以下記事転載
WEEKLY NET MAGAZINE 【週刊0510】
(☚wikipedia)
老害排除か保身クーデターか――。
「積水ハウス」で発生した社長、会長交代劇の真相は、報道だけでは判然としない。
会社側の公式発表によれば、1月24日の取締役で決まったのは、66歳の阿部俊則社長(現会長)から52歳の仲井嘉宏取締役(現社長)への経営刷新人事であり、その流れに沿って76歳の和田勇会長(現取締役相談役)が身を退いた、というものである。
しかし、和田氏は「(五反田で発生した地面師による)詐欺事件の調査対策委員会の最終報告書では、『阿部氏の責任が重い』と記されており、これを受けて退任を求めたら、阿部氏から私の退任を求める緊急動議が出た。地面師に引っかかった自分たちの責任を消すためにクーデターを起こした、という感じだ」と、「日本経済新聞」に答えている。
どちらの発言が正しいのか。
「和田氏の言っていることが本当です。調査対策委員会は、和田氏が委嘱したものですが、五反田の土地を決裁したのは阿部氏であり、『社長直轄案件』となったことで現場が、怪しい物件であることに気が付きながら、契約に向けて突っ走ってしまったのです。誰か責任を取るとすれば、当然、阿部氏です。でもそうなると、株主代表訴訟のリスクにもさらされるということで、取締役会までに阿部氏は票固めをして、逆に自分を下ろそうとした和田氏のクビを取ったのです」(住宅業界事情通)
平仄が合うのは、9月7日に調査対策委員会を立ち上げ、1月24日、同委員会から「最終報告書」を受け取りながら、それを公表していないことだ。
この事件は、「天下の積水ハウスともあろうものが~」と、あらゆるメディアが報じ、ワイドショーにも取り上げられたことで「地面師」なる一般人には馴染みのない詐欺師の存在を、主婦層にまで知るしめることになった事件である。
偽造したパスポートと印鑑証明を用意、所有者に成りすました女の“三文芝居”に63億円も支払ってしまった(そのうち55億円は10行に分けて送金され、直後にそれらの口座は凍結されたので実質的な被害は8億円との指摘もある)「積水ハウス」は、その経緯を株主や投資家に説明する義務がある。
ところが、「積水ハウス」は公表しない。
1月24日の社長交代記者会見で、新社長に決まった仲井取締役は、地面師事件との関係を問われて、「まったく関係ない」と、言い切った。
阿部氏に付き、和田氏を放逐する側に回ったのだから当然だが、2月20日、和田氏が日経に真相を暴露しても、報告書を明らかにしない事態が続いている。
「弁護士や社外取締役で構成される調査対策委員会が、自分たちの結論が無視されたうえ、委嘱してきた和田氏のクビを切ってしまった現経営陣に反発しているんです。4月26日の株主総会に向けて、今回の人事を覆す手立てはないかと、いろいろ画策しています。それがわかっているから、会社側も下手に動けないのです」(前出の事情通)
東京・五反田の「海喜館」という老舗旅館は、3代目を継いだ海老澤某女が、養父母の残した旅館を自分の代で潰したくないと、ひとりで守り抜いてきた。
身寄りはなく独り身の女性が持つ抵当権がまったくついてない“真っさら”な約600坪。不動山ブローカーや地面師たちの間では超有名物件で、売却話が流れれば、疑わない方がおかしい代物である。
そこに上手くはめ込んだのは、小山某、土井某、前野某といった連中で、金野某女なる成りすまし女を用意、「積水ハウス」にパイプのある「IKUTAホールディングス」(事件当時の本社所在地は小林興起・元衆院議員の千代田区内の事務所内)に話を持ちかけ、金野某の本人確認に代理人弁護士を立てることで、「積水ハウス」の担当者と(積水側の)司法書士を騙し、4月24日、売買契約に持ち込み、手付けの14億円を手に入れた。
警視庁は捜査に着手しているものの、「IKUTAホールディングス」も小山某らも、「自分も金野が海老澤さんと信じた」と言い張り、金野某の行方が知れないという隘路に陥っている。
阿部氏の責任は、単に騙されただけではない。
4月24日から6月1日の最終決済日に残金49億円を支払うまでに、地面師工作から外された不動産ブローカーのM氏や、海老澤某女の関係者らが、「これは詐欺事件であり、所有権移転は無効だ」という手紙を出して警告しているのに無視し続けたのも迂闊の一語では済まされない大チョンボである。
