脱Excelする理由
未だにExcel使っているの?
といった広告を稀に見かけますが、脱ExcelはExcel一党支配に対するルサンチマン的スローガンと化しているようです。
- Excelを使うのはもう古い
- もっと便利なやり方がある
- もっとパワフルなやり方がある
- Excelを辞めたら彼女が出来ました!
- 脱Excelで人生を変える
のような掴みで既にExcelの利点を享受し、何も不満を感じていない顧客たちに彼らが必要としないニーズを生み出そうと必死な姿は少々滑稽でもあります。それぞれの内容を読んでみると、確かになるほど!と納得させるものもあります。例えばマクロの保守性の低さや、複雑なデータ構造をシート管理することの難しさや煩雑さ、ファイルであることの共有性の低さ、再利用性の無さなどを攻撃し、ぼくたちがもっと良い物を提供するよ!という流れです。正しいマーケティングですね。見習いたいです。
だけど、そもそもなんでExcel止めなあかんのか、という根本的な命題には誰も答えていない。別に困っていないところに「実はおろそしい家庭のExcel」のような危機感を煽っているだけですから、解決すべき問題は顧客ではなく売り手の中にあるのです。
別にいいんだよExcel
Windowsを使っていて、Excelを正しく表計算ソフトとして使っていれば、またそうして集計したデータを付属のドローツールなどで飾ってレポート化することに関しては、全く問題がありません。そもそも会社が購入していたり、最初から付属していたりするからみんな気づかないかもしれませんが、Excelって単体で考えてもセットで考えても結構高価で高機能なソフトウェアで、歴史も非常に長いです。それを代替するソフトウェアがExcelより安かったら、当然機能面では何かに特化していて、汎用性はないものと考えなければいけません。Excelより高価だとしたら、そもそもそんなコストをかける必要性があるのかについて再考すべきでしょう。
Excelが支配的である3つのダメな理由
実は欧米などではそれほど支配的ではないようです。Excelなんて所詮表計算ソフトの一種でしかありませんから、日本のように膨大なテンプレートを紹介するサイトなどどこにもありません。日本国内でExcelが支配的な理由は3つあります。
必殺方眼紙!
超有名なこのスーパーテクニック。バッドノウハウの最たるもので、情報はおろかファイルの再利用性さえ完全に失ってしまう最悪のメソッドですが、日本ではこれが大ブームであり、こうして作られたファイルを利用することに誰一人として批判的ではありません。脱Excelを主張するならここを指摘すべきです。
エクセル方眼紙は百害あって一利なし
入力フォーム代わり
例えば障害管理票や業務報告書、実績レポート、売上日計表などのフォーマットを上記のような必殺方眼紙で作成し、現場の従業員に毎日入力させ、従業員はその入力作業に毎日何時間も費やして残業代を稼ぎ、印刷したものをファイルしたり役員会議であーでもないこーでもないと議論するための肴にする。
こうした入力フォーム代わりにExcelを使っている限り、会社のIT化や情報戦略は一歩も進みません。売上などはデータベースに保存された情報の集計なのですから、本来であればWebアプリケーションでダッシュボードを構築するか、あるいはレポートツールがHTML整形して役員たちにメール配信するべきです。わざわざExcelに転記するために時間を割いて作業したり、あるいはその転記を自動化するためにマクロを組むのは時間の無駄以外のなにものでもありません。
グローバルなファイルフォーマットとして
例えば他部署の方が「アプリケーションが動かないんです」と連絡を入れてきたとき、スクリーンショットを一枚撮って送ってもらうとします。ぼくたちは、SSを撮った状態のjpgやpng、悪くてもbmpファイルが送られてくるものだと期待しますよね。違うんです。わざわざたった一枚の画像ファイルをエクセルシートに貼り付けて送ってくるのです。
初めてそのファイルを目にした時は、その会社の悪しき文化なのだと思ってそれほど気にもしなかったのですが、次の会社でも、更に次の会社でも、そして今の会社でもやはり同じことをする人が絶えません。エクセルでなけれなならない絶対的な理由があるのでしょうか?
