玄海原発避難計画、風を軽視 放射性物質は北へ南へ 経路は一方向、再稼働で住民に不安

対岸の玄海原発を眺めながら、事故時の不安を語る住民たち=18日午後、佐賀県唐津市の馬渡島
対岸の玄海原発を眺めながら、事故時の不安を語る住民たち=18日午後、佐賀県唐津市の馬渡島
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 賛否が渦巻く中、6年余り全基停止していた九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)が23日、再稼働した。福島第1原発事故を教訓に、原発の安全対策工事が進められてきたが、問題は事故時の避難計画の実効性だ。放射性物質を運ぶであろう風向きが南へ、北へと変わっても、自治体が定めた避難路は原則、一方向と定められている。住民からは不安の声が漏れている。

 玄界灘に浮かぶ同県唐津市の馬渡島(まだらしま)。人口約350人の島は原発の北西約8キロにあり、対岸に原発が見える。「再稼働するからには、避難も万全でないと」。区長の牧山隆雄さん(71)がくぎを刺す。

 市の避難計画では、事故時、住民は県や市が準備する船舶などで本土の唐津港に向かい、車で県南部に逃げる。海上では原発を右に眺め、一時的に近づくようなルートだ。

 2月中旬に吹いた春一番は南西寄り。今後、夏にかけて南風が多くなる。「唐津港ではなく、遠回りして博多港に逃げればいいのに」と牧山さん。さらに言えば、南風が吹いている場合、逆方向の長崎方面に避難した方が合理的に見える。

 市によると、県外避難も検討したが、船に乗り続ける負担や被ばく検査の態勢を踏まえ、「最善」と判断したという。

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 では、北寄りの風が吹くと-。大部分が30キロ圏に位置する佐賀県伊万里市。避難計画では、住民は自家用車などで武雄市や鹿島市など県内3市2町に逃げる。

 「わざわざ、原発から吹く風の方向に向かうことになる」。伊万里市山代町区長会の吉崎弘会長(74)は懸念を訴える。避難所となる武雄市の学校は、玄海町の南東方向。原発からは北寄りの風にさらされる位置だ。

 実際、2011年11月の原子力防災訓練で、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」が予測した放射性物質の拡散先が、多くの避難所と重なっていた。

 「事故はいつ起きるか分からず、風向きも変わる。もっと柔軟に避難できれば…」。吉崎さんは漏らす。

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 唐津市や伊万里市と同様に、福岡県や長崎県の自治体も避難計画に風向きを反映していない。なぜか。

 「住民が覚えやすいように、避難経路や避難所は一つが望ましい」と佐賀県消防防災課は説明する。避難時には放射線監視装置「モニタリングポスト」を用いて、放射線濃度を測定。放射性物質を大量に含む放射性プルーム(雲)が通過するのを待ち、移動する。放射線濃度が低い状況で逃げるので「健康への影響はない」という。

 ただ、関西電力美浜原発などが立地する福井県は、風向きや道路事情に応じた二つの避難ルートを設定している。

 災害リスクに詳しい広瀬弘忠東京女子大名誉教授は「モニタリングポストを満遍なく設置しているわけでなく、局地的に濃度が上がるホットスポットもある。測定値が出るころには、すでに被ばくしている危険性が高い。気象条件を考慮しない避難計画は楽観的だ」と疑問を呈した。

=2018/03/24付 西日本新聞朝刊=

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