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傷心のシリア人記者が訴える“ギャング国家”の悲惨な現実「国民は家畜なのです」

[2018年03月22日]

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ロシア主導で進められるシリア和平協議に出ている反政府派は「フェイクの反政府派」だと語るナジーブ氏

内戦が続くシリアの和平協議がロシア主導で行なわれている。1月末にソチで開催された協議では、反政府派の主要勢力は参加を拒否し、アサド政権を支持してきたロシアに対する不信感をあらわにした。

世界にテロの脅威を与えてきたISが昨年末に「壊滅」して以降、シリア情勢を伝えるニュースは減ったように見えるが、こういった状況を日本在住のシリア人ジャーナリストはどう見ているのか?

「週プレ外国人記者クラブ」第111回は、「リサーラ・メディア」代表ナジーブ・エルカシュ氏に話を聞いた。

***

―ロシア主導で行なわれた和平協議を、ナジーブさんはどう見ていますか?

ナジーブ 優位に立つ側を超大国が後押しするという協議は非常にバランスに欠け、これでシリアに平和を築くのは不可能でしょう。イスラエルとパレスチナの和平交渉もそうですが、世界史をひも解いてみても、このような形で平和になった例はひとつもないと思います。

和平交渉というのは、お互いに歩み寄って妥協点を見つけないといけませんが、そうなっていません。ロシアは1月の会議を強引にソチで開催させましたが、これは完全に勝者がやっている茶番でした。

昨年、ジュネーブで行なわれた国連主導の和平協議でも反政府派には不満があって、国連も「アサド政権側が優位だからしょうがない」と諦めているようなところがありましたが、和平交渉の基本的な枠組みはありました。しかし、ソチの会議に“反政府派の代表”として出席した人は、本当の反政府派ではないのです。

例えば、かつてポルノに近い映像作品などに出て女性解放運動団体に批判されていた女優が反政府派の代表として出席していましたが、彼女には反政府活動をした過去などないどころか、アサド大統領を支持するデモに出て旗を振っていた人物です。このような人たちを反政府派の代表だと偽って和平協議などと言われても、もう笑うしかないです。

恐ろしいのは、ソチ会議への参加を拒否した反政府派も、それをサポートしている国々も「シリアはもう、ロシアにあげましょう」というのが暗黙の了解のようになっていることです。反政府派の政治団体に圧力がかかっているのです。そういう人たちも今後、和平協議に参加するかもしれませんが、彼らはアサド政権と戦っている人たちを代表しているわけではありません。サウジアラビアのお金、カタールのお金、トルコのお金で動いているグループです。

シリア政権は昔から偽物の“反政府派”を自分で育て、飾りのような政党や人物を都合よく使ってきました。2010年に始まった「アラブの春」を機にシリアでも翌年、民主化活動家たちが現れましたが、彼らは政府に拘束され、拷問され、殺害され、国外に亡命するしかなかった。そこで政府は「国内反政府派」と「海外の反逆者」という言葉で区別し、大統領選挙法も変え、候補者に「選挙までの10年間の国内滞在」という条件をつけました。さらに事実上、その「国内」から反政府勢力の地域も外され、まさに政権のコントロール下にいる人々しか候補者になれない状態なのです。

―そういった状況を、シリア国民は見抜いているんですか?

ナジーブ 完全に見抜いています。前回の大統領選(2014年)に出たアサド大統領の対立候補たち、ハッサーン・アンヌーリやマーヘル・ハッジャールらもそうです。彼らもマトモな政治経験もないのに急に大統領候補として登場してきたんです。何回かTVインタビューに出ていましたが、その内容は笑うしかないものでした。選挙ではアサド大統領が88.7%を得票し、次点はアンヌーリで3.4%、ハッジャールは2.3%でした。形だけの選挙で、反政府派が掌握する地域では投票が実施されませんでした。


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