画像だけでなく、それ以外の告知事項や連絡事項、パスワード一覧、従業員一覧、あまつさえSQLソースをエクセルシートに整形している強者もいました。どうしてそんなにExcelラブなんでしょうか?
脱Excelすべきパターン別代替手段
Excelを愛してやまない一部の熱狂的信者は死ぬまでマクロでも書いててもらって構いませんが、こうした歪な状況において、本当にExcelを使い続けることが正しいのかを思い悩む人は一度以下のパターンに当てはまらないか考えてみてください。
方眼紙で図を描いているケース
これは私自身が当てはまります。
22pix幅で正方形を作り、図形を「枠線に合わせる」として図を描くことで、Excelは最も平易で最大級の表現の可能性を獲得します。
例えば画面構成の定義書やシーケンス図、クラス図、ERDといったエンジニア向けのドキュメントをVisioよりも遥かに高速に描けます。なぜなら例えば矢印一つとっても、UMLの書式とルールさえ知っていれば、その場に適した矢印を膨大なステンシルから必死で探さなくても、普通の矢印を引いて書式を整形すればそれで済みます。更にそれをコピペすれば同じ書式の矢印を膨大に最速で生み出すことができます。これに慣れきってしまうと、とにかくExcelがないとドキュメントが作成できなくなります。逆の言い方をすれば、Excelがあればなんでも描けます。使いこなしているというよりも、依存症と言うべきでしょう。
しかし、これらの図の描き方はエクセル有りきでしか成り立たず、フォーマットも共通でなく、自分一人で扱っている場合はともかく、利用者が増えると雪だるま式に不満が増大します。
例えば設計書ならUMLを描くための専用のツール、WindowsならVisioやastah*、MacならOmniGraffleを利用するべきでしょう。もしコストがかかるとしても、それはおそらく必要な投資です。
全部エクセルにしているケース
画像ファイルもお知らせ文書もちょっとしたメモ書きも全部エクセルにしているあなた。
それぞれの用途に適したアプリケーションと、それに適したファイルフォーマットがあります。画像ファイルは画像ファイルとして保存すべきですし、ちょっとした文書はEvernoteを使って貯めておきましょう。SQLはテキストファイルであるべきで、ソースコード同様にバージョン管理すべきです。画像ファイルに注釈を付けたい場合、それも画像ファイルとして管理すべきです。エクセルを注釈ツールの代わりに使ってはいけません。それは思わぬトラブルをまねきます。
この記事を書いている真っ最中に職場でエクセルファイルがまるごと消失するという事故が発生していました。なんでもかんでもExcelで管理するから、頻繁に消滅事件が発生しています。最近のExcelは事故で消滅したファイルなどをサルベージする余計な機能がついているせいで、ますます依存度が高くなっています。
入力フォーム代わりにしているケース
何らかの文書の入力テンプレートが用意されている場合、その文書は体感9割くらい必要ありません。ほんとうに必要な情報は基幹システムに用意されているべきですし、報告書の提出が必要な場合、各自がほんの僅か工夫するだけですべての報告やログが不要になるはずです。
営業全員の支給スマホにMovesを突っ込んでEvernoteの共有ブックに流し込んでも良いですし、サービス業務報告などをエクセルファイルで管理するなど管理系の人間としては言語道断です。
ここに属するケースの半分は必要無く、もう半分はシステム化されているべきものです。Excelが要求される場面などあってはなりません。
ガントチャートでスケジュール管理しているケース
大変です、親会社の偉い人が来社して現場の視察を行うため、本日一日全社員が総出で出迎え接待に向かうため、すべてのスケジュールが後ろへ一日だけズレこんでしまいます。さあエクセルガントチャートを修正してください、10秒以内です、5、4、321はいダメー!
