日本が現金払い主義からまるで脱せない理由

キャッシュレス化が進む世界から周回遅れ

送金手数料なども、コストの高い全銀ネットに代わるものが次々に出てきているが普及に時間がかかっている。仮想通貨を使った国際間の送金システムなどは、まだ法律も整備されていない。三菱UFJフィナンシャル・グループが進める「MUFGコイン」や、みずほフィナンシャルグループが推進する「Jコイン」などが、今後稼働を始めれば日本経済にも大きなインパクトを与えるかもしれない。

ブロックチェーンによる個人情報管理などの推進が進めば、日本の非効率的な行政サービスも、飛躍的に改善されるはずだ。こうした個人情報の新管理システムの構築化は、現金流通の進捗具合と大きく関係している。

現金の計算や管理に惑わされなくなれば、官民ともに膨大な計算事務からも自然に解放されるはずだ。

決断できない日本銀行?

問題は、これだけキャッシュレス決済が進行している海外と比較して、なぜ日本ではキャッシュレス化が遅れるのか。その理由は、銀行の経営基盤にかかわる事情があるからだ。周知のように、日本にはATMが街のあちこちにあって、気軽に現金を引き出すことが可能だ。昭和の時代には超便利になったと思ったものの、考えてみれば預金者は、1日の大半の時間は1回あたり108円~216円のATM手数料を払いながら、自分のおカネを引き出している。

言い換えれば、日本の銀行の経営基盤には、このATM手数料が重くのしかかっている。日銀もそれを理解していて、韓国や中国のような急速なキャッシュレス社会のインフラ整備には手を付けられない。

実際に、地方銀行の平均的な純利益の額は約147億円(2016年3月期)だが、その約13%はATM手数料で稼ぎ出している。ちなみに、ATM手数料だけで利益を稼いでいるセブン銀行では、純利益261億円のうちの99%をATM手数料で稼いでいる。

最近になって、メガバンクや地方銀行が相次いでATM手数料や両替手数料の値上げに踏み切っているが、アベノミクスによる大規模緩和やマイナス金利政策の影響で、収益構造の見直しが迫られている。ATMなどの手数料収入ぐらいしか収益拡大の手段がないのかもしれない。

安易にキャッシュレス化を進めてしまうと、銀行経営の悪化に直結する可能性が高い。マイナス金利や大規模緩和で経営基盤が揺らいでいるところに、キャッシュレス社会への移行を急ぐわけにはいかないわけだ。フィンテックの進展によって、2025年までに銀行の収益が最高で4%喪失するという予測も経産省のレポートで発表されている。

とはいえ、2020年の東京五輪にはキャッシュレスに慣れた外国人観光客がどっと押し寄せる。その時点で、日本がいまだに現金流通主体の社会であることが知られてしまうわけだ。いずれにしてもキャッシュ率2%といったスウェーデンのようになるには、まだ何十年とかかりそうだ。現金を流通させる社会インフラがいかに非効率なものであるか……。

そんな認識すら、企業経営のトップにさえ浸透していないのかもしれない。とは言え、いまこの時期に仮想通貨市場に進出しようという企業は、少なくともキャッシュレス社会の未来が見えていることは間違いないだろう。

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  • NO NAME0a12487369e1
    キャッシュレスシステムは「タダ」ではありません。その維持費用は誰かが負担しなければなりません。
    通常は、小売事業者が負担させられます。「カード手数料」などと言われるものですが、消費者からは見えないコストなので、知らない人が大多数です。

    日本でキャッシュレスが普及しないのは銀行のせいではありません。小売事業者のせいです。
    日本では偽札がなく、現金が信用できるため、コストを払ってまでキャッシュレスシステムを導入する意味がありません。
    日本の商店で「カードお断り」があるのは、ただでさえ低い利益から余計なコストなど払いたくないからです。

    外国では現金が信用できず、偽札を掴まされて損害を被る確率が高いため、小売事業者がコストを払ってもキャッシュレスシステムを導入する動機があります。

    この記事がトンチンカンなのは、その点をまるで認識できていないところにあります。
    up239
    down60
    2018/3/24 15:26
  • NO NAME118849b70f6c
    自分が電子決済の便利さ、有利さを知りつつ、やはり現金を使用するのは、個人情報と金の動きが完全に第三者の手に渡る恐ろしさからだね。
    ここで唱えられている電子決済制度は、あまりに管理者側が全知全能過ぎて危険だと思う。
    管理システムへの侵入改竄で金を騙し取られる程度ならまだしも、この先国家体制が中国、ロシアのような方向に転ぶことがあれば、異論を唱えると行動を全て追跡、財産も凍結、没収ということも有り得る。
    電子決済を普及するなら個人情報とは切り離した匿名制を原則とし、犯罪、不正との関係が判明した場合のみ、捜査により凍結、個人情報との紐付けを可能にするほうが良いのでは。いずれにせよ管理者側が口座を自由に操れることは変わらないのだから。
    up179
    down43
    2018/3/24 13:31
  • NO NAME43024c01afc8
    現金主義がまだまだ根強いのは、日本が海外に比べて、安全な国である証拠ではないかな。それと、ニセ札も少ない。

    ジュースなどの自販機も多いし、ATMも海外に比べたらヤワな作りになってる。アメリカでは、ビルの壁に埋め込んであるくらいだからね。それと、海外じゃ現金持ち歩くのは怖い。
    up186
    down51
    2018/3/24 11:43
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