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農業×クリエイティブ

クリエイティブな仕事、と言うとデザイナーとかミュージシャンとかアーティストを思い浮かべる人が多いと思います。

ただ僕は、実は「農家」もまたクリエイティブな仕事なのではないかと思っています。

今回お話を聞かせてもらった和久田さんは、年間30種類の野菜を育てている農家です。さらに宮津市で初めて新しく就農する人の研修の受け入れ先として手を上げた人でもあります。

たとえばこれ、和久田さんが手に持っている香ばしい匂いがするものの正体はカニの殻。地元の料理店で出されたカニの殻をバーナーであぶってカリカリにしたものです。これを肥料として畑に撒いているそうです。

宮津の農家の中で、こんなことをしているのは和久田さんだけ。でもこうすることで、土中の微生物たちがカルシウムなどを得ることができて野菜が元気になるんだとか。

農業×カニの殻

一見すると全く関係のないものもこうして結びつけて利用する。しかもカニの殻は海が近い宮津だから簡単に手に入るモノ。

新しい組み合わせで課題を解決する、という考え方はとてもクリエイティブなことだと思います。他にも、、、

和久田さん:例えば根こぶ線虫という虫にやられると野菜の根っこにコブができてしまいます。

そうすると野菜は根をはれなくなって枯れてしまいます。この線虫にやられたら土壌消毒をします。そしたら、まず土をまっ平らにしてから薬を打って、真夏に1ヶ月閉めきって温度を上げて消毒をして、そこから善玉菌を流して土を起こす。
最後にハウスを開けてガスを出して、微生物をまいて起こしたら土を綺麗にできますが、大変です。

そんな訳で今年は小太りダイコンという線虫にやられにくい野菜を植えて、そっちに線虫が移動した隙に別の野菜を育てるオトリ作戦を試してみようかなあ と思っています。

一人の消費者が「農薬を使わないで欲しい」と語るのは簡単です。ですがそれを実現するのはとても大変です。
無農薬で育てるために、オトリ作戦を考える、なんていうのも、とてもクリエイティブな考え方なのではないでしょうか。

さらに和久田さんがすごいのは、このクリエイティブな考え方が「野菜を育てること」だけに留まらないことです。

今回のインタビューの主題は「人を育てる」ということ。前置きが長くなりましたが、学生たちが聞いた「働くこと」と「人を育てること」の関係について紹介します。

今の時代、一匹狼ではやっていけない

新しく就農する人(農家になる時は就職ではなく就農と言います)の受け入れ先として、宮津市で最初に手を上げた和久田さん。

半年間毎日、朝8時半から夕方5時まで研修生と一緒に農作業をして大変だったそうですが、そもそもなぜ受け入れをしたのでしょうか。

「研修生を受け入れようと思った理由は何ですか?」

和久田さん:宮津の農業が5年後、10年後どうなっているのかを考えた時に、農業者が徐々に高齢化していって耕作放棄地が増えていくのは残念かなと思って。

今の宮津を見ていると10年したらだいぶ離農する人が多いんです。だから1人でも2人でも入ってもらえたらと思って受け入れを始めました。

農業の世界でも後継者不足や、高齢化が問題になっています。そんな中、若い人が農業を始める、ということに加えちゃんと技術を継承することも大切です。

最初は「宮津の未来のために」と思って受け入れを始めた和久田さん。ですが和久田さん自身にも小さな変化が起こったそうです。

宮津では農家同士がお互いに作業をしあうということは今まであまりなかったそうです。しかし和久田さんとその教え子の関係は相互扶助的なもの。例えば新しくビニールハウスを建てる時は和久田さんが手伝うなどお互いに助け合う、ということが始まったそうです。

和久田さん:研修で来た子たちも今はもう独立してそれぞれの方法で農業しています。だから教え子という感じは今はもうなくのうてきとるんです。むしろ直売所が一緒やさかいに「売れとるか?」ってお互い刺激をし合えるくらい、今では一人の農業者として見ています。