大きなプロジェクトで詳細なスケジュールを管理するのであればBrabio!やみんなでガントがお勧めです、というのは以前も書きましたね。巨大過ぎるプロジェクトや小さなプロジェクトでこうしたガントチャートシステムを採用するのはあまり賢いとは言えません。小さなプロジェクトにはタスク管理、巨大プロジェクトにはPERT法が必要で、ガントチャートは不要です。いずれにせよExcelの出番はありません。
タスク管理に使っているケース
Excelでタスク管理するためのツールやテンプレートなどは数多くありますが、一つの机にかじりついて誰とも関わらない仕事をしている人は多分それでいいでしょう。しかしそのルーチンはひとたびExcelの無い環境、届かない環境に移っただけで機能しなくなり、他の作業者と関わった瞬間に脆く崩れます。
タスク管理は原則としてチーム単位で行うことを前提とすべきで、その時点でExcelは対象外となります。Excelを使うくらいならテキストファイルに「今日やること」の一覧でも書いたほうがマシです。
「Excelなんか無くなってしまえばいいのに」
取引先のエンジニアさんが呟いていた一言です。
Excel自体に罪はないと思います。優れた表計算ソフトですが、その本来の用途のために使われなくなっていることが、嫌がられる原因だと思います。個人的にMacではNumbersをよく使っていますが、本当に表計算と、集計データをグラフ化して一枚のシート上にレポートとしてまとめて印刷するという本来の使い方以上のことはしません。Numbersはその用途に特化していて、Excelのように全部込みツールではないのです。高機能故に生かせない、というのはアプリケーションとして総合的に良いものではないのかもしれません。
マクロを組む前に考えること
VisualBasicForApplication、略してVBAという現代における化石のような言語仕様によって、ExcelなどのOffice製品は「マクロ」と呼ばれる実に粗末な自動化機能を実現できるような気分に浸れる機能があります。しばしばまとめなどに上がってくるネタとして
ルーチン作業をマクロで自動化したら上司に「ズルをするな!」と叱られた
というものがあります。おそらくネタでしょうけど、世間的にはマクロを組めるということがちょっと一段上の自分を演出するスキルの一つだと思われている傾向があるとも言えます。実際、現代の意識高い系企業などの現場でマクロなんか組もうとしてたら死ぬほど馬鹿にされて明日から名前が「マクロ君」になります。それほどまでにマクロが嫌われるのは3つほど理由が考えられます。
1.保守性が低い
VBAは性能が悪くてしかも極めて保守性の低いタイプの言語です。シートに対して直接何かを行うコードがあったとして、シートの構造が少し変わっただけでもコードのあちこちを修正しなければいけませんし、コードが肥大化するとどこがどうなっているのか組んだ本人にもわからなくなります。かろうじてclassと呼ばれる機能がありますが、これはオブジェクト指向におけるクラスとはちょっと異なり、継承ができず、メンバ変数の管理も非常に煩雑で面倒くさいです。
2.殆どの人がドキュメントを残さない
プログラムというものはどんなに小さなものでも基本的にはドキュメントを残し、どのような構造になっているかという設計書や、どういう目的で作られたかといった要件書が付属しているものです。しかし、マクロの場合はITの専門職ではなく現場の一般職が組むことが多く、ほとんどの場合でドキュメントが残されません。ドキュメントの無いマクロ付きのファイルを後任の人間が渡されても保守できませんし、一度トラブルが発生して業務継続に深刻な支障を生じた場合、効率化のために構築したマクロのはずですが、そのマクロは効率的ではなかった、という結果が導き出されます。すなわち、作らないほうが良かった、という結論に至ります。
3.マクロがそもそも必要無い
ほとんどのケースでExcel上でのマクロ機能はルーチンワークを自動化するために行うものです。そしてその種のルーチンはほとんどの場合で必要性が全くありません。仕事に対して「そもそも」を繰り返して考えてみてください。どこかに諸悪の根源があって、それを解決すればマクロはおろか、そのエクセルファイルさえ必要なくなると思います。
Excelが嫌われ気味な理由のひとつでもあり、最大級の爆弾たりうるマクロに手を付ける場合、それが本当に必要なのかを吟味してください。もし1年以上継続的に利用することを想定する場合、それはマクロではなく、きちんとしたシステムとして構築すべきです。マクロは1ヶ月以上半年以内に破棄されるべきで、他人に使わせるものではありません。
Related Posts
-
2016年1月10日 -
2016年1月8日 マジックと絆創膏で恋が実る
-
2016年1月4日 Webで双方向通信(生)
-
2015年11月8日 きみにもできる!お手軽検索エンジン
-
2015年10月24日 iPhoneで小説を書く
人気の記事
Sorry. No data so far.