第1章 青い衝撃・ブルーインパルス
第2話 桜木小鳥、着隊!
透きとおった淡い青色の冬空に爆音が鳴り響く。空に爆音を響かせたのは、三角形の隊形を組んだ、六機のT‐4中等練習機だ。虹のような
飛んでいったT‐4は、戦闘機パイロットを目指す航空学生たちが乗る機体だが、あの白と青のT‐4は、航空自衛隊のアクロバット専門の飛行部隊、ブルーインパルスのパイロット、ドルフィンライダーだけが乗れる機体なのだ。
ぱっちりと澄んだ蜂蜜色の双眸を、星のように輝かせながら、一人の女性が空を見上げていた。彼女は基地にやって来た観光客ではない。制帽と紺色の制服、胸元に輝く銀色のウイングマークが、彼女が航空自衛官である証拠だ。彼女の名前は
しばらくすると爆音が近づいてきた。真っ直ぐに飛んできたのは、単独になったT‐4で、青色の垂直尾翼に5のナンバーが描かれている。とすると第1
興奮で胸を高鳴らせる小鳥の前で、第1単独機の5番機は、水平飛行からのインメルマンターンで、一気に上昇していく。次に5番機は、二回のスプリットSで降下すると、スモークで垂直に巨大な8の字を空に描いてみせた。スモークで巨大な8の字を描く、バーティカル・キューバン・エイトを終えた5番機は、青空に吸い込まれるように見えなくなった。
(父さんが言っていたとおりだわ。まるで流れ星が駆け抜けていったみたい――)
冬風に乗って飛び去った5番機を見送った小鳥は、熱い息を吐くと独りごちた。「ブルーにすごいパイロットがいるんだぞ!」と、勇樹から何度も聞かされた影響なのか、顔も名前も知らない5番機パイロットに、いつしか小鳥は憧れるようになっていた。
名前のとおり、流れ星が駆け抜けるような軌跡で、5番機パイロットの彼は空を飛ぶのだと、勇樹はまるで自分のことのように自慢していた。それいらい、リードソロの飛行を思い出すだけで、小鳥の胸は恋する乙女のように、熱く燃えてしまうのだった。
「もしかして、道に迷われたんですか?」
いきなり声をかけられて驚いた小鳥は振り向いた。すると警務室のドアが開いていて、外に出ている若い男性隊員がこちらを見ていた。どうやら彼は、ブルーインパルスの飛行訓練に目を奪われていた小鳥を、道が分からなくて戸惑っているのではと思い、心配になってわざわざ外まで出てきたらしい。小鳥のところに歩いてきた隊員は、保育士のように優しく微笑んだ。
「よければ誰か部隊の人を呼びましょうか?」
「松島には何度か来たことがありますから、だっ、大丈夫ですっ! ご心配をおかけしてすみません!」
「そうですか。なにか困ったことがあったら、遠慮せずに声をかけてくださいね」
小鳥に一礼した彼は警務室に戻っていった。
――赴任して早々に醜態をさらすなんて情けない。「ブルーインパルスのパイロットを目指す、自衛官たちの鑑となるよう、しっかり訓練に励みなさい」と、松島基地司令の安藤空将補に言われたばかりではないか。ブルーインパルスのこととなると、小鳥は熱くなってしまい、周りが見えなくなってしまうのだ。
それに自分は、空自で初の女性ドルフィンライダーなのだから、もっと兜の緒を締めなければ。緩んでいた気持ちを引き締めた小鳥は、力強く一歩を踏み出した。
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