戦前から戦中にかけて、国の政策に反する出版物などを取り締まった『言論統制』。これまで、どのように言論統制が広がっていったのか、詳細は分かっていませんでした。
こうした中、長野県の図書館に残る 貴重な資料を使って、本格的な研究が進められようとしています。
言論統制に関する資料が残る 長野県の『旧 上伊那図書館』。
昭和5年、地域の人々の期待に応え開館。
6,000冊の蔵書を誇り『文化の殿堂』と呼ばれました。
この日、文学と検閲制度について研究する 牧義之さんが、施設を訪問しました。
並んでいるのは、戦前から戦後にかけて 図書館員がつけた台帳や業務日誌など、40点あまりの資料です。
「こういう警察からの通報というのは、あまり残っていないんですよね」
昭和初期、警察が図書館長にあてた通報には、『発禁出版物の件』として、本の題名などが記載されていました。
国が行った言論統制は、当初、発行前の本を検閲し、時局に合わないものを発禁処分にするというものでした。
しかし、戦局が進むにつれ、すでに図書館にある本も対象となりました。
ふさわしくないものは排除するよう警察を通じて通知されたのです。
その結果、図書館からは、思想書や文学作品などが、次々と没収。
今回、牧さんが注目したのは図書館員の日誌です。
書かれていたのは、6冊の本の題名。
日誌が書かれた昭和15年当時、これらの本は、発禁対象ではありませんでした。しかし、図書館が自発的に警察に差し出していたことが記録されていたのです。
「『これから こういう本は 禁止処分が出されていくだろう』と前もって判断。つまり、警察の手を煩わせない ということなのかもしれない」と牧さんはいいます。
警察に指示される前に、自ら本を処分した図書館。
空いた本棚には、戦意を高揚させる本が並ぶようになりました。
こうした本を推奨したのも図書館だったことがわかってきました。
県下の図書館を統括する 中央図書館が発行した冊子には、時局にふさわしい本が紹介され、購入費用は中央図書館が負担し、普及に努めました。
『文化の殿堂』として開館した図書館が、次第に、地域における言論統制の役割を担っていったと牧さんは感じています。
牧さんは「どういう禁止の通知があって、図書館は それに対してどういう措置をしたのか、一般の人は基本的にはわからない。気が付かない間に本がなくなっていたのが実情だと思います。『現代人は、情報とどうつき合っていけばいいのか』 歴史的に、こういった図書館の資料が、『改めてきちんと考えなさい』と訴えている気がする」と話していました。
図書館に残された古い資料。
統制された情報によって、気付かないうちに戦争へと向かっていった歴史を物語っています。
今回取材した日誌などの資料は、ふだんは公開されていませんが、戦時中に読まれた本については閲覧できるということです。
◇「旧上伊那図書館」(現・伊那市創造館)について
長野県伊那市荒井3520
電 話:0265-72-6220
FAX:0265-74-6829
休館日:火曜日・祝日の翌日・年末年始(12月28日から1月3日)
時間:午前10時から午後5時
観覧料:無料
※現在は図書館としての機能はないが、当時の書庫がそのまま残り戦前戦中期の日誌や文書も保管されている。
※今回公開された日誌や台帳、文書類は、ふだんは未公開。(今後デジタル化に向け準備中)
※戦意高揚本が残る書庫に関しては、開館時には観覧可能。
※観覧希望の方は1階事務室まで