日本列島に春の訪れを告げる桜の開花が始まった。桜といえば「ソメイヨシノ」だが、後継品種への世代交代が進んでいる。全国のソメイヨシノが寿命を迎え始め、花が咲かずに木が枯れる伝染病がまん延しているためだ。後継は開花時期や色合いも似ていて遜色がないといい、関係団体は「自治体などに植え替えを推奨し、美しい桜が見続けられるようにしたい」としている。
東京都国立市の全長約1.8キロのさくら通りには1960年代、団地形成とともにソメイヨシノ約180本が植えられた。花見スポットとして市民に愛されてきたが、樹齢50年以上。幹が腐食して空洞になったものや、強風に耐えきれず倒木したものもある。
市は被害拡大を懸念し、2013年度から後継品種「ジンダイアケボノ」への植え替えに着手。21年度までに完了させる計画で、市道路交通課の担当者は「市民に親しまれてきた景観を守りたい」と話す。
ソメイヨシノは江戸時代、現在の東京都豊島区駒込にあった染井村の植木屋が「吉野桜」として販売。葉に先がけて一斉に花が咲くのが好まれ、全国に瞬く間に広まった。桜の名所づくりを進めてきた公益財団法人「日本花の会」(東京)は1962年の創設以降、200万本を超すソメイヨシノの苗木を各地に提供してきた。
だが同会が調べたところ、多くが「てんぐ巣病」にかかっていることが判明。てんぐ巣病の原因はカビの一種の菌で、伝染した枝は花が咲かず、枝の所々に多数の小枝がほうき状に群生する。放置すれば幹が枯れる場合もある。防除する薬品はなく、枝を切るしか方法はない。植えてから40年経過すると衰えも目立つようになるという。
そこで同会は2005年から、てんぐ巣病にかかりにくいジンダイアケボノと「コマツオトメ」の2品種への植え替えを推奨。同会主幹研究員の和田博幸さん(57)によると、2品種は花びらの形や咲く時期がソメイヨシノと同じ。「色合いはやや紅色が濃く、むしろ桜色に近いため、2品種の方がきれいという人もいる」という。
植え替えは各地で進む。横浜市金沢区の西柴地区にある約400メートルの桜並木は、10年に72本のジンダイアケボノに植え替えられた。東京都千代田区の国立劇場にはジンダイアケボノとコマツオトメが3本ずつあるが、00年の植え替え以降、病気になったことはない。同劇場によると、色合いがよく、花見客の評判は高いという。
ただ植え替えには苗木代や輸送費など含めると1本あたり20万円ほどかかり、作業に及び腰の自治体も多い。和田さんは「倒木の危険があることや引き続き桜を楽しんでもらうためにも、植え替えを進めてほしい」と話している。