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今回の事件はコインチェックだけの問題ではないことも事実だ。仮想通貨取扱業者は、過去にも攻撃されて仮想通貨を盗まれた事件を数多く起こしている。現在営業している取扱業者の中にも、同じような問題を抱え、顧客からの預り資産をリスクにさらしている業者がいる可能性が指摘されている。現在の仮想通貨業界は、統一的なセキュリティ基準が存在せず、経営体制やガバナンス、セキュリティ対策の充足状況に関する情報開示も行われていない。
我が国は、他国に先駆けて仮想通貨取扱業者を規制する法律を施行し、業者の登録制度を運用してきた。それは資金洗浄やテロ資金調達を防止するためだった。
現在の仮想通貨法は、取扱業者が多額の顧客資産を預かる存在であることを意識して、十分な利用者保護の仕組みを備えているものではない。法律制定時には想定されていなかった状況が生じている以上、業界は自ら自主的なルールを設け、セキュリティ対策の基準を制定し、利用者の不安の払拭に努めることが求められている。今回のような事件が再び起きないように、常に対策を最新のものとし、徹底させることも必要である。
2019年のG20首脳会議に向けて
今回の事件で誰もが不思議に思うのは、不正送金されたNEMが犯人のアドレスに送金されていることが確認できるのに、取り戻すことができない点だろう。もし銀行預金を舞台に起こった事件ならば、盗まれた大金がどこかの預金口座にあることが分かった時点で当局が差し押さえる。最終的には盗まれた人は返還してもらえる可能性が高い。
ビットコインが注目され始めた当初から、特殊な思想が背景にあることが指摘されてきた。信頼できる中央機関を決して置かないポリシーがそれで、「トラストレス」と呼ばれる考え方である。ビットコインは、こうした特徴を持つからこそ、法律や政治体制の違いによる国境の壁をやすやすと越えて、国際的な利用が可能になたと考えられている。
信頼できる中央機関を置く従来の仕組みは「トラスト」な世界と呼ばれ、我々は政府、中央銀行、裁判所といった信頼できる中央機関を前提に構成されている世界に住んでいる。ビットコインが普及したことで、トラストとトラストレスの両者が併存する状況が生まれた。