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ビットコインは「未来のお金」であり決済に使えるのでは─。実際には将来的にも決済に使われることは難しいのだが、こんな期待からビットコインの相場は高値が続いていた。イーサリアムもICOの基盤として急激に値上がりした。この2種類の仮想通貨が値上がりしたことで、それ以外の通貨も第2、第3のビットコイン、第2、第3のイーサリアムとして、値上がりが期待されていった。ほぼ無価値だった多くのアルトコインが一斉に値上がりを始めたのも2017年5月だった。
ある程度名の知られた仮想通貨が一通り買われて値上がりすると、知名度が低く価格もついていないような仮想通貨にすら値上がりが伝播していった。株式相場が上昇基調にあるときに起こる、「低位株の循環物色」のような現象が発生したものと考えられる。
2017年の仮想通貨の大相場の最後を飾ったのは、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)やシカゴ・オプション取引所(CBOE)におけるビットコイン先物の上場である。先物が上場されれば、仮想通貨も正式な金融商品と認められる。金融機関や機関投資家の膨大な投資資金が市場に流入するかもしれないとの期待が、ビットコインの価格をわずか3週間で1万ドルから2万ドルに押し上げた。
コインチェック事件の爪痕
しかし2018年に入ると、仮想通貨の市況は調整局面に入る。ビットコインの価格も、全仮想通貨の流通総額がそれぞれピークとなり、わずか1カ月で相場は3分の1に下落。現在は、そこから乱高下を繰り返している。
相場下落の一つの原因は、仮想通貨法の登録が済んでいない“みなし業者”だったコインチェックが起こした事件だ。時価580億円相当の仮想通貨NEMを不正に流出させ、世間を騒がせた。何者かが同社の管理する電子署名用の秘密鍵を不正に利用し、顧客から預かり同社が保有していたNEMを全てほかのアカウントに移動させる手続きをしてしまった。
コインチェック事件はなぜ起こったのだろうか。顧客の大事な資産である仮想通貨を預かる立場として、コインチェックの体制は不十分だった。26万人の顧客から預かったNEMを、同社は一つの大きな“財布”に入れていた。その財布は、常時インターネットに接続され、資産の出し入れが可能な状態にあった。その財布から仮想通貨を外部に移転する手続きの安全性は、たった一つの暗号鍵によって守られていた。この暗号鍵の管理がずさんだった。犯人は鍵を不正に利用し、580億円相当ものNEMを自分あてに送金したのである。