「せめて私らに、(パスポートの)写真を見せて確認してくれたら、詐欺だとわかったのにね」と、町内会の人が驚くのは当然の反応で、にもかかわらず誰も責任をとらないというのも、2兆円企業の名が泣くおかしな話である。【戌】
2018年3月9日配信「積水ハウスで発生したクーデターの真相と海喜館地面師事件の行方」<事件>
2018年3月3日配信<0510archives>「APA事件摘発以降も続く“地面師捜査”の行方?」<事件>
地面師の話題が尽きない。
新橋白骨死体事件、史上最高63億円詐欺の海喜館事件、そして容疑者が逮捕されたAPAホテル事件……。
新橋4丁目に自宅と合わせ10億円の資産を持つ高橋礼子さんが、昨年10月、地面師に土地を収奪されたあげく、白骨死体となって発見された事件は、「資産家で身寄りのない孤独なひとり住まい」という地面師に狙われ条件を整えていたのだが、警視庁はロクな捜査もしないまま、「事件性はない」と結論付け、無惨さを倍化させた。
アル中気味で奇矯な行動をすることもあった高橋さんが、失踪時の服装のまま路地の隙間で死んでいたのは「酩酊状態の死」というのが警視庁の見立てだった。
ではせめて、地面師事件の方は暴いてもらいたいと思っていたところ、APA事件が弾けたことで早期着手の可能性が出てきた。
APA事件の報道で幾つかのメディアは、逮捕された9名の容疑者のうち、唯一の女性である秋葉紘子(73)が、新橋4丁目案件にも絡んでいると報じた。
「秋葉容疑者は、一昨年、東京・港区の土地を巡っても自らが土地の所有者に成りすますなど、不正な取引に関与していたことが分かりました。パスポートの顔写真を張り替えて悪用していました」(ANNニュース)
高橋さんが所有する新橋4丁目の約170平方メートルの土地を狙った地面師は、15年4月、大田区大森のワンルームのアパートに高橋さんが移転したことにして、印鑑登録証やパスポートを偽造、成りすまし女を使って土地の名義を書き換えた。
その成りすまし女が秋葉容疑者だったというのである。
土地の所有権は、高橋さんから15年4月28日、「三京」(木更津市)に移ったのを皮切りに、「CKエージェント」(相模原市)→「平和興産」(千代田区)→「京栄商事」(港区)→「中央都市管理」(新宿区)→京栄商事→「NTT都市開発」(千代田区)と、わずか3ヵ月の間に、複雑な移転を繰り返している。
どこまでが「善意の第三者」なのかは不明だが、鍵を握る秋葉容疑者の逮捕によって、早い段階の事件化は間違いない。
「犯行の連鎖」は、APAホテル事件の前から始まっていた。
例えば、15年11月10日に関係者が逮捕された杉並区の地面師事件である。
マスコミ報道では首謀者だけだが、この時は、八重森和夫を筆頭に内田マイク・渡邉政志・大賀義隆・福田尚人・上村寿一・大島洋一・広井秀一・山本諭の9名が逮捕された。
このうち八重森、内田、福田の3容疑者は、多くの地面師事件に登場する“有名人”である。
また、今年2月14日には、墨田区曳舟の3階建て店舗兼住宅に住む独居婦人の土地をだまし取ろうとした地面師グループ6名(宮田康徳・亀野裕之・松元哲・岩佐彰巳・田村久彰・高橋利久)が逮捕された。
このうち首謀者は過去にも地面師事件を手がけていた宮田容疑者であり、そのパートナーというべき司法書士の亀野容疑者である。
宮田グループには別件もあり、それが今回のAPAホテル事件であり、2人は逮捕されたが、西五反田の医療法人を舞台にした地面師事件も手がけており、そこには松元容疑者も関与しており、こちらに事件が波及する可能性も十分だ。
11月8日のAPAホテル事件の容疑者を列挙すると以下の通りである。
宮田康徳・藤井明・永田浩資・亀野裕之・星野芳彦・秋葉紘子・白根学・松尾充泰・石川仁。
このうち秋葉容疑者が新橋4丁目案件に絡むのは前述の通りだが、秋葉容疑者が五反田「海喜館事件」の女将・海老澤某女(今年6月死去)の成りすまし犯?という説もあり、そうなると「あの『積水ハウス』さえだまされた」と、大きな話題を呼んだ海喜館事件に波及する可能性がある。
いずれにせよ、多数の地面師事件を抱え、水面下で捜査してきた捜査2課の地道な努力が、関係者の大量逮捕と収集してきた情報の蓄積によって大きく実っており、警視庁の人事異動を機に”火砕流”のような捜査となりそうである。【巳】
