チョウチンアンコウの仲間が深海で交尾をしている、きわめて珍しい光景が撮影された。
映像は海洋科学の振興を目的とするNPO、レビコフ=ニジェレル財団が撮影、学術誌「Science」のオンライン版に公開された。北大西洋の水深800メートルの海中を、ヒレナガチョウチンアンコウの1種であるCaulophryne jordaniのメスが、ゆらゆらと泳ぐ様子が写っている。よく見ると、小さなオスがメスのお腹にぶら下がっている。(参考記事:「豪州沖の深海生物:“毛深い”アンコウ」)
このミステリアスな深海魚が生きたまま見つかることはほとんどない。写真家のキルステン・ヤコブセン氏とヨアヒム・ヤコブセン氏は、2016年8月にポルトガル領アゾレス諸島のサンジョルジェ島付近で5時間にわたる探査を行い、その最後に収めた映像を米ワシントン大学水産学部の名誉教授テッド・ピーチ氏に見せた。それから1年以上を経て、この貴重な映像が公開された。(参考記事:「深海写真10点、奇妙で神秘的なガラパゴス沖」)
この動画は、合計25分間の映像の一部。メスは握りこぶしほどの大きさで、「鰭条(きじょう)」と呼ばれる線状の組織が周りを取り囲み、光を放っている。Caulophryne jordaniは、博物館などに保管されているメスの標本が世界に14体あるが、生きたオスが目撃されたことはなかった。
「前代未聞の記録です」とピーチ氏はプレスリリースに書いている。「これまでは想像するしかなかったものをはっきりと見られるのは、素晴らしいことです」(参考記事:「深海魚ハナトゲアシロの奇妙な容貌が話題」)
オスはメスと融合し「精子バンク」に
チョウチンアンコウ類は、世界中で160種以上が知られているが、深海にすむためその研究は容易でない。ピーチ氏によれば、深海のチョウチンアンコウの生態が撮影されたのは、これがわずか3例目である。
水深300メートルから5000メートルの海底で、メスのチョウチンアンコウは頭部から伸びた光る疑似餌(エスカと呼ばれる)を使って獲物をおびき寄せる。鋭い歯が並ぶ口と大きく広がる胃のおかげで、自分の体より大きな獲物を丸のみにできる。(参考記事:「深海のサメ、ラブカが網にかかる、歯が300本」)