日本政府が「拉致の可能性を排除できない」としている神戸市の元ラーメン店店員の金田龍光さん(失踪当時26)について、北朝鮮が2014年の日本側との接触で、「入国していた」と伝えていたことが25日、分かった。日本政府関係者が明らかにした。日本側は本人と面会しておらず慎重に対応、本人名での出国記録はないなど拉致を裏付ける明確な証拠がなく、被害者に認定していない。
北朝鮮はこの時期、日本政府が拉致被害者に認定している田中実さん(同28)の「入国」も日本側に伝えてきたことが既に判明している。金田さんの入国情報の伝達時期は、北朝鮮による拉致問題の再調査などを盛り込んだ「ストックホルム合意」を両国が交わした14年5月より前だった。日本側は揺さぶりの可能性もあるとみて警戒していた。
米国や韓国との首脳会談に臨む決断をした北朝鮮とのトップ交渉を模索する安倍晋三政権がどう対応するかが注目される。日本の外務省幹部は共同通信の取材に「コメントできない」と語った。
日本政府関係者によると、本人の帰国の意思は不明で、平壌に住んでいると伝えられたという。
金田さんは、田中さんと同じラーメン店の店員だった。1979年11月ごろ、前年にオーストリアの首都ウィーンに向けて出国した田中さんに会うため「東京に打ち合わせに行く」と周囲に語ったまま、消息を絶った。
金田さんはその直前、「オーストリアはいい所だ。仕事もあるのでこちらに来ないか」などと書かれた差出人が田中さん名義の手紙を受け取っていたという。在日韓国人の金田さんは、田中さんと同じ児童養護施設で育った。
拉致問題の再調査を巡っては北朝鮮がストックホルム合意に基づき調査委員会を発足したが進展はなかったとされた。その後、核実験やミサイル発射を受けた日本の独自制裁に反発し、16年2月に調査委員会を解体した。
政府が、拉致の可能性を排除できないとしているのは883人。支援組織は、拉致の可能性が否定できない「特定失踪者」として情報提供を呼び掛けている。(共同)