WEEKLY NET MAGAZINE 【週刊0510】
(☚wikipedia)
老害排除か保身クーデターか――。
「積水ハウス」で発生した社長、会長交代劇の真相は、報道だけでは判然としない。
会社側の公式発表によれば、1月24日の取締役で決まったのは、66歳の阿部俊則社長(現会長)から52歳の仲井嘉宏取締役(現社長)への経営刷新人事であり、その流れに沿って76歳の和田勇会長(現取締役相談役)が身を退いた、というものである。
しかし、和田氏は「(五反田で発生した地面師による)詐欺事件の調査対策委員会の最終報告書では、『阿部氏の責任が重い』と記されており、これを受けて退任を求めたら、阿部氏から私の退任を求める緊急動議が出た。地面師に引っかかった自分たちの責任を消すためにクーデターを起こした、という感じだ」と、「日本経済新聞」に答えている。
どちらの発言が正しいのか。
「和田氏の言っていることが本当です。調査対策委員会は、和田氏が委嘱したものですが、五反田の土地を決裁したのは阿部氏であり、『社長直轄案件』となったことで現場が、怪しい物件であることに気が付きながら、契約に向けて突っ走ってしまったのです。誰か責任を取るとすれば、当然、阿部氏です。でもそうなると、株主代表訴訟のリスクにもさらされるということで、取締役会までに阿部氏は票固めをして、逆に自分を下ろそうとした和田氏のクビを取ったのです」(住宅業界事情通)
平仄が合うのは、9月7日に調査対策委員会を立ち上げ、1月24日、同委員会から「最終報告書」を受け取りながら、それを公表していないことだ。
この事件は、「天下の積水ハウスともあろうものが~」と、あらゆるメディアが報じ、ワイドショーにも取り上げられたことで「地面師」なる一般人には馴染みのない詐欺師の存在を、主婦層にまで知るしめることになった事件である。
偽造したパスポートと印鑑証明を用意、所有者に成りすました女の“三文芝居”に63億円も支払ってしまった(そのうち55億円は10行に分けて送金され、直後にそれらの口座は凍結されたので実質的な被害は8億円との指摘もある)「積水ハウス」は、その経緯を株主や投資家に説明する義務がある。
ところが、「積水ハウス」は公表しない。
1月24日の社長交代記者会見で、新社長に決まった仲井取締役は、地面師事件との関係を問われて、「まったく関係ない」と、言い切った。
阿部氏に付き、和田氏を放逐する側に回ったのだから当然だが、2月20日、和田氏が日経に真相を暴露しても、報告書を明らかにしない事態が続いている。
「弁護士や社外取締役で構成される調査対策委員会が、自分たちの結論が無視されたうえ、委嘱してきた和田氏のクビを切ってしまった現経営陣に反発しているんです。4月26日の株主総会に向けて、今回の人事を覆す手立てはないかと、いろいろ画策しています。それがわかっているから、会社側も下手に動けないのです」(前出の事情通)
東京・五反田の「海喜館」という老舗旅館は、3代目を継いだ海老澤某女が、養父母の残した旅館を自分の代で潰したくないと、ひとりで守り抜いてきた。
身寄りはなく独り身の女性が持つ抵当権がまったくついてない“真っさら”な約600坪。不動山ブローカーや地面師たちの間では超有名物件で、売却話が流れれば、疑わない方がおかしい代物である。
そこに上手くはめ込んだのは、小山某、土井某、前野某といった連中で、金野某女なる成りすまし女を用意、「積水ハウス」にパイプのある「IKUTAホールディングス」(事件当時の本社所在地は小林興起・元衆院議員の千代田区内の事務所内)に話を持ちかけ、金野某の本人確認に代理人弁護士を立てることで、「積水ハウス」の担当者と(積水側の)司法書士を騙し、4月24日、売買契約に持ち込み、手付けの14億円を手に入れた。
警視庁は捜査に着手しているものの、「IKUTAホールディングス」も小山某らも、「自分も金野が海老澤さんと信じた」と言い張り、金野某の行方が知れないという隘路に陥っている。
阿部氏の責任は、単に騙されただけではない。
4月24日から6月1日の最終決済日に残金49億円を支払うまでに、地面師工作から外された不動産ブローカーのM氏や、海老澤某女の関係者らが、「これは詐欺事件であり、所有権移転は無効だ」という手紙を出して警告しているのに無視し続けたのも迂闊の一語では済まされない大チョンボである。
