カップ焼きそばにも愛をください(パソコンのモニター前のあなたを見つめながら)

文豪、ミュージシャン、果てはインスタがカップ焼きそばを作ったらどうなるか? 累計15万部を越えた人気書籍『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』の続編『青のりMAX』から、よりすぐりの文豪(?)を特別掲載します。
第九回は辻仁成さんと、ウディ・アレンさんです。それでは、あなたも文体模写の世界へどうぞ!

辻仁成「沸騰と湯切りのあいだ」


(麺とソースをかき混ぜながら)「やっと和えたね」。



ウディ・アレン「ソバー・ホール」

映画館にいる二人の男女。長い列に並びながら、映画の上映が始まるのを待っている。女の方は仏頂面で、男は神経質そうに苛々としている。

男 いったいいつになったら列は動くんだ。こんなの耐えられない。

女 ちょっとは我慢したら?もうすぐじゃない。

男 いいや、きっと僕がユダヤ人だからこんなに待たされるんだ。

女 そんなことないわよ。

男 このホールの支配人は社会主義者なんじゃないか?長い列に郷愁を持っているんだよ。それか待たせることに興奮を覚える性的倒錯者かもしれない。

女 やめて。あなたはいつも神経質だわ。「湯切り問題」のときだって......。

 ちょっと待つんだ。公衆の前で話すことじゃないだろう。

 いいえ。あなたは湯切りの時間を間違っただけであんなに騒いで......。

 当然じゃないか。だって、パッケージには「3分」って書いてあるんだ。テクストに書いてあることが絶対だって、きみも文学理論の授業で習っただろう。

 都合のいいときだけそんなこと言って。あなた、ロラン・バルトの愛読者じゃない。かやくを入れる、お湯をかける、湯切りする、ソースを混ぜる、確かにそう書かれているけど、それが絶対じゃないでしょ。

 (急に読者に向かって)彼女は3分になる前に湯切りしたんだ。あなたはどう思います?

女 いつ湯切りしようと勝手だわ。

 いいや。開発者は一番美味しくなるよう時間を測っているんだよ。

女 そんなの好みによるじゃない。

男 わかった。じゃあ、そこにマーシャル・マクルーハンがいるから、彼の意見を聞いてみよう。

マクルーハン 私はどっちでもいいと思う。

女 ほら、こう言っているじゃない。

男 これじゃ埒が明かない!

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もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら

菊池良 /神田桂一

もしも村上春樹がカップ焼きそばの容器にある「作り方」を書いたら―― ツイッターで発信され、ネット上で大拡散されたあのネタが、太宰治、三島由紀夫、夏目漱石といった文豪から、星野源、小沢健二らミュージシャンまで、100パターンの文体にパワ...もっと読む

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