像と現実」が交錯するハリウッド──ある写真家が切り取った風景は、まるで「現代の縮図」だった
半年かけてつくった架空の撮影セットや、実在しないポルノ映画の撮影現場──。ハリウッドに魅せられたフォトグラファー、ジャンルカ・ガルトルッコがつくったのは、つくりものの光景と、人々が見ようとしない“裏通り”の現実が交錯する世界だった。ファクトすら捏造される現代の縮図ともいえる、10の光景を紹介しよう。
TEXT BY MICHAEL HARDY
TRANSLATION BY ASUKA KAWANABE
WIRED (US)
- 1/10この架空の撮影現場の写真を撮るために、ジャンルカ・ガルトルッコはセットをつくり、キャストや撮影クルー役の俳優を雇った。撮影にかかった期間は計6カ月。PHOTOGRAPH BY GIANLUCA GALTRUCCO
- 2/10ジャンルカ・ガルトルッコは写真でロサンゼルスという街の美しさと現実を同時に描こうとしている。PHOTOGRAPH BY GIANLUCA GALTRUCCO
- 3/10ポルノ映画の休憩シーンを再現した1枚。架空の撮影現場で、俳優たちが「休憩するキャスト」を演じている。PHOTOGRAPH BY GIANLUCA GALTRUCCO
- 4/10廃ビルの外にぽつんと置かれた巨大なミラーボール。PHOTOGRAPH BY GIANLUCA GALTRUCCO
- 5/10イタリア風の背景を前にポーズをとる新郎新婦。PHOTOGRAPH BY GIANLUCA GALTRUCCO
- 6/10のどかな太平洋を臨む、ロサンゼルスの工業エリア。PHOTOGRAPH BY GIANLUCA GALTRUCCO
- 7/10偽物の大統領執務室のセットでポーズをとる俳優たち。PHOTOGRAPH BY GIANLUCA GALTRUCCO
- 8/10ロサンゼルスの工業エリアを写した1枚。PHOTOGRAPH BY GIANLUCA GALTRUCCO
- 9/10ヤシの木が点在する空き地のひとつ。PHOTOGRAPH BY GIANLUCA GALTRUCCO
- 10/10ハリウッドの住民たちは、壮大な映画の撮影現場のすぐ隣で生活しているのだ。PHOTOGRAPH BY GIANLUCA GALTRUCCO
ミラノ生まれのフォトグラファー、ジャンルカ・ガルトルッコが初めてロサンゼルス(LA)を訪れたのは1983年のことだった。義父がユニヴァーサル・スタジオへ連れてきてくれたのだ。その経験は12歳だったガルトルッコ少年に多大な影響ををもたらした。
「ハリウッドという世界のシステム、ハリウッドサイン、ヤシの木を目の当たりにして、打ち抜かれたような衝撃を受けました。『いつかここに戻ってこよう。LAに住むんだ』と思いましたね。それが実現したんです」
ガルトルッコの最初の写真集『For Your Consideration』は、第二の故郷へのラヴレターだ。ガルトルッコは93年、この街に移り住んだ。
制作には何年も費やした。本には、ロサンゼルスでの日々の暮らしを収めた写真のほか、入念に演出を施してつくりあげた創作シーンも含まれている。後者はガルトルッコのお気に入りの映画監督である、テレンス・マリックやスタンリー・キューブリックらにインスピレーションを受けたアイデアだ。
「真実を簡単に捏造できる時代」の縮図
表紙には、中東を舞台にした壮大な戦争映画の撮影現場で、キャストや撮影クルーがくつろいでいる様子を表現した写真を使った(ギャラリー1枚目)。撮影には6カ月かかった。
ガルトルッコはLA郊外に撮影用のセットをつくり上げ、数十人もの俳優を雇い、シャイフや米軍兵士、架空の撮影現場のクルーたちを演じてもらった。撮影はクレーンの上から大判カメラを使って行われた。
ほかの作品には、ポルノ映画の撮影現場で休憩をとる出演者や、大統領執務室のセットで演技をするアジア人俳優たち、イタリア風の背景の前でポーズを撮る新郎新婦を写した写真などがある。
ガルトルッコは、現実と想像が交差する風景こそ現代の縮図だと信じている。いまの時代、真実などいとも簡単に捏造できてしまうからだ。
運命を決めた、マジックアワーの光
壮大さのない(つくり込まれていない)写真もまた、感情に訴えるものがある。廃ビルの横にぽつんと置かれた巨大なディスコボールや、忘れ去られた映画の大道具などを写したものだ。ガルトルッコは話す。
「この写真集は、人々が思い描くハリウッドをとらえたものではありません。レッドカーペットや大規模なプレミアとは無縁のもの、つまり普段は誰も見ようとしない“裏通り”の景色なのです」
ガルトルッコは最初、ファッションフォトグラファーとして写真の道に入った。しかし、屋内でモデルたちを撮影するのに、すぐに飽きてしまったのだという。そして、屋外で写真を撮りたいという一心で、LAへと移住した。
「『ロサンゼルスは運命の場所だ』という想いは募るばかりでした。その理由は光でした。自然光が完璧だったのです。日が没んだあとも、うっすらと残って世界を包む、黄色と橙色のかすかな光──。それが、ただただ美しいのです」
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