「せめて私らに、(パスポートの)写真を見せて確認してくれたら、詐欺だとわかったのにね」と、町内会の人が驚くのは当然の反応で、にもかかわらず誰も責任をとらないというのも、2兆円企業の名が泣くおかしな話である。【戌】
2018年3月9日配信「積水ハウスで発生したクーデターの真相と海喜館地面師事件の行方」<事件>
2018年3月3日配信<0510archives>「APA事件摘発以降も続く“地面師捜査”の行方?」<事件>
地面師の話題が尽きない。
新橋白骨死体事件、史上最高63億円詐欺の海喜館事件、そして容疑者が逮捕されたAPAホテル事件……。
新橋4丁目に自宅と合わせ10億円の資産を持つ高橋礼子さんが、昨年10月、地面師に土地を収奪されたあげく、白骨死体となって発見された事件は、「資産家で身寄りのない孤独なひとり住まい」という地面師に狙われ条件を整えていたのだが、警視庁はロクな捜査もしないまま、「事件性はない」と結論付け、無惨さを倍化させた。
アル中気味で奇矯な行動をすることもあった高橋さんが、失踪時の服装のまま路地の隙間で死んでいたのは「酩酊状態の死」というのが警視庁の見立てだった。
ではせめて、地面師事件の方は暴いてもらいたいと思っていたところ、APA事件が弾けたことで早期着手の可能性が出てきた。
APA事件の報道で幾つかのメディアは、逮捕された9名の容疑者のうち、唯一の女性である秋葉紘子(73)が、新橋4丁目案件にも絡んでいると報じた。
「秋葉容疑者は、一昨年、東京・港区の土地を巡っても自らが土地の所有者に成りすますなど、不正な取引に関与していたことが分かりました。パスポートの顔写真を張り替えて悪用していました」(ANNニュース)
高橋さんが所有する新橋4丁目の約170平方メートルの土地を狙った地面師は、15年4月、大田区大森のワンルームのアパートに高橋さんが移転したことにして、印鑑登録証やパスポートを偽造、成りすまし女を使って土地の名義を書き換えた。
その成りすまし女が秋葉容疑者だったというのである。
土地の所有権は、高橋さんから15年4月28日、「三京」(木更津市)に移ったのを皮切りに、「CKエージェント」(相模原市)→「平和興産」(千代田区)→「京栄商事」(港区)→「中央都市管理」(新宿区)→京栄商事→「NTT都市開発」(千代田区)と、わずか3ヵ月の間に、複雑な移転を繰り返している。
どこまでが「善意の第三者」なのかは不明だが、鍵を握る秋葉容疑者の逮捕によって、早い段階の事件化は間違いない。
「犯行の連鎖」は、APAホテル事件の前から始まっていた。
例えば、15年11月10日に関係者が逮捕された杉並区の地面師事件である。
マスコミ報道では首謀者だけだが、この時は、八重森和夫を筆頭に内田マイク・渡邉政志・大賀義隆・福田尚人・上村寿一・大島洋一・広井秀一・山本諭の9名が逮捕された。
このうち八重森、内田、福田の3容疑者は、多くの地面師事件に登場する“有名人”である。
また、今年2月14日には、墨田区曳舟の3階建て店舗兼住宅に住む独居婦人の土地をだまし取ろうとした地面師グループ6名(宮田康徳・亀野裕之・松元哲・岩佐彰巳・田村久彰・高橋利久)が逮捕された。
このうち首謀者は過去にも地面師事件を手がけていた宮田容疑者であり、そのパートナーというべき司法書士の亀野容疑者である。
宮田グループには別件もあり、それが今回のAPAホテル事件であり、2人は逮捕されたが、西五反田の医療法人を舞台にした地面師事件も手がけており、そこには松元容疑者も関与しており、こちらに事件が波及する可能性も十分だ。
11月8日のAPAホテル事件の容疑者を列挙すると以下の通りである。
宮田康徳・藤井明・永田浩資・亀野裕之・星野芳彦・秋葉紘子・白根学・松尾充泰・石川仁。
このうち秋葉容疑者が新橋4丁目案件に絡むのは前述の通りだが、秋葉容疑者が五反田「海喜館事件」の女将・海老澤某女(今年6月死去)の成りすまし犯?という説もあり、そうなると「あの『積水ハウス』さえだまされた」と、大きな話題を呼んだ海喜館事件に波及する可能性がある。
いずれにせよ、多数の地面師事件を抱え、水面下で捜査してきた捜査2課の地道な努力が、関係者の大量逮捕と収集してきた情報の蓄積によって大きく実っており、警視庁の人事異動を機に”火砕流”のような捜査となりそうである。【巳】