ただ同時に、今の時代はお互いに助け合わないとあかん時代なんかなって。高齢化した時代は一匹狼では無理なんじゃないかと。そんなことも思ったりします。

まだまだ「教える人」が足りない

和久田さんの元で研修を受けた人がすでに2人、宮津に移住して農業を営んでいます。最初の一人は昨年から地元のネギ部会の部会長を務めるなど活躍中。ただ宮津にはまだまだ「教える側」の人が足りないと和久田さんは言っていました。

和久田さん:昔の価値観で言うと教えることを良しとしないって考え方があって受け入れるなんてことは全然考えておらん人が多いように思います。

あったとしても息子に継がすとか、そういう考え方。でも今の農家の息子さんはほとんどが会社勤めで、親の農業見てえらい大変なもんやと思っている人が多いんです。

農業は自分の好きなように切り盛りしてええけど、弁当一つ持って会社でお給料もらう生活と比べたら全然違いますわな。せやから息子が継がんなら自分の代でたたもう思っている人も多いんです。

確かに「技は見て盗め」「黙って付いて来い」という姿が正しいとされた時代はありました。しかし当時とは社会の形や価値観も変わった現代。必ずしも同じような姿勢が正しいわけではないのではないか。
そんなことを考えさせられるお話でした。

和久田さん:京丹後の方とかは若い子が多いんです。彼らと会う機会があるとやっぱり若い子はバイタリティがあってパワーをもらえるんです。

教えるっていうのは必ずしも自分の技術を外に出すだけではないんです。自分も学ぶことがあったり、パワーをもらえたり、お互いにそういうメリットがあることだっていうのを周りの人に気づいてもらえると宮津の農業ももっと良くなるんじゃないかと思います。

宮津の景色を変えないこと

県外から来る研修生を教えている和久田さん。その理由は宮津の農業の未来のためでした。しかし「息子さんには農業を継いで欲しいと思いますか?」と聞いてみると、少し意外な答えが返ってきました。

和久田さん:どうやろうな、あの子は花がしたいと言っています。宮津特産のストックという花の生産者が減っていて。

他には今務めている種苗会社から委託されていくとかなんやないかな。僕は農業を継いでくれんでも、畑を継いでくれる方が嬉しいと思っています。

これは少し意外な答えでした。宮津の農業のために、息子にも農業を継いで欲しいという答えが返ってくると思っていたからです。

ただ和久田さんの話を振り返ってみると、宮津の農業という広い視点と、和久田ファームの未来という身近な視点の2つを持っているのではないかと思いました。

宮津の農業の未来という視点では、宮津が将来どれだけ豊かな農業を続けられるかということを考える視点です。それは研修生を受け入れることや、他の農家の方がもっと積極的に受け入れをしてくれたら嬉しいと、そういう考え方です。

一方ご自身の和久田ファームの未来という視点では、宮津の未来に何らかの形で貢献できればいいという考え方なのではないでしょうか。だから息子にも「農業」を継いでもらう必要はないけれど「畑」は継いで欲しい、という答えになった、そんな風に思いました。

編集後記

和久田さんの友人の農家で、間人(たいざ)という地域で営農している人は農林水産大臣賞を受賞したり、風力発電に取り組んだりしているそうです。そんな友人の話をしながら、
和久田さん:だいぶ上行っとんなー追いつけんな―

と言いながらも
和久田さん:でも僕にも目標はある
と目を細めて楽しそうに語っていました。

こんな風に自分たちの未来に対してできることをする。そんな考え方が地域で他に誰もしていないような工夫を思いついたり、次の世代を育てようと思ったりする原動力なのではないか。そんなことを感じた取材でした。

「和久田ファーム」の学生レポート

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齋藤和輝

齋藤和輝

ライター・木こり

1991年生まれ。そろそろ消える築地市場で青果の大卸の仕事を経て、ITベンチャーへ転職。編集者・ライターとしてキャリアを重ねながらも木こりとしての活動も続ける。 自分が一生美味しい物を食べ続けられる世界を目指して日々活動中。
齋藤和輝

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ライター・木こり

1991年生まれ。そろそろ消える築地市場で青果の大卸の仕事を経て、ITベンチャーへ転職。編集者・ライターとしてキャリアを重ねながらも木こりとしての活動も続ける。 自分が一生美味しい物を食べ続けられる世界を目指して日